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特許取得の授粉ロボット技術で農業課題を解決。HarvestXが目指す新たな生産基盤の確立

「未来の世代に、豊かな食を。」をミッションに掲げ、AI・ロボティクスを活用したイチゴ自動栽培ソリューションを提供するHarvestX(ハーベストエックス)。DEEPCOREは2022年に続き、2024年3月にもHarvestXへの追加出資を行いました。

急成長スタートアップが目指す持続可能な農業について、HarvestX株式会社 代表取締役社⻑の市川友貴さんに伺います。

<プロフィール>
HarvestX株式会社 代表取締役 市川友貴
1997年静岡県浜松市生まれ。千葉工業大学情報工学科卒業。在学時より個人事業主として組み込み機器やFA設計などを請け負う。並行して、東京大学本郷テックガレージにて2018年に HarvestX プロジェクトを立ち上げ、世界初のロボットによるイチゴの授粉に成功。開発した技術を社会に実装するため、2020年にHarvestX株式会社を創業。 2019年度未踏スーパークリエータ認定、2020年度異能vation 異能β認定など。

イチゴの完全自動生産技術を作るには、起業が最適な選択肢だった

 ── まずは市川さんの経歴や起業しようと思ったきっかけを教えてください。 

市川:地球温暖化や自然災害の増加など、気候変動が叫ばれる社会のなかで、ロボット技術を活用することで持続可能な農業を実現し、「食糧危機問題の解決」や「次世代に豊かな食文化を継承する」ことを目的に「HarvestX」を立ち上げました。

「未来の世代に、豊かな食を。」を企業理念に掲げ、 植物工場向けの授粉・収穫ロボットの開発や、果菜類の完全栽培自動化を加速するソリューションを提供しています。

私は幼少期からものづくりが好きで、高校在学中からロボットの研究に取り組んでいました。大学へ進学してからは個人事業主として、農業用の組み込み機器などの製品開発を受託したりしていましたが、そのときに「植物工場での新たな食料生産」に興味を持ったのです。

その後、東京大学が主催する「本郷テックガレージ」の支援プログラムにて、「HarvestX」の研究プロジェクトを立ち上げ、農業の現場で活用できるロボットのプロトタイプの開発をスタートさせました。
大学卒業後は、実際に植物工場の運営に携わり、HarvestXの研究に生かしていきたいと思い、植物工場を営むアメリカのスタートアップに就職しました。ですが、ちょうどパンデミックの影響で現地に渡航できなくなってしまい、その会社ではほんのわずかしか働くことができませんでした。 

ただ、実際に植物工場業界へ入って見えてきた内情と、HarvestXの研究で蓄積してきた知見から、「施設栽培の課題」の輪郭を掴むきっかけになったのです。
大局的な食料生産の問題があるなかで、一つひとつの技術を作っていくと、どうしても既存の事業会社では、広く汎用的なものに収まってしまう。
植物工場を建てるだけではなく、ロボットやAI、テクノロジーを用いた栽培技術を高め、植物工場を有する食品製造業向けにソリューションを提供できる会社があれば、この領域の可能性はさらに広がると思ったのです。

そこで、その技術を作るメーカー的な立場の会社を作ろうと考え、2020年8月に今の会社を創業しました。
当時としては、別にこだわりがあって起業したわけではなく、自分の興味がある領域で、自分のやりたいことができれば、就職や研究の道へ進んでもよかったんですよ。

ただ、自分が本当にやりたかったイチゴの完全自動生産技術を作るにあたって、資金調達から技術開発、実証実験に至るまでの時間軸を考えたときに、起業が最も適した選択肢だったので、スタートアップを立ち上げました。

持続可能な農業を実現するには「人」ではなく「仕組み」にフォーカスすべき

 ── HarvestXの事業はどのようなことが原体験になっているのでしょうか?

