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OlympusDAOの失敗に見るブロックチェーンゲームへの希望


こんにちは。目立たない方のDeFimans共同代表、Taishiです。2021年後半から2022年初頭にかけてDeFi界隈から大きな注目を集めたOlympusDAO当該エコシステムの崩壊から見るブロックチェーンゲームへの希望をつらつらと述べたいと思います。

ちなみにですが、ブロックチェーンゲームにOlympusDAOのモデルを取り入れることが理想だ!というつもりはありません。ただの思考実験です。それを念頭に置いてください。

お前誰?


ネット上では口数の少ないDeFimans共同代表です。

四国で飛び込み営業→金融商品開発→会計事務所→クリプトって感じです。クリプトに入った理由はUniswapとブロックチェーンゲームに将来の可能性しか感じなかったためです

既存金融だとプロダクトのカスタマイズには限界ありますからね。発行形態もユーロMTNかグローバルセキュリティユーロ債くらいしかないですし。

さて、早速本題に。

OlympusDAOの概要

OlympusDAOは一言で述べるなら、通貨の発行権を有している中央銀行のような仕組みをDAOにて運営・管理することで、米ドルに依存するDeFi市場を解放し、新たな通貨を作ろうというプロジェクトです。

考察記事も多いのでここでは敢えて細かくは記載しませんが、OlympusDAOのエコシステムは、参加者が戦略的に選択を行い、相互作用することで成り立っています。参加者は、OHMの保有やプロトコルへの預け入れなどのアクションを通じて、エコシステムに関与し、成長に貢献します。

これの背後にあるのがゲーム理論です。ゲーム理論では、参加者は個々の利益を最大化するために合理的な戦略を選択します。OlympusDAOのエコシステムにおいても、参加者は自身の利益を最大化するために行動します。例えば、OHMの保有者は、通貨価値の安定性やプロトコルの成長による報酬を追求すると考えられます。彼らはOHMを保有することでインセンティブを得ることができ、通貨の需要と供給のバランスを維持することに貢献します。

また、参加者はプロトコルへの預け入れ(ステーキング)を行うこともあります。これにより、彼らはプロトコルの運営に参加し、報酬を獲得することができます。ただし、参加者は預け入れのタイミングや量を戦略的に決定する必要があります。適切なタイミングで預け入れることで報酬を最大化できる一方、市場の変動やリスクも考慮する必要があります。

このような参加者の戦略的な選択と相互作用が、OlympusDAOのエコシステムを形成します。ゲーム理論の観点からは、参加者は合理的な判断を下し、自身の利益を最大化するために努力しますが、同時にエコシステム全体の持続可能性や安定性を考慮する必要もあります。一見すると、理想的で上手く行きそうですよね。では、なぜそんなOlympusDAOは失敗してしまったのでしょうか?

OlympusDAO失敗の要因

色々と専門性の高い考察もあるかとは思いますが、個人的には以下です。

パレート最適とナッシュ均衡の矛盾

パレート最適」とは、誰も不利益を被ることなく、全体の利益が最大化された状態のことです。一方「ナッシュ均衡」とは、自分の選択を変えると利益が得られない状態=互いに現状から変わる必要のない安定した状態を指します。

全体の利益を優先する「パレート最適」と個人にとって合理的な判断となる「ナッシュ均衡」の矛盾が考えられるのかなと。

囚人のジレンマの場合、「お互い自白せずに懲役5年の刑罰を受ける」のがパレート最適と言えるでしょう。しかし、相手が裏切って自白した場合、自分は懲役20年になります。このリスクを回避するためには自白するしかありません。この状態では2人とも「自白」という選択以外できず、そこから変える必然性はないですよね。つまり囚人のジレンマにおけるナッシュ均衡は「お互いが自白する」こととなります。しかしそれは「パレート最適」な状態ではありませんよね?後述しますが、web3プロジェクト全般にて言えることとして、コミュニティと運営とのインセンティブがアラインしていることが求められます。

追求すべきは「ナッシュ均衡」ではなく、「パレート最適」だったのではないかという仮説を持っています。

エコシステム上の問題点

OlympusDAOは外貨(即ち自社発行トークン以外の資産)をBonding(つまり借金)によって確保していました。OlympusDAOは投資家に高いリターンを提示している点が魅力だったことでしょう。確かに、流動性の大部分を管理しており、この流動性をSushiSwap に提供することで収益を上げていました。しかし、OlympusDAO がBondingで投資家に支払う莫大な利益に比べれば非常に小さいものです。OHMの価値根拠はステーブルコインのみから来ています。これは、OHM自体が減価償却資産であるUSDのデリバティブであることを意味します。

第二に、OHMは流動性が十分ではありません。OHMは従来のステーブルコインよりも流動性がはるかに低く、たとえ暴落したとしても、DAIのような他の担保付きステーブルコインよりもはるかに使いにくくなると思います。

