『葉隠』、宮本武蔵、そしてスティーブ・ジョブズへたゆたう
戦争中に、従軍記者をしたり、兵士相手に講演をした小林秀雄は戦後、軍国主義プロパガンダに加担したとして、ずいぶん叩かれた。同様に、宮本武蔵の言葉や、『葉隠』における武士道の考え方が戦争中の美徳として語られたことから、戦後はいずれも非難の的となった。
『葉隠』が書かれる約70年前、宮本武蔵は『五輪書』で、すでにその危険性を指摘している。
徳川の時世になって40年あまり。合戦がなくなり、武士は官僚となり、剣術は武芸となった。実戦の経験がない若い武士は、戦いや死を観念的に考えがちだ。だからこそ宮本武蔵は「何時にても、役にたつやうに稽古し、万事に至り役にたつやうにおしゆる事、是兵法の実の道也」と説き、実戦に役立つ兵法として『五輪書』を記した。
その後、やはり武士の心得として『葉隠』が記されている。そのなかの「武士道と云は死ぬ事と見付たり」という部分が問題となった。というのも、ここを先の戦争で特攻の兵士たちが、志を果たすためなら死をも厭わないと解釈したことから、死を肯定・礼讃する根拠として用いられた。
アップルの創始者、スティーブ・ジョブズが2005年6月12日、スタンフォード大学の卒業式で語った言葉だ。武士道とは一切関係ない。しかし『葉隠』の「武士道と云は死ぬ事と見付たり」と通じる。死を意識して物事に向き合えば、より身が入り、うまくいく。死を意識するから生が輝くのだ。生と死の二つを提示されたら、迷わず死を選ぶとい考え方ではない。
宮本武蔵や小林秀雄が、スティーブ・ジョブズの言葉を聞いたならば、何というだろうか。
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