市川:従業員として働いていた植物工場だけではなく、国内外の色々な植物補助を行う管理会社の現場を見させていただく機会がありました。
それらの現場では、キャベツやレタスといった葉物野菜だけでなく、イチゴやトマトなどの実をつける果物や野菜も作りたいというニーズが顕在化していました。そうしたなかで、植物工場での栽培に関しては一定の見立てがある一方、次の課題になりうるのが「受粉」だと着目しました。

イチゴやトマトにおける既存の栽培方法というのは、「ハチによる授粉」か「人の手による授粉」の2つがあります。
植物工場でインドアファーミング(畑がなくても屋内で農業ができる室内栽培)を行う本来のメリットは、安定的な生産と品質の担保が挙げられますが、既存の栽培方法ではどうしても不確定要素が介入してしまう。そのため、インドアファーミングのメリットが損なわれていると、現場を見てあらためて感じたんです。

植物工場での安定的な生産が実証され、次のステップに進む際に、どの企業や研究機関でも必ず受粉の工程が壁になる。そうなったときに、人のできないところをロボットが正確にかつ高精度に授粉を担うことで、今後の課題解決に繋がるはずだと考え、まずはイチゴの完全自動栽培を目指すHarvestXの研究開発に着手しました。

加えて、今はイチゴに注力していますが、今後はイチゴ以外の作物にも応用していきたいと考えています。日本は世界に誇るべき食文化を持っていますが、結局はその土地で取れる作物から、土着の文化が形成されてきたと思うんですよ。

我々としては、ハチの個体数の減少や農業の担い手不足といった社会課題があるなかで、「閉鎖型」の植物工場を通して、次世代に食材や文化を残すことにも貢献したいと考えています。現在の食糧問題に対して提供できるソリューションの多くは、対症療法的なものになっていて、根本的な課題解決には至っていません。

例えば、ドローンによる農薬散布や収穫ロボットなど、スマート農業の仕組みを用いて露地栽培とハウス栽培を支援している事例があります。確かにそれは農業従事者の負担を減らす一助になっていると言えるでしょう。しかし、こうしたテクノロジーが進化する一方、新規就農数の減少には歯止めがかかっていません。
農家の後継者不足や働き手不足が叫ばれ、農業従事者が時代とともに減っていくことが避けられない状況のなかで、本当にフォーカスすべきは「人」ではなく、人を必要としない「仕組み」だと私は考えています。

特許技術に裏打ちされたHarvestXの革新性と付加価値

 ── HarvestXの革新性や他社との差別化ポイントはどこにあるのでしょうか。

市川:イチゴ栽培で肝になるのは「受粉」の工程です。これをAIロボットで自動化できれば、生産コストの削減や安定的な生産につながるのではと考えました。
イチゴの授粉では、花の中心に対し、垂直に媒体を接触させることが大切です。しかし、従来のAI技術ではイチゴの花の「位置」は推論できるものの、「向き」までは対応できず、それがネックになっていました。

そこで我々は、イチゴの花の向きを三次元的にAIで認識する特許技術を開発し、ロボットによる高精度な授粉を実現させることに成功したのです。ハチを媒介とせず、精度の高い授粉技術を持って、高品質なイチゴを生産できる技術が、他社との優位性につながっています。

また、これまではAI・ロボティクスの技術で、イチゴ栽培に必要な「受粉」や「収穫」の自動化に取り組んできましたが、2023年からはワンストップで植物工場の立ち上げを支援するパッケージ販売も開始しました。

実証実験の一環で、食品メーカーにHarvestXのソリューションを使っていただいたところ、「なぜHarvestXのイチゴはこんなにも綺麗に生産できるのか教えてほしい」というお声をいただき、お客様のニーズをさらにヒアリングしていくと、「原材料が高騰し、手に入りにくい状況だからこそ、自分たちで作物を作らないといけない」という課題が見えてきました。

生産されたイチゴ全体の3〜4割は加工食品に使われていますが、メーカーの求める品質の水準が高く、さらには農家の数も減っていることから、最近では加工用のイチゴが手に入りにくくなっています。手に入りにくいとなれば、事業会社は自前で加工用のイチゴを調達するために、ハウス栽培を始めたりします。しかし、安定かつ品質を担保した生産の仕方がわからず、ご相談をいただくケースが多いですね。

