世界最短の朝市【日帰りtrip 百島】 trip from Fukuyama
福山から船で渡る百島。毎週土曜日は、島の人たちが心待ちにしている「百島土曜市」の日だ。主宰の西野翔悟さんは、「17分で終わる、世界最短時間の朝市だと思いますよ」と笑う。一体、どんな朝市なのか、訪ねてみる。
「あんたあれ買うの? あれは3つしかないから、あんたと私とこの人だね。そうしようね」
9時の開始の鈴が鳴らされる前から、そんな具合にばあちゃんたちが相談している。いつからか恒例となったという「戦前交渉」。開始前にどんなものがあるのかざっと確認し、同じものを狙っていそうなお客さん同士が相談する、という平和な光景だ。
開始の合図の鈴が鳴ると、会場の熱量が一気に上がり、勢いよく売買が始まった。
どんどん野菜が売れる。この日はあいにくの雨で、いつもより売り手も買い手も少ないらしく「今日は雨やから少ないな〜」とさみしそうな声も聞こえたけれど、それでも売り手のばあちゃんは「安いよ〜大根1本50円!今日はあんまりないけどね〜」とにこにこ接客。そしてものすごい勢いでの買い物を終えたお客さんたちは、一転のんびり和気藹々と立ち話を始める。
売り手も買い手もみんな島民。自分で育てて収穫した野菜を並べて売る。気兼ねなく集って話せる機会はそれほどなかった島で、「こういう時間が楽しいし、明日もがんばろうって思える」のだと、雨のなか自転車でやって来た農家のおじさんは言う。彼は、他の売り手と商品が重ならないようにと、珍しい野菜をつくるようにしているのだとか。
「百島には母親の実家があって、子どもの頃に何度も来ていたんです。世界への旅に出ている時も、日本に帰ったらここで農業するって決めてました」
この朝市を立ち上げ、主催する翔悟さんは言う。自由に生やした髭がどことなく異国感を漂わせる翔悟さんは、妻の愛さんとともに4年前に百島に移住。今でこそ百島に根を張り、無農薬・無化学肥料はもちろん、パーマカルチャーを実践しながら野菜を作り鶏を育てて暮らすふたりだが、翔悟さんは2年かけて世界を旅し、移住直前までカナダに住んでいた。愛さんはというと、ピースボートで地球を2周回って来たという。「出会いはインドのゲストハウス」という根っからの旅人たちなのだ。移住してふたりが百島で手作りで挙げた結婚式は、島民にとって何十年ぶりかのビッグイベントとなった。「島のおばあちゃんたちが私の着物の色まで勝手に選び始めちゃうくらい、みんな自分のことのように楽しんでくれて」と愛さんは笑う。その2年後には恵太くんが誕生し、今度は彼が島民全員のアイドルになっている。
そんな彼らが目にしたのが、みんな自分の畑でそれぞれ自給しながらも、自分でつくっていないものがあっても、この島には欲しいものを買えるお店がない。一方で消費しきれない自家野菜は人知れず捨てられている。という光景だった。
「そういう現実を見て、『もったいない!』と思って。島のなかの循環、地産地消の仕組みをつくりたい。そう思って始めました」
最初はなかなか売り手も買い手も現れなかった。しかし、翔悟さんの家の目と鼻の先に暮らすキシ子さんを始めとした数人が最初の売り手となり、徐々に買い手も増えてきた。そして今や開始の合図17分で商品が綺麗さっぱり無くなるほど、たくさんの人が集まるまでになった。
この朝市は島民のコミュニケーションの場であり、島全体で野菜を育てて循環させる暮らしをつくる場だ。ほんの数本の大根だって持って来ることに意味がある。
百島土曜市は、ほんとうに17分ほどで終わってしまう。けれど、その時間は、百島の暮らしを知ることができる時間。ぜひ、訪ねてみてほしい。
旅した人:中村 優(取材・文・写真)
「百島土曜市」
開催日:毎週土曜日
開催時間:朝9時から(商品がなくなり次第終了)
場所:JA泊集荷場
広島県尾道市百島町3418
【百島へのアクセス】
① バス
福山駅前〜常石港(トモテツバス 瀬戸経由「常石」行 6番乗り場)
●所要時間:約43分
●乗車料金:720円
↓
② フェリーor高速船
常石港〜福田港(百島)
●所要時間:フェリーは約12分、高速船は10分
●乗船料金:250円
※切符売り場はないため、船内で購入
【駐車場】
●乗船桟橋手前の駐車場を利用できる。駐車スペースが狭いため、駐車できない場合あり。
【注意】
●常石港では自動車の乗降が可能。
●自動車の航送は歌港・常石港・福田港の3港間のみ可能。自転車はフェリーと高速船の両船で航送可能。
瀬戸内への旅の玄関口
福山駅前のまちやど「AREA INN FUSHIMICHO FUKUYAMA CASTLE SIDE」
●公式Webサイト
住所:伏見町4-33 FUJIMOTO BLDG. 1F(RECEPTION)
AREA INN FUSHIMICHOは、まち全体をひとつの「宿」と見立てた「まちやど」です。泊まる、食べる、くつろぐ、学ぶ、遊ぶ、さまざまな要素がまちのなかに散りばめられています。チェックインを済ませたら、伏見町、そして福山のまちから瀬戸内への旅へ。