33.初恋③ 恋の定義
恋の定義とは、
なんじゃぁぁぁあああ
恋に定義なんていらねぇぇぇ
そんなもん考えるな
感じろぉぉぉ wow wow wow
他の人には感じない特別なその感じ
それが恋じゃぁぁぁああ ahh ahh ahh
それが恋でいいだろぉぉぉ oh Baby
理屈じゃねぇ 感じろ
心で感じよ
にんげんだもん
by jiiさん
* * *
[前話:32.初恋② 「自分」と「恋愛」]
――高校生になった。
僕の高校は全学科を併せて1学年3クラス、同じ中学の生徒は全体の2割ほどで、およそ8割に及ぶ初めましての人たちは、僕がどういう人物なのか、当然分かっていません。同じ中学の同級生は、僕を積極的いじるようなタイプの人たちではなく、そんなアウェイ感漂う空間では自ら中学同様に振る舞うことも僕には難しく、そのため、特に入学当初、僕は鳴りを潜めていました。
日が経つにつれ、同級生どちらからともなく少しずつ会話をするようになり関係性を築いていきました。徐々に中学時代の「自分」の面影が見え始めましたが、いじられるというよりは、どちらかというと、自ら明るく陽気に振る舞う姿を見せることで「自分」をアピールしていったような感じです。まわりはそれに対して笑うか、あるいはツッコむか、そのようにして少しずつ「自分」を定着させていき、やがて「いじってもいいやつ」だとまわりは認識したと思います。いじり自体は中学時代と比べると減少し、内容も穏やかなものになりましたが、明るく陽気な自分、おちゃらける自分、いじられる自分、そんな自分を定着させるには1年ほど掛かったような印象です。やがて、
「お前って悩みとかなさそうやな」
そのように言われるほどになりました。
そんな高校生活、最初の1年。
そんな僕に、誰も予想だにしなかった事態が起こります。
最も予想だにしていなかったのは、他の誰でもない、僕自身でした。
自分の人生に「モテ期」というものがあったとするならば、入学当初からの1年、僕にとって最初で最後のモテ期らしき「プチモテ期」が訪れたのです。
――入学して1ヶ月ほどが経過したある日。
「ねぇねぇ」
同じクラスの女子が話しかけてきました。会話なんてほとんどしたことありません。
「んっ?」
「〇組の〇〇さんがメルアド教えてほしいって言ってるんやけど、教えてもいい?」
「いいよ」
お相手のお名前を耳にしたのも初めてで、お顔もお姿もまったく存じませんでしたが、突然の問いかけに思わず二つ返事で了承しました。特に断る理由もありません。
「これにメルアド書いてもらっていい?」
言われるがまま紙にメルアドを書き、それを受け取ったクラスの女子はそのまま去って行きました。配達に向かったのでしょう、郵便屋さんごくろうさまです。
言っておきますと、僕は恋愛に関して、特に異性からの好意にはスーパー鈍感です。このとき、メルアドを交換することをあっさり了承しましたが、「まぁいろんな人と交流できたほうがいいしなぁ」と深く考えていませんでした。相手も同じように思っているのだろうと思っていました。
メールのやり取りが始まり、お相手のお名前とお顔も認識しましたが直接会話をすることはありませんでした。特に何を思うわけでもなく、何を感じるわけでもなく、ただ機械的に行われるメールのやり取り、どのような内容であったのかまったく覚えていません。徐々に返信頻度も減少傾向であった僕、そもそも校内でのケータイの使用は校則で禁止されており、野球部だった僕は帰宅するのも遅く、中学までとはまるっきり違う部活環境に心身ともに疲弊し、帰宅後はへとへとでメールする気になんてなれませんでした。1日に1通ぐらいは返信していたような……してなかったような……覚えていません。
そんなあるとき、核心に迫る1通のメールが送られてきます。
《明日、一緒に帰らない?》
それは、テスト期間に突入したときでした。テスト期間はどの部活も時間が短縮され、早く帰校できます。
――えっ!? なんで!?
僕は困惑しました。
そして、そのメールで勘づきました。
――まって、これって、そういうこと!?!?
