人事責任者ではなく、経営者としてのHRであるCHROの役割について考える
決められた採用計画を達成するために採用業務を回すということが主な仕事となりがちな人事という職種に対し、組織設計を経営の目線から行っていくことが役割とされるCHRO(最高人事責任者)。
この、CHROの役割である「経営的視点から組織設計ができる」とは、どういうことなのか、人事部長とは何が違うのかということを体系的に整理してみようと思いました。
経営視点を持つ
「経営視点」を持つということは、物事に対して
「(中長期的な)全社最適の視点を持つ」
ということだと思います。
そしてその「全社最適」の前提となるものが、
・会社の目的(ミッション、ビジョン)とバリュー
・事業目標(売上や利益)・戦略
・キャッシュ
です。
・会社の目的
会社が何を目的としているのかによって、最適な判断というのは変わってきます。
まずは、自分の会社の存在理由は何か(ミッション)、どんな状態を目指しているのか(ビジョン)、それを達成するためにどうあるべきだと考えているのか(バリュー)を正しく理解すること、
そして、これらの必要性を自身が本当の意味で認識できるかどうかということが大切だと思います。
理念を組織メンバー一人ひとりに浸透させていくのはとても大変です。そうした困難が立ちはだかった時に、推進力を持ってやり続けることができるかどうかは、自身が必要性を本当に認識しているかどうかが大きく影響するためです。
・事業目標(売上や利益)・戦略
また、事業に関して理解を深めることも重要です。
ミッション、ビジョンを達成するために概念上もう一段階下の階層にあるのが事業で、その事業を遂行するために組織があります。
組織の存在理由が事業の目標達成である以上、組織に関する意思決定をするにあたり、事業について詳しく理解していないことには正しい判断はできないでしょう。
・キャッシュ
自社の社員満足度や採用優位性を持つためには働く環境や福利厚生のレベルを上げて行きたいものです。
しかし当然、会社が使えるお金には限りがあります。
採用するにも福利厚生を充実させるにもお金がかかります。また、HR以外にもお金を使うべき先はたくさんあります。
そうした中で、限られたお金をどう使うかの全体最適を考えた上で、組織への投資判断を行っていく必要があります。
よって、
会社の目的、事業目標・戦略、キャッシュの3つの観点で、CEOとできる限り近いレベルの理解・認識を持った上で、全社最適の視点を持って思考・判断ができる
というのが「経営視点」を持つということかなと思います。
組織設計ができる
次に、今まで見てきた内容を組織に落とし込む、組織設計です。
会社の目的、事業目標を達成するための組織を予算を決めて作っていかなければなりません。
設計すべき項目で主なものとしては
・体制設計
・評価設計
・採用設計
・環境設計
があると思っていて、ただこれらを作るだけでなく、ミッションやビジョン、バリュー、事業の目標・戦略に連動して設計し、これらと組織を繋ぐことがCHROの役割だと思います。
①体制設計
適切な組織体制を作れるかどうか。
どの組織形態が良いのか、階層は作るのかなど、会社が目指すものや組織フェーズ、事業の特性などによって適切な組織体制を考案することが求められるのではないかと思います。
また、作った組織における各役割(役職)に適切な人を配置していくということも重要です。本人の適性や希望、人と人の相性なども加味する必要もあるでしょう。
そのために、より社内メンバー一人一人について詳しく知っている必要があるので、普段からの密なコミュニケーションも重要な役割になってくると思います。
②評価設計
適切な評価制度を作れるかどうか。
コンピテンシー評価や360度評価など様々な評価方法の中から何を選択するのか、もしくは組み合わせていくのかを決めます。また、フローや評価者はどうするのかなども設計していきます。
そして評価関連の中で最も大事な、評価基準も設計する必要があります。
特に、バリュー実現を評価項目に如何に落とし込んでいくかが重要だと個人的には考えています。
評価制度全体をどう設計すれば組織のゴールへつながるのかを念頭に置きながら、整合性のある制度を作ることが求められます。
③採用設計
採用戦略、計画を立てれるかどうか。
事業の目標を達成するためにはどのような人材が必要なのか、どれくらいの人数が必要なのか。そこに予算はどれくらいかけることができるのかなどを明確化していきます。
その際、現場からヒアリングするのはもちろんですが、現場は自分のチームの利の最大化を念頭に置いて要望を出すことが多いです。
