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農産物物流の課題と対応~物流の2024年問題を考える~

こんにちは。2024年4月から適用されるトラックドライバーの時間外労働時間の上限規制は、「物流の2024年問題」として広く知られるようになりました。トラックドライバーにとっては働き方改革の実現につながる一方で、
物流業界にとっては、モノが運べなくなる事態が起きる可能性があります。
『流通情報』2023年7月号の特集「農産物物流の課題と対応」では、この問題に焦点をあてて、解決策を考えています。


「農産物物流の課題と対応」のポイント

✔物流政策:農林水産省策定のガイドライン解説と残課題

✔卸売市場:集荷機能を持つ卸売市場活用のポイント

✔低温物流:株式会社丸和運輸機関の担当者インタビュー

✔パレット輸送:実証実験から見えた効果と課題

✔ナレッジ共有:トラックドライバーの暗黙知を共有する必要性


ここでは、『流通情報』2023年7月号に掲載の「特集にあたって」を《全文公開》します!

「農産物物流の課題と対応」をもう少し詳しくご紹介します


(公財)流通経済研究所 上席研究員 吉間めぐみ
(『流通情報』7月号「特集にあたって」より一部加筆)

 国内の農産物は全国各地に様々な産地があり、その産地から市場を経由して、または直接全国の消費地に届けられる。特に農産物の場合、この「届ける」という部分を担う物流が不可欠な機能であり、どんなに品質の高い農産物を産地で生産しても、消費地に届けられなければ価値を生み出さない。民間シンクタンクのNX 総合研究所によると、昨今騒がれている働き方改革の一つである、2024年度に適用されるトラック運転手の労働時間規制(改善基準告示)の影響として、農林水産物の輸送能力が3割不足するとしている。これは、全業界で14.2%と試算された平均値を大きく上回る極めて深刻な数値である。

改善基準告示改正により不足する輸送能力(2019年度データ)(単位:%)

 また同じ試算から、農林水産物を運ぶドライバーの年間拘束時間において「上限3,300時間」を超える運転手は53.4%(2019年度)となっており、半数以上のドライバーがこの改善基準告示に対応しなくてはならないのが実態である。この告示により運転手の拘束時間が減って健全な輸送体制の構築に繋がる一方で、確実に農産物が運べなくなるリスクがある。特に農産物は、長距離輸送が多く、集荷場での荷待ち、卸売市場や配送先における荷下ろし時間が長いことが要因である。
 したがって、農産物の物流においては、運べなくなるという最大のリスクに対して物流事業者のみの問題としてではなく、荷主となる産地や配送先も交えて、様々な対応策を検討・実施していくことが必須となる。

 こうした問題意識のもと、本号は「農産物物流の課題と対応」を特集テーマと設定した。特集論文の構成は以下の通りである。

○青果物物流の課題と対応

 はじめに、農林水産省大臣官房新事業・食品産業部食品流通課の武田課長より、青果物物流の課題と対応について解説いただいている。青果物生産の現状や主要な品目、長距離輸送や積載率、荷役と待機時間などについて整理し、青果物物流の持続性確保に向け農林水産省が主催する「青果物流通標準化検討会」での対応や策定したガイドラインについて紹介していただいた。また、ガイドラインの推進状況のフォローアップに加え、パレット単位での流通が可能となるような等階級の見直しなどの残課題についても述べられている。

○農産物物流の課題と展望

 次に、流通経済大学流通情報学部の矢野教授に農産物物流の課題と展望を論じていただいた。矢野論文では、ドライバー不足問題と物流危機に焦点をあて、2024年問題とその影響、特に農産物物流に与える影響ついてに論じている。また農産物物流の特徴と直面する課題に触れ、今後の対応の方向性を提示している。最後に、農産物を集荷する機能をもつ卸売市場の活用をポイントに課題提起をしていただいた。

○インタビュー:株式会社丸和運輸機関~低温食品物流の取り組み

 次に、低温食品物流の取り組みについて、株式会社丸和運輸機関ソリューション営業部の谷津部長にインタビュー(聞き手:流通経済研究所 田代主任研究員)を実施した。丸和運輸機関で実施している「商物分離」、「AI等の活用及びDX 化」、「産直プラットフォームの構築」、「災害対策」といった視点から社内で対応を進めている内容等について、物流の2024年問題を含めて述べている。また低温食品物流の今後の取り組みの方向性について、
事例を交えながら示している。

○農産物の物流効率化に向けたパレット輸送の推進

 流通経済研究所の田代論文は、農林水産省の「令和4年度農林水産物・食品の物流標準化委託事業」で実施した実証実験をもとに、直面している具体的な課題を明らかにし、物流効率化の施策であるパレット導入に焦点をあてて論じている。また、パレット輸送を推進するための方向性をまとめている。

○「物流の2024年問題」にみる農産物物流で置き去りにされている落とし穴~ドライバーに蓄積する専門的なナレッジ消失の危機

 最後に拙稿で、全国各地の現場における物流会社やドライバーへのヒアリング等から、農産物物流のトラックドライバーに焦点をあて、ドライバーの高齢化とドライバー不足を解決するための一つの手段として、彼らが現場で蓄積しているナレッジの明文化の必要性を論じている。

 農産物の物流は肝心要であるにもかかわらず、手荷役が多い、拘束時間が長いなどドライバーから敬遠されがちな状況にある。しかしながら、迫りくる働き方改革の施行によって、その影響をどう捉え、どのように対応していくのかが重要視されている。荷主となる産地、配送先、物流会社が一体となって、働き方改革の対応策について検討しないと、ある日突然農産物が運べなくなる、という状況に陥る可能性が高い。前段で述べているが、農産物は消費地まで運ばないと価値を生まないため、もし何の検討もしなければ、そ
れが運べなくなり、価値を生み出さない産地だけが取り残されることになる。現在、そうならないために産地や各事業者が知恵を絞り、様々な対応をトライしている状況だと想定されるが、本特集がそういった皆様の一助とな
れば幸いである。

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