我々としては、あくまで植物工場の完全自動栽培を実現したかったこともあり、ロボットの栽培検証をするために、いろんな資材メーカーから栽培ラックやLEDを取り寄せていました。
特に生産設備メーカーを目指していたわけでもなかったのですが、結果的にその取り組みが食料製造業の方にも認めてもらえるイチゴの生産につながり、「ロボットだけではなくファーム全体を提供してほしい」という要望が次第に増えていったのです。

こうした経緯から、栽培ラックや栽培レシピ、液体肥料の調整装置からデータ収集用の作業用ロボットなど、 一気通貫で事業会社の支援をするようになりました。

VCからの出資を受ける判断基準になった「成長の時間軸」

 ── DEEPCOREとの出会いや出資を受けた決め手は何だったのでしょうか?

市川:DEEPCOREが運営するKERNELの第1期メンバーに採択され、本郷のインキュベーション施設を使わせてもらっていたときに、DEEPCOREの方と接点を持ちました。

出資を受けるかどうかの判断基準として、ハードウェアを手がけるスタートアップの成長に伴う時間軸の認識が合うVCかどうかは見ていましたね。
ソフトウェアと異なり、我々のようなハードウェアは創業して1〜2年でサービスインできるわけではないので、研究開発を行い、実証実験をもとにプロダクトを作っていき、市場に出していくという時間の感覚が合わないと、お互いWin-Winの関係は生まれないと感じていました。

そういう意味では、DEEPCOREの投資先ポートフォリオや投資先の成功事例・失敗事例などを確認し、我々の手がける事業の成功確率をどれだけ高められるのか、成長に寄与する繋がりを作っていただけそうかなど、総合的な判断から出資を受けることを決めました。

「品種の多角化」と「グローバル展開」でさらなる事業成長へ

 ── 出資を受けた後に組織体制やマインドの変化があればお聞きしたいです。

市川:現在、我々はプレシリーズAラウンドのフェーズですが、「投資家とのコミュニケーション」は、DEEPCOREの担当者から詳しく教えていただきました。

投資家に対する接し方はもちろん、事業の進捗状況や成果の伝え方、報告の際に留意すべき点、明瞭かつ視覚的に見せる資料作成の方法など、具体的にいろいろなサポートをしていただいています。

投資家との折衝の仕方、ステークホルダーへの発信など、出資して終わりではなく、事業成長に関わることは細かいことでも支援いただけるのは、本当に助かっていますね。

── 最後に今後の展望について教えてください。

市川:まずは既存の主軸であるイチゴ自動栽培ソリューションを、継続的にお客様に使っていただけるように、サービスのブラッシュアップをしていきます。

そのうえで、他のフルーツや野菜の生産体制にも課題があるので、「品種の多角化」を視野に、事業拡大していければと考えています。また、イチゴ栽培をワンストップで実現するパッケージ販売に関しては、国内の加工食品メーカーや食品製造業を中心に販路拡大していきたいですね。

やはり、従来のやり方である「ハチを媒介とした授粉」や「人の手による授粉」だと、時間もかかるし、品質にも“ばらつき”が生じてしまう。それに、ハチの場合は異物混入のリスクも大きくなってしまいます。

そうなると、必然的に機械化が求められてくるわけですが、世界的に見てもイチゴの自動授粉と栽培をロボットで行えるのはHarvestX以外に存在せず、唯一無二の技術とソリューションを持ち併わせているのが大きな強みだと言えます。

我々のメインの市場は海外になるので、今後はグローバルにも届けられるような体制を作っていきながら、より多くのお客様にHarvestXを使っていただき、農業の抱える社会課題の解決に貢献していきたいです。

 ——ありがとうございました!

■会社概要
会社名:HarvestX株式会社
設立日:2020年8月
コーポレートサイト:https://harvestx.jp/

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