発達障害、聴覚過敏、不眠…そして気づいた大事なこと
発達障害の人のなかには、聴覚過敏で悩む人も少なくありません。私もまさに、そのうちの一人。聴覚過敏があると、ふつうの人なら当たり障りのない物音でも、異常に大きく聞こえたり、苦痛に感じられます。
発達障害を理由に無職になった約7年前、やはり音がうるさくて不眠になったことがありました。その時に得た大事な気づきを、ここで紹介いたします。同じくこの特性で眠れなくなるほど困っている人に、読んでほしいです。
無職のストレスから不眠症に
私が発達障害の診断を受けたのは、コールセンターで働いていたことがきっかけでした。電話応対が致命的なほど苦手だったんです。お客さまの話が理解できず、どもってしまうこともしばしば。周囲の鳴りやまない電話に、耳をふさぎたくなったこともあります。私は命からがらコールセンターを退職しました。
すっからかんの無職になって、仕事が見つからないストレスからでしょうか。日ごとに首が痛くなり、とうとう頸椎椎間板ヘルニアを発症してしまいました。激痛で身動きが取れないにも関わらず、失業保険の残日数は刻々と減っていきます。私は不安でなかなか眠れなくなりました。
眠れない秋の夜…耳栓を外すか着けるか悩む
ある秋の夜。布団を重ねようか迷うほど、肌寒くなってきたころです。自動車が走る音と、虫の音が異常に気になり、私は寝るときまで耳栓をしようと試みました。