第三に、トークンのパフォーマンスは指数関数的な性質を持っているため、クジラの数が多いと準備通貨として実質的に使用できなくなります。基本的に、OlympusDAO のスキームは、OlympusDAOがOHMをサポートするための資産を使い果たすまでの期間のみ機能します。即ち、OlympusDAOのランウェイは常に増加する必要があります。一方、OlympusDAOはAPYを支えるのに十分な新たな収入をBondingから受け取っていません。報酬設計が指数関数的なものであるため、OlympusDAOがエコシステムを維持するには債券購入額の指数関数的な増加か、異常に高いOHM価格(最終的にはOHMステーカーの指数関数的な増加が必要)のどちらかが必要となります。故に新規投資家はOHMの価格を人為的に高く保つことで先行者に投資家に支払うことになります。

いずれにせよ、OHM価格を引き上げるブレイクスルーが存在しなくなれば、OlympusDAOは崩壊します、というより結果崩壊しました

OlympusDAOは、エコシステムを維持するためにAPYを減らす必要がありますが、本質的な問題はステーキングとボンディングのメカニズムが事実上以前のステーカーに価値を再分配するスキームである点ではないかなと。

エコシステムを維持させるにはOHMの価格を押し上げる新たな資金の継続的な流入が必要であり、これは持続可能とは言えません。

OlympusDAO+コンテンツ

OlympusDAOは外貨(即ち自社発行トークン以外の資産)をBonding(つまり借金)によって確保していました。では、OlympusDAOがユーザーを惹き付けるコンテンツやIPであった場合どうなるのでしょうか?主に以下のようなことが可能になる気がします。

  • Bondingのディスカウントレートの調整

  • ステーキングAPYの調整

  • NFTを起点とした外貨獲得に伴うトレジャリー運用原資の増加

  • インゲーム課金による追加的収入の確保

即ち、Bondingやステーキングの赤字をNFTやインゲームの課金で補えるような価格設計をすることにより、エコシステムとして成立するのではないかという仮説です。

OlympusDAOに不足していたコンテンツを取り入れることで運営のキャッシュフローは改善すると考えられます。ここまではある種の理論と数字上の簡易的な考えです。では、これに加えて何が必要でしょうか?

コンテンツは囚人のジレンマの突破口になり得るか

前述した部分に加えて、web2的要素であるコミュニティや強力なコンテンツはユーザーを惹き付けるにあたって非常に重要な役割を果たします。

加えて、コンテンツ消費は個人の最適な行動を促す「ナッシュ均衡」を崩し、運営にとってプラスとなるような非合理的(良い意味でも悪い意味でも)な行動を促しうるのではないかと。

コンテンツを軸にNFTの購入(ここは通常販売ではなくともOKな気がしますね)やFTのステーキングによるNFTのドロップを行うことでFTの保有を促しつつトークンとNFTの同時保有が最適な選択(ゲーム理論としてではなく心理的最適解)となるような設計はかなり面白そうですね。そしてこの非合理性と合理性の絶妙なバランス関係こそがブロックチェーンゲームにおけるトークノミクスの妙味であるとも見ております。

これらを踏まえながら最適なエコシステムを積極的に提案していきたいと思いますし、ブロックチェーンゲームには囚人のジレンマを崩す希望を見出しています。

最後に

勿論、コンテンツやコミュニティの議論だけでは当然だめ(というよりもあって然るべき)で、当然ここにトークノミクスが係ってきます。僕としては様々な流派があるものの、基本的にトークノミクスを考える際は、マクロ経済・ミクロ経済の両側面から考える必要があると考えています。

一方、現状の日本におけるトークノミクスは、ミクロ的(ないし個人の消費)に置き換えたような考察は多少ありますが、マクロ的な考えをできているものが非常に少ない印象です。

また、直近良いプロジェクトとは良質なコンテンツを提供し、強いコミュニティを持つことが成功要因であるという言説を耳にしますが、私個人としては懐疑的です。これは、「いじめは良くない!」・「戦争はなくすべき!」というのと同じ解像度の議論であり、トートロジー(同語反復)でしかないためです。コンテンツは良い方がいいに決まっていますし、コミュニティはweb3ではなくweb2のブランディング要素でしかないです。個人的に。

理想のコミュニティはどこですか?と聞かれればフェラーリコミュニティです!と即答します。ということで、トークノミクスには最低これらの要素を考慮することが必要だということをクライアントにもお伝えしています。

  • 開放経済(IS-LM-BPモデル)

  • 需要と供給

  • トレジャリー運用と分配

  • 流動性

  • インセンティブ(エコシステム貢献者への報酬)

  • 信用創造

  • ゲーム理論

長くなるので詳細はまた気が向いたら書きます。では。

(DeFimans共同代表 Taishi)

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