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キャピタリストとして「正しい問いを立てる」こと。起業家や事業の性質に合わせたコミュニケーション

DEEPCORE キャピタリストの左 英樹に、これまでの投資活動と投資先との関わり方についてインタビューしました。

<プロフィール>
左 英樹(Hideki Hidari)
DEEPCOREで、海外を含む投資業務に従事。ソフトバンクグループ株式会社の社長室 戦略企画グループにて全社戦略の企画業務に携わった後、投資企画室マネージャーとして同社の投資検討・実行、ファンド立ち上げ業務に従事。その後、ソフトバンク・ビジョン・ファンド 東京オフィスに転籍し、主に中国・東南アジアにおけるスタートアップ企業へのデューデリジェンス、投資実行、投資後のモニタリング業務を経験し、DEEPCOREに参画。 慶應義塾大学経済学部、慶應義塾大学大学院 経営管理研究科卒業。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドで得た経験

——DEEPCOREに入る前からキャピタリストとして働いていたんですよね。

はい。ソフトバンク・ビジョン・ファンド(1号ファンド)で、中国・東南アジアを中心とした海外のスタートアップへの投資を担当していました。当時は10兆円ファンドと呼ばれ、担当させていただいた大きな投資案件では、例えば既に社員が4〜5千人いて時価総額4,000億円前後の会社に1,000億円の出資をするなど、日本のスタートアップシーンと比べると桁が違うような投資活動をさせていただきました。その後、担当先でグローバルIPOを実現した会社も複数社あり、グローバルなダイナミクスのなかで投資活動を学べたのは代え難い経験でした。

——やりがいのある環境だったと思いますが、そこからどんな経緯でDEEPCOREに入ろうと思ったのですか。

ビジョン・ファンド時代は、”プロダクトマーケットフィット”は完了している投資先がほとんど。所属していた投資チームの役割としては、会社側が作成した財務事業計画の蓋然性を確認しつつ、上場マーケットの状況を踏まえて自社が何倍のリターンをとれるのか事前に把握していくような業務が主でした。

そのような業務をするなかで、プロダクトマーケットフィットの手前の、まだ事業として成功するかわからない不確実性のなかで投資を行うこと、そしてより大きなリターンをとりにいくことに興味がでてきたんです。

またビジョン・ファンドの1号ファンドは当時、日本国内での投資はおおよそスコープ外でしたが、日本発のスタートアップでグローバルで戦えるような企業を支援していきたいという思いもありました。

——日本発でグローバルで戦えるようなスタートアップの支援がしたい、と。

ベンチャーキャピタルの事業は、非常にローカルビジネスというか土着性の強いビジネスだと思っています。起業家のコミュニティに入り、優秀な起業家の評判やレファレンスをうまく取りながら投資機会を模索していくので、ローカルにならざるを得ないという側面もあります。

そんなベンチャーキャピタルの性質を踏まえ、自分が拠点を置いている日本で、グローバルで戦えるスタートアップの支援をしていくことに強い関心を持ちました。

——一緒に仕事をする方の存在も大きかったと聞いています。

そうですね。昔から信頼していて、人間としても尊敬している仁木さん(CEO)、雨宮さん(CFO)にご縁をいただいて、彼らのもとで働くのは非常にやりがいを感じられるだろうと思い、それもDEEPCOREに入る決め手となりました。

主体性という自由と、投資先の成長リターン創出に対する責任

——ビジョン・ファンドにいたからこそ、今に生きていることはありますか。

今の投資先の中には、日本発のスタートアップでありながら、事業を海外でスタートさせる企業もあります。彼らを、ビジョン・ファンド時代から付き合いのある現地のベンチャーキャピタル、事業会社、アクセラレーター等に紹介してバリューアドしていくのは、ビジョン・ファンドにいたからこそできる支援だと思っています。

——ご自身のスキルとしてはどうでしょうか。

投資のプロセス、バリエーションやリターンの考え方、投資仮説の作り方などを体系的に経験したことは、投資対象が国内中心でアーリーステージに変わっても生きていると思います。

——DEEPCOREでキャピタリストとして働いて、日々どのようなことを感じていますか。

自分がフロントの投資担当者としてイニシアチブを持たせてもらっているがゆえに、この投資が本当に投資すべき案件なのか、ファンドにお金を預けてくれているお客様に対してリターンを返し得る案件なのかどうか、別の言い方をすれば、この事業が本当に社会の役に立ち、何らかのインパクトを与え得る会社なのかどうか、を考えることができています。

そこには変なノイズがないんです。そこがDEEPCOREのすごく良いところだと思っています。

——一方で責任も発生しますよね。

はい。ファンドないしはファンドにお金を預けてもらっている人達に対してしっかり還元をしていくこともそうですし、投資先をしっかりと支援し成長させていくことに責任が発生するのも事実です。この、主体性を前提とした投資活動における自由さと、投資先の成長リターンの創出に対する責任のバランスがDEEPCOREのすごく好きなところでもあるし、僕のやりがいの根源的な部分になっていると思います。

DEEPCOREメンバー 八丈島でオフサイト合宿

起業家や事業の性質を見極めたコミュニケーションで信頼関係を構築

——左さんが担当している投資先について教えてください。

株式会社GramEyeは、大阪大学医学部発の医療機器開発ベンチャーです。国内外で最も一般的に行われている「グラム染色」という微生物検査を、ロボットとAIを使って完全自動化するソリューション医療機器を開発しています。

会社設立直後の初めての資金調達で出資をさせてもらいましたが、創業メンバーの平岡さん・山田さんは、当時まだ大阪大学医学部を卒業したばかりの研修医と4回生の学生でした。初期の支援活動は、一般的な社会人としてのマナーから始まり、共同研究先との交渉方法やロジック構築など、踏み込んだ支援をさせていただきました。

