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ステロイド軟膏の副作用?

外来で診察をしていると、最近でもステロイド軟膏の副作用を心配されている方の声をよく聞きます(以前よりは正しい知識が広まってきて、減ってきてはいる印象です)。

「ステロイドを塗ると肌が黒くなる!」

「使いすぎたら止められなくなる!」

「薬局でも薄くぬって、なるべく早くやめましょうと言われた!」

メディアやSNSだけでなく、未だに医療者の中でもステロイド軟膏の副作用について間違った認識をされている方がおりますので、ここでまとめてみようと思います。

先に結論をいうと、「メディアやSNSで言われるステロイド軟膏の副作用は間違っていることがほとんどです。正しい知識をつけて使えば、ステロイド軟膏は心強い仲間。塗り方・止め方はしっかりと医師に相談しましょう」です。

ステロイド軟膏とは
ステロイドは、もともと人の体の中にある『副腎』という組織から作られる抗炎症ホルモンのことです。それと似た成分をもつステロイド軟膏は、皮膚の炎症(湿疹・かゆみ)に効果的で、安全性も高いため、アトピー性皮膚炎などの皮膚の炎症に世界中でよく使用されている『標準的な治療薬』です。

ステロイド軟膏は強さが5段階に分けられていて、炎症の程度や肌の厚さで強さを分けて使用することができます。強すぎる軟膏を使うと副作用が出やすいのはもちろんですが、弱すぎる軟膏を使用しても効果はなく、むしろ長期間ステロイド軟膏を使用する原因になります。
基本的にこどもの肌は大人と比べて薄いので、大人よりも弱いレベルの軟膏で十分な効果が得られることが多いです(メインはⅢ〜Ⅳ群ですね)。

ステロイドの副作用に関するよくある間違い

では、よく言われるステロイドの副作用とは実際にはどうなんでしょう。
実はよく言われる副作用は多くは誤解から生まれています。

① 飲み薬や点滴のステロイドと勘違い
ステロイドは自己免疫疾患や悪性腫瘍、腎疾患などにもよく使用されます。少し前に、新型コロナウイルスに対する薬として話題にあがった「デキサメタゾン」もステロイドの一つです。
これらの病気では、場合によって長期間ステロイドを内服する必要があります。その際に、以下のようなステロイドの全身性副作用に注意が必要となります。*病気とステロイドの使用量でどのくらい注意が必要か異なります。

*ステロイド内服薬の長期使用に関する副作用
(小児期から問題になりやすいこと)
免疫抑制(感染症に弱くなる)、成長抑制(身長が伸びない)、肥満、筋力低下、精神症状(イライラ、元気でない)など
(成人期に問題になりやすいこと)
上記に加えて、高血圧・糖尿病の悪化、骨粗鬆症など

これらの副作用は飲み薬として長期使用した場合に注意するもので、塗り薬で起こることはほとんどありません。特に、こどもの場合にはあまり強い軟膏は使用しないことが多いので、より安全です。

② もともとの炎症によるものをステロイドのせいと勘違い
巷でよく言われる「肌が黒くなる」「ぬっていると効かなくなる」は、炎症によるものの可能性が高いです。

「肌が黒くなる」のは、肌荒れ・掻くことによって細胞が壊れて、その中の色素(メラニン)が溜まってしまっている状況です。ステロイド軟膏を使用すると、赤みが引いてくるので、黒く見えたり、まだらになってみえることがありますが、それは炎症の痕が残っている状態です。治療を続けていけば、だんだん良くなっていきます。

「ぬっていると効かなくなる」のは炎症への対応が不十分なときに、起こります。特に、弱すぎる軟膏を塗っている場合や、まだ十分に良くなっていないのに、すぐに治療を減らしてしまう場合に感じることが多いです。
少し良くなってように見えても、掻いたり、体調不良になったりすると、アトピー性皮膚炎は悪化します。そのときに以前使用した軟膏を塗っても、重症度が変わっていて効かなくなることがあります。
ステロイド軟膏は処方されたときに医師の指示通り、ある程度の期間しっかりと塗っていくことで十分な効果が得られます。(古い先生や薬剤師さんが未だに「うすーく塗って、できるだけ早くやめるように」とか指導している人もいるので、心配になられてしまう理由はよくわかります・・・)