そのため現場からの要望を鵜呑みにすることなく、会社の目的や事業目的を達成するために、本当にその事業やチームに人員が必要なのかを、先々のリスクも加味した上で判断し、最適な人数、人材要件、優先順位を決めていくことが要求されます。
そして、実際に採用していくために必要な計画を立てていきます。予算を配分やどのチャネルをどう利用して候補者にアプローチしていくのか。採用広報などの手法もここに含まれます。
またこの時に重要なことは、事業の目標だけでなく、会社の目標(ミッション・ビジョン)の達成も念頭に置くことです。
スキルのマッチだけでなく、本人がやりたいことと会社のミッション・ビジョンとの整合性や、バリューフィットなどをどう図っていくかを面接時質問項目などに落とし込み、設計していきます。
④環境設計
環境を作れるかどうか。
働く人が中長期的にパフォーマンスを発揮できる職場を設計していきます。また、カルチャー作りを促進させるための制度や施策、研修の実施、福利厚生の充実化などもここに入るかと思います。
どんなに多くの人材を採用できたとしても、環境が原因で期待したパフォーマンスを発揮できなかったり、半年や1年ですぐに退職してしまっては元も子もありません。
そうした、環境要因による負の影響を排除し、会社全体として同じ方向に進む力を最大化する仕組み作りを行うことも重要な役割だと考えます。
組織設計①〜④に関して、ミッション、ビジョン、バリューという抽象度の高い概念を、如何に解像度を上げて具体化していくかがCHROかなと思います。
経営側に提言できる
CHROの役目の一つである、「経営側に提言できる」というのは
HR領域へのリソース配分を増加させる、あるいは抑制することをボードメンバーに提言できる
ということだと思います。
むしろ人事部長との一番の違いはここにあるといえるかもしれません。
「経営=リソース配分に関する意思決定」だとしたときに、必要・適切なリソース(ヒト・カネ・経営陣の時間)を組織・人領域にかけさせることができるかどうか。
会社の理念をメンバーに伝えていくことは、CHROだけでなく、トップ自身が行っていかなくてはなりません。トップがそれを正しく認識している場合は問題ないのですが、その重要性を認識できていない場合、トップに理解してもらいリソースを割くように説得する必要があります。
また、もしミッション・ビジョン・バリューが組織に存在しない場合は、これらについて考え、明文化することの必要性をボードメンバーに理解してもらい、そのための時間を確保することがCHROの何よりものミッションとなります。
採用や、働く環境を良好に保つための制度やルール作りへの投資が不足していれば、正しい投資を促すことももちろん重要です。
そして逆に、リソース配分の抑制も時には行う必要があるでしょう。
事業計画達成のために人員が不足している時に採用に動くというのは誰でもできますが、増やしすぎをトップに説明し、増加人員を適切に抑制できるかどうか。
スタートアップにありがちな組織の急拡大において、カルチャー作りの観点から、急拡大によって生じる問題をボードメンバーに提言できるかどうかなどもCHROの重要な役割だと考えます。
あくまでも諸々最終意志決定をするのはCEOの役目であることが多いですが、これらを納得感のある材料(事実や数値)と共に議論のテーブルにあげることが大事な役割なのではないかと考えます。
まとめ
「経営的視点から組織設計ができる」そして、「組織へのリソース配分に関してトップへ提言できる」というCHROに求められることにおいて、もう一段階解像度を上げ、体系的に整理しました。
繰り返しになりますが、会社のミッション・ビジョン・バリュー、事業目標・戦略との整合性が高い組織設計を行うというのが本質で、そのために必要なことも含めた業務(HRチームメンバーや他メンバーとのコミュニケーションなども含む)がCHROの仕事かなと思っています。
CHROがいない組織の場合は、CEOやCOO、CFOなどがこれらの役割を担っているように思いますが、技術やアイデアのコモディティ化が進む中で、大きな差別化、優位性となりうる組織領域を専門的に担当する経営メンバーの重要性は間違いなく今後さらに増してくると思います。
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なぜミッション・ビジョン・バリューが必要なのかについては以下の記事で言及しています。
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