——すごいですね。

当時はまだプロダクトとしてもコンセプト段階ではあったものの、資金調達や研究開発活動を通じて、会社のビジョンや実現したい世界に共感する仲間がどんどん増えていきました。感染症の権威の方が顧問についてくださったり、顧客となる医療機関が積極的に臨床試験を引き受けてくださったり。

創業メンバーの方が持つ解決したい課題、事業に対する思い入れやこだわりは、そのまま事業対する解像度に直結すると思っています。

GramEyeの場合、「グローバルな社会・医療課題である薬剤耐性菌問題の解決をしたい」という彼らの問題意識に多くのステークホルダーが共感してくれて、そこに我々からの支援や資金が合わさり、世の中の為になるものを社会実装していく。

このダイナミックなプロセスにキャピタリストとして関わることができる、これほど幸せなことはないなと思います。

——すごく密なサポートをされている印象ですが、他の担当企業でも同様ですか。

そうとも限りません。起業家との関わり方や支援の内容については、起業家のタイプや事業の性質によって変えています。

例えば、MI-6株式会社のCEOである木嵜さんはとてもバランス感のあるリーダーシップを持たれていて、自分自身が考えどんどん実装し行動していけるタイプです。

MI-6は、「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」と呼ばれる領域で、主に素材メーカーに対して、素材開発プロセスをより効果的に、効率的に行うためのソリューションを開発しています。

専門性の高いディープテックと呼ばれる領域ですが、木嵜さんご自身は法学部出身で、提供しているサービスと彼自身のバックグラウンドはまったく異なるんですよね。一方で、大半の社員の方はディープテック領域でエンジニアや研究開発をされてきた人たちです。

ディープテックスタートアップにとって、研究開発を加速していくための「資金調達」は非常に重要です。ただ当時、大半の社員がエンジニアや研究開発を行う方々だったこともあり、”資金調達とは何か、MI-6にとってどのような重要性があるのか”、ということがいまいち社内でコンセンサスがとれていなかったようです。

そのような課題感を木嵜さんからお伺いし、私から社員の皆さんに対して、エクイティファイナンスの考え方、MI-6にとっての重要性や、事業のマイルストーンを踏まえた各人のOKR等のトピックについて、説明や情報交換をする場をいただきました。その上で木嵜さんが社内のコンセンサスを取りにいく、といった形でご支援させていただいたこともあります。

——ユニークなバックグラウンドを持った起業家を多く担当されていますね。

Diver-X株式会社の創業メンバーである迫田さんや浅野さんも非常に興味深い起業家です。CEOの迫田さんは幼少期にお父様が処分したビデオデッキを解体して遊び、機械の構造を自然と学んでいったような技術ドリブンなタイプです。

Diver-Xは、当初の事業からピボットし、現在はVR空間上で物体に触れる感覚を再現できる「触覚フィードバック機能を備えたグローブ型コントローラー”Contact Glove”」を開発しています。

我々はピボット前に出資させていただいたのですが、当時は寝ながらの姿勢に特化したヘッドマウントディスプレイを開発していました。出資前に実際に仁木さんや雨宮さんに実機を体験してもらいましたが、「左くん、これはピボット前提の投資だよね?」と何度か念押しされたのも良い思い出です(笑)

投資が決まり、そこからも様々なドラマがあって現在のプロダクトの着想や開発にたどり着きました。創業メンバーであるお二人は、フルダイブ技術と呼ばれる「バーチャル空間上と現実の世界の垣根を越えていく」世界観や技術に彼らなりのミッションを感じ、現在も事業に取り組まれています。

——投資先との関わり方で気をつけていることはありますか。

起業家や経営陣のタイプ、プロダクト/サービス/事業の性質を踏まえて、コミュニケーションやサポートは変えるようにしています。

例に上げた3社でいうと、GramEyeは今でも週次でミーティングをしていて、開発・事業・組織それぞれの進捗を比較的密にコミュニケーションさせていただいています。

MI-6の場合は、事業一つ一つの進捗を確認するというより、「困りごとはない?」と隔週ペースでのキャッチアップからご支援が始まることが多いかもしれません。適度な距離感を保つイメージです。

Diver-Xも、事業のステージや創業メンバーのタイプ的に、あまりガチガチに仮説検証のプロセスを組まない方が良いと感じていて、定期的に開発拠点に伺って近況をキャッチアップし、ご支援させていただくような関わり方をしています。

——投資先の特性を見ながら動くことで、良い信頼関係を築けているのが伝わります。最後に、キャピタリストとして特に意識して心掛けていることは何でしょうか。

投資活動や投資先への支援活動を行う上では、「正しい問いを立てる」というのが重要だと考えています。

VCが行う投資活動も、スタートアップが行う事業や開発等の活動も、何らかの仮説を検証するプロセスと言い換えることができると思います。少し抽象的に聞こえるかもしれませんが、その仮説検証を正しく行うためには、そもそも「正しく問いを立てられているか」ということが出発点になります。

特にシード・アーリーステージの起業家の方への初期のご支援の内容は、やみくもに事業や開発に取り組んでいただく前に、”そもそも解くべき重要な問いが何なのか” をクリアにする作業をご一緒します。

正しい問いを立てた後の仮説検証プロセスでは、顧客インタビューやセールスプロセスを我々主導でアレンジしてインタビューも行い、その一連のやり方を起業家の方に見ていただくことも。

起業家が正しい問いを立て仮説検証することができるかどうかは、事業のステージや起業家の年齢とはあまり相関性がないように思いますし、起業家自身の性格やこれまでの環境、思考の癖のようなものもあります。いずれにしても、起業家のタイプや事業の性質を見極めた上で伴走支援させていただいている、ということなんだと思います。

▼採用情報
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