見出し画像

若いチームを見守る側のあるべき姿

先日、宝塚歌劇団の花組千秋楽公演をライブ配信で観た。

ご贔屓さんがいるわけではないので、比較的気持ち穏やかに観始めていたのだが、ショーの中詰以降から涙が止まらなかった(多少お酒が入っていたのはあると思うが…)。トップに立つ柚香光、そして組子たちのこの1年背負ったもの・経緯を想像せずにはいられなかった。

未曾有の危機を味わったトップスター

95期第2号として2020年からトップスターに就任した柚香光。彼女の放つオーラと美貌は、「あ、これはもうトップになるだろう」と思わざるを得ないものだったと思う。以前95期のお披露目公演のドキュメンタリーを視聴したが、皆同じ髪型・レオタードの中、彼女の魅力は際立っていた。視線を送らずにはいられなかった。そんな彼女には、2つの試練が待ち受けていた。

1つはコロナ。お披露目の東京公演は予定では2020年3月スタートであった。しかし新型コロナウイルスによって、公演は延期。そこから数ヶ月見通しがつかない日々が続いた。そして7月、いよいよ公演できることとなったのもの束の間、組子の中に陽性者が出たことにより公演は中止。数週間後再開し、無事千秋楽を迎えた。この期間、自分の体調もさながら、組子の身体的・精神的不安定な状況に気を配らせていたであろう。そして再び公演できる日が来るのか否かがはっきりしないなか、ひたすら自身を鍛え続けてきたであろう…まだなりたてホヤホヤのトップスターが苦心していたことが想像に難くない。

そして今回の公演。宝塚大劇場公演が突如発令された緊急事態宣言によって途中から禁止、千秋楽は無観客ライブ配信となった。おそらく彼女のトップ時代の心の支えであったであろう瀬戸かずや、相手役の華優希含めた仲間のサヨナラ公演が無観客で行わざるを得なくなった。演者とは舞台と観客の化学反応によって本番とてつもないパワーを発揮することがある。演者の感情を載せたセリフ、表情、身振り手振りを観客が受け止めて、感じ取った想いは目に見えない形で演者に跳ね返る、そしてそれを演者が受け止める…このサイクルがあってこその舞台なのだ。そんな観客がいない舞台で仲間を思い出の地・宝塚から送り出さねばならない…トップに立つ彼女は、自身を律し、奮い立たせ舞台に臨んでいたことだろう。

もう1つ、これはあくまで私の推論であって事実ではない可能性があるけれども、きっと彼女は私達が想像する異常に世論・世相と戦っていたのではないかと思う。このように自由に表現することに制約が生じている世の中で舞台を行い、加えて一時は劇団側の陽性者が出たことによって公演をストップさせたことに対し、心無いメディアやファンの声が届いていたのではないか。また、先般劇団からSNSを通じた誹謗中傷に対する警告が出された。これもあくまで私個人の想像だが、その声の大半が花組に対しだったのではなかろうか。昔に比べて一般消費者の声がダイレクトに提供者に届くようになったことによって、より世の中の声が商品・サービスに反映されるようになったポジティブな面がある一方、一般消費者の声(ときにはノイズ)が集団となって提供者を傷付け、活動を阻害することが増えている。そういった意味でいうと、今までのトップスターが味わったものとは少し違った形で、彼女(たち)は受け止めていたにちがいない。

そんなことに思いを馳せてしまったこの公演は、「花組」というひとつのチームが一皮むけた姿を観たような気がした。場面の名前は忘れてしまったが、中詰後に柚香光を中心に男役たちが舞台で舞う演目で、組子が柚香と絡みながらキラキラした眼差しで踊る姿を観て「ああ、きっと荒波をも乗り越えたところに花組はいるんだな」と思った。正直、花組の下支えである瀬戸かずや・冴月瑠那が退団したあとの花組はどうなるんだろう、、と思ったていた。けど、あのシーンをみて、花組は進化の途中だけど、絶対進んでいけるチームワークが出来上がっていると感じた。

若い推しを見守る=若いチームの成長を促す

花組は2020年、未曾有の試練に立ち向かい、苦しみもがいたことであろう。そのとき、外野で見守る我々ファンは、消費者であるから、提供されるものに対し適切な声を届けるのは当然の権利だ。満足した・不満だった、こう改善してほしい…顧客としてサービスをよりよくするための声はあるべきものだ。一方で、度を超えた誹謗中傷はどうだろう。ただの不満の吐き口であって、その声を届けたところでサービスの改善どころか、提供者の負担をつくり、サービスの質の低下につながるおそれがある。

私はまだまだ新参者の宝塚ファンだが、宝塚のファンは組織(劇団)および演者がよりよいパフォーマンスを発揮することを求めている。個人的には、組織の成長を見守る管理者の目線と似ているように思える。

若いチーム・若いリーダーの組織が歩み始めるとき、管理者はメンバーの成長を求める一方で、こと目の前の課題を注視してしまいがちである。そりゃ若かろうがなんだろうが、プロなんだから最低限のパフォーマンスを求めるのは当たり前だ。しかし一方で成熟しきれていないものを受け止める姿勢も必要だと思う。なぜならば、個人・組織の成長は挑戦と失敗のサイクルによって促進されるからだ。挑戦の機会を防ぎ、失敗の経験を糾弾するような行為はメンバーを萎縮させ、パフォーマンスは落ちる。本来実現したかもしれないたくさんの可能性の種を紡いでしまう。

推すファンも管理者も、チームが向かうゴールに思いを馳せ、見守るくらいの姿勢が、ちょうどいい。そしてゴールに立てたときに盛大な拍手を送るのが、推す側である外野が得る最高に幸せな瞬間なのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?