初めてのことでワケが分かりませんでした。自分にとっても、それまでの僕を知る人たちにおいても、天変地異のような出来事です。同じ中学の人たちが聞いたら度肝を抜かれたことでしょう。
――なんて返そう……
気持ちはありがたいですが、僕の答えは「NO」です。しかし、それを伝えてしまうと相手は落ち込むのではないかと思い、どのように返信すればいいのか頭を抱え、返信できずにいました――。すると、
《こめん、急にびっくりしたよね?》
《無理だったら全然いいからね》
すぐに返信をしなかった僕の気持ちを察してか、その子からメールが送られてきました。すごく申し訳ない気持ちになりました。そんな僕は、そのメールにすらも返信することがでぎす、結局何も返信しないまま、これが最後のやりとりになりました。
勇気を出してメールを送ったその子の気持ちを踏みにじってしまったと、悪いことをしてしまったと、言葉にしてはっきり断らなかったことを今は反省しています。
『連絡先を知りたい=そういうこと』その可能性があるということが、僕の脳にインプットされました。
同年のある日、
「〇〇がメルアド知りたいって言ってるんやけど」
部活の同期が僕に言いました。
「いや、いいわ」
即答。
その子がどういう気持ちでメルアドを知りたがっていたのかは分かりませんが、もしも……また……同じようなことが起きたら……。
――ある日の昼休み。
「ちょっとこっちきて」
同じ中学の女子が声をかけてきました。
「えっ、なに?」
「いいからきて」
言われるがまま連行されました。
――なんなん……。
連行された先は廊下の隅っこ。そこには僕を連行した女子を含む3人の女子がいました。同じ中学の女子2人に挟まれ、中央に立つ、女子が、1人……。
――えーっと……。
その子は違うクラスの子で、それまで一度も会話をしたこともなければ、お顔とお名前も一致していない状態でした。
――なんなん……。
この状況はどういうことなのか、そして、これから何が起こるのか予測できずにいました。すると、
「はやく言っちゃいなよー」
隣にいる同中の女子が、その子を諭すように声をかけました。
――ちょっと待って………。これって……。
鈍感で幼稚な僕の脳でも、これから何が起こるのか察知できました。
待って待って待って待って
やばいやばいやばいやばいやばいやばい
頭の中はパニックです。というのも答えは決まっています――
――NOです!!
しかし、それを言ってしまうとその子は悲しむかもしれない……
逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい……
“キラキラキラーン”
こっ、光明の光が……
「おぉー、いいねいいねーー」
そばを通りがかった顔馴染みの男子が冷やかしてきました。
“チャンス”
「おいっ、待て、ふざけんなーー!!」
僕はそう言いながらその男子を追いかけるために、その場を離れました。逃げました。
本当にそういうことだったのかは不確かですが、もし本当にそうだったのであれば、その子の勇気を踏みにじってしまったと、本当に申し訳ないことをしてしまったと、今は反省しています。本当に悪いことをしてしまいました。
僕の人生における最初で最後のプチモテ期。
ただの勘違いかもしれませんが、ほんとうにありがたい話です。未だに信じられません。中学時代には考えられないことでした。
彼女が出来るチャンスはあった。でも、そうはしなかった。なぜなら――
――感じなかったから。
僕にとっての恋の定義、それは、感じるかどうか――。
“Dちゃんに抱いたあの特別な感情と感覚”
それと同じぐらい、またはそれ以上に感じるかどうか――。
僕と、Dちゃんは、違う高校でした。
高校生になってから、Dちゃんに対する想いは薄れてはいたものの完全に消えたわけでありませんでした。少なくとも気になるレベルで、僕の脳に存在していました。そしてなにより、Dちゃんに抱いた特別な感情と感覚、つまりそれは恋心。これが僕のなかでの『恋の定義』であり『恋愛感情の指標』になりました。Dちゃんに抱いた恋心レベルまで到達しなければ、それは恋心ではないということです。
高校生です、「恋愛にまったく興味がなかった」と言うと嘘になります。まわりと比較すれば、そういう欲望は薄いほうではありましたが、中学時代に比べると僕のまわりにも恋愛を謳歌する人たちが増え、多少なりとも影響は受けました。
僕にも彼女ができるチャンスはありましたが、すべて棒に振りました。Dちゃん以上に感じることがなかったからです。
誰でもいいわけではありません。そんな気持ちで付き合うことは相手にも申し訳なく、自分自身に嘘をつくことにもなるからです。
* * *
俺にとっての恋の定義
“Dちゃんに抱いたあの特別な感情と感覚”
かっこよく言えば「定義」
素直に言えば「未練」
「定義」と「未練」
これから解放される方法は3つ。
・想いをぶつける
・それ以上の相手が見つかる
・完全にあきらめる(そもそもあきらめてるけど)
《つづく》
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