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顧客への価値創造につながる商品・売場・DX~講演内容、まとめました「流通大会2024」<1日目>

こんにちは。「流通大会2024」1日目は会場周辺に雪が降り積もるなかでの開催となりました。この日の講演内容のポイントを研究員がご紹介します。

まとめと一言:公益財団法人流通経済研究所 主任研究員 後藤 亜希子


講演の概要

ご挨拶と問題提起

公益財団法人流通経済研究所 理事長
青山 繁弘

 「流通大会2024」の開会にあたり、流通業界が取り組むべき3つの課題を提起しました。
①   国内需要の減少
②   2024年問題、サプライチェーン問題
③   環境問題(脱炭素、食品ロスなど)
 3日間の講演を通じて、いかにしてこれらの課題に対応するかをご参加の皆様に考えていただきたいと思います。

1.需要減少トレンドを変えるための価値創造

公益財団法人流通経済研究所 常務理事 流通・店頭・環境部門長
山﨑 泰弘

 まず、国内でこれからさらに進む人口減少と高齢化のインパクトをデータで捉えました。またそれに伴い中長期で食品小売市場がどこまで縮小することになるかを「流研ロングタームフォーキャスト」結果から展望しました。
 つぎに、国内需要縮小のなかでメーカー、卸売業、小売業が取り組むべき課題を挙げました。値上げ下での価格対応ももちろん必要ですが、価値提案で1人当たり支出額を伸ばすべきことや、営業利益確保のために粗利率改善・販管費削減を進めることがこれまで以上に重要となることを示しました。
 それらの具体策として、顧客インサイトからニーズをつかみ価値ある商品を生み出したケースや、その価値を売場できちんと伝え顧客が理解すれば価格が高くても買う人の割合が高くなる流研の調査結果も紹介しました。小売業のDXも、生産性改善だけでなく、顧客体験の向上につなげることに活用すべきと提案しました。

山﨑による講演の様子byスタッフ

○研究員からの一言
 
「流研ロングタームフォーキャスト」では施設に入る後期高齢者を除いて将来予測をしています。山崎から「施設への入居を少しでも遅らせられるような健康寿命延伸のための商品・サービス提供」の提案もあり、そうした新たな需要拡大策に期待したいと思います。

2.真の生活者価値を生む 味の素社マーケティング革新への挑戦

味の素株式会社 執行役常務 食品事業本部副事業本部長 兼 マーケティングデザインセンター長
岡本 達也氏

 情報があふれる世の中で食のマインドシェアが低下しているという外部環境、また価値を生み出す力やその伝え方・届け方についての強烈な危機感を背景に、新たな組織「マーケティングデザインセンター」を創設されました。顧客と直接つながるサイト「AJINOMOTO Park」を進化させて顧客と双方向のコミュニケーションを行う場としていくこと、またそこで得た知見をもとに価値ある商品を生み出すチャレンジが始まっています。また、これが仕組みとして動いていくためのマーケティング組織、業務スタイルの変革についてもお話しいただきました。
 顧客インサイトをもとにした新商品開発では、すでにいくつもの結果が出ていることも紹介されました。今後もさらにオンラインを活用しファンのロイヤリティを高め、かつ顧客のすそ野を広げることで、価値ある商品の開発につなげていくということです。

○研究員からの一言
 近年発売された商品の開発の背景にそんなことがあったのかというお話は、消費者として大変興味深いものでした。またAJINOMOTO Parkでレシピを検索する一人としても、これまでの味の素社とはイメージの違ったコミュニケーションが展開されそうで非常に楽しみです。

3.スギ薬局 DX戦略の推進状況と今後の計画

株式会社スギ薬局 システム・物流統括部 DXシステム部 部長
髙階 卓氏

 スギ薬局では「トータルヘルスケア戦略」を掲げ、全国の店舗とデジタルを活用したビジネスモデル構築により、顧客の生涯にわたる健康を支えるドラッグストアを目指しています。
 そのためのキーとなるのが、メインの「スギ薬局」アプリと、「スギサポwalk」アプリです。近年はポイントプログラムの使い勝手向上、「スギ薬局」アプリの刷新により、ロイヤルカスタマープログラムを進化させてきていることが紹介されました。
 他方、これまで散在していたデータの一元管理も進められ、データ基盤とアプリを連携させたことで、高度なOne to Oneマーケティングが可能になりました。クーポン配信の最適化によるリピート誘発や離反防止など、すでに効果を上げた施策の事例を示していただきました。
 さらに、顧客台帳も化粧品分野からデジタル化を進めており、今後他部門にも広げて接客レベルアップを図るとのことです。一部店舗ではスマホオーダーやスマホレジなども開始し、「いつでもどこでも手のひらにスギ薬局」実現を目指すとのお話でした。

○研究員からの一言
 
私も「スギ薬局」アプリユーザーの一人として近年の使い勝手の向上を実感していますが、数あるドラッグストアのアプリのなかでも「スギ薬局」アプリは利用率が高く、それだけ顧客データが集まりやすく、有効なマーケティングにつながりやすいと言えます。デジタル活用レベルの高い小売業の1社として、今後の展開にも要注目です。

4.セブン-イレブンが創造する新たな顧客体験

株式会社セブン‐イレブン・ジャパン 取締役 常務執行役員 商品戦略本部長 兼 商品本部長
青山 誠一 氏

 同社は2023年に50周年を迎えられましたが、次の50年に向けて目指す姿として「明日の笑顔を 共に創る」を策定し、「健康、地域、環境、人財」の4つのビジョンを通じてその実現を図っていくとのお話が初めにありました。
 つぎに2024年度の商品政策として、価値訴求、経済性への対応、健康・環境対応、地域対応の4つの柱でのそれぞれの取り組みについてお話しいただきました。商品の磨きこみと「松竹梅」価格政策で消費の二極化に対応していくこと、また健康・環境を意識したスムージーをはじめとする商品や地域フェア開催が社会問題への対応にもつながっていることがわかりました。
 社会課題対応としてはさらに、展開地域が拡大しつつある「7NOW」の現在の概況と今後の見通し、23年度中に出店が計画されている「SIPストア」の概要についてもご紹介いただきました。

○研究員からの一言
 
4つのビジョンとして示された「健康、地域、環境、人財」は、流通業界においてこれまで以上に重要な課題となりますが、同社の24年度の商品政策においてはとくに地域や環境を意識した取り組みが進みそうだと感じました。「7NOW」の実施店拡大が及ぼす影響、近いうちに開店する「SIPストア」がどんなものになるかも引き続き注目が集まりそうです。

<注>
各講演の「概要」は、筆者がリアルタイムで聴講した内容をもとに記述しています。聞き違いなどを含んでいる可能性がある点にご留意ください。また、「研究員からの一言」の内容は筆者個人のものです。