③ 勘違いというより完全に間違っているもの(いわゆるデマですね)
「ステロイドは排出できないので体に蓄積していきます」という意見をときどき聞きます。ステロイドホルモンはもともと体の中で作られているものなので、そもそも蓄積するということがあまり医学的にイメージもできないものですが・・・。一言で言えば、蓄積はしません。

むしろステロイドの内服や点滴、強いステロイド軟膏を多量に使用する必要がある場合は、血液中のステロイドホルモンの値は低下します。これは体が作らなくても、「外から入ってくるから作らなくて良いか」と判断してしまっている状態です。この状態が続くと、ステロイドホルモンを急に止めてしまったときに、スムーズに自分で作ることができず、一時的にステロイドホルモン不足が起こることもあります。これが以前メディアで言われたリバウンドに当たると思います。通常の外用剤使用であれば問題になることはあまりありませんが、頭の片隅に入れておいても良いかなと思います。

では本当の副作用は?
ステロイド軟膏についてよくある副作用の誤解について書いてみましたが、実際の副作用はどういったものかも知っておく必要があります。

実際の副作用は、塗った場所の変化として「少し毛深くなる」「ニキビができやすくなる」「真菌感染を起こしやすくなる」「皮膚が薄くなる」などが一般的です。これらのほとんどはステロイド軟膏を減量・中止すればよくなる副作用なので、塗るメリットの方が明らかに大きいです。

ただし、長期的に使用する場合に一つ注意することとして、「皮膚が薄くなる」場合に、妊娠線のような線ができる(皮膚線条)、顔が赤ら顔になる(酒さ)ことには注意が必要です。いずれもなかなか良くなりにくいものなので、適切なタイミングで減量・中止していくことがポイントです。
*ステロイド軟膏は心強い味方ですが、ずーっと続けるものではなく、良い状態をしっかりキープしていけばゆっくり減量・中止ができるものです。
塗ったり・止めたりを繰り返している場合は、できれば一度しっかりと治療してみることをお勧めします。

まとめ
ステロイド軟膏は未だにネットで調べても副作用に注意することばかり見つかることが多いです。そんな中でお子さんに使用するのは、不安なことも多いと思います。ただ上記の通り、ほとんどは間違った認識だったりします。
もし現在お子さんに塗りたくないと強く思われている場合、副作用について調べれば調べるほど変な情報がでてきます。それらのほとんどは誤った管理が原因だったり、アトピービジネスとも言われるスキンケア用品などの販売促進だったりします。

今回の結論は「メディアやSNSで言われるステロイド軟膏の副作用は間違っていることがほとんどです。正しい知識をつけて使えば、ステロイド軟膏は心強い仲間。塗り方・止め方はしっかりと医師に相談しましょう」です。

実際に、ステロイド軟膏を減量・中止していく方法は個々の患者さんによって変わってくるため、基本的には信頼のできる医師としっかり相談してください。アトピー性皮膚炎のお子さんでしたら、少なくとも「プロアクティブ療法」についてある程度理解している先生が良いと思います。

なお、ある程度湿疹がよくなってくれば、タクロリムス軟膏(®プロトピック軟膏)という、ステロイドとは別の軟膏も十分選択肢になります。ステロイド軟膏と異なり、強さのランクはありませんが、だいたいmildクラスのステロイド軟膏と同等の強さがあり、皮膚が薄くなるような副作用はありません。炎症が強いときには少しヒリヒリしやすいため使用しにくいですが、落ち着いたところで使用すれば、より安心して使用できると思います。

参考文献
・小児アトピー性皮膚炎ハンドブック 環境再生保全機構
(アレルギーポータルなどから無料でダウンロードできます)
・新板よくわかるアトピー性皮膚炎 日本アレルギー協会
(こちらも無料でダウンロードできます)

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