言葉のないところに歴史はない
アランの言葉を引いて小林秀雄はみずからの歴史「観」を語ったが、ここには二重の意図があるように思う。
一つめは、小林秀雄が歴史というものを、どのようにとらえているのか、その見方そのものだ。
いくつかあるドストエフスキー論であれ、『ゴッホの手紙』であれ、本居宣長論であれ、小林秀雄の方法論は一貫している。対象となる事柄を徹底的に調べ、文章を読み、その人物ならどう考えたか、どのような言葉を発したか、それが自分の内にありありと姿を現し、声が聞こえてくるまで、考える、想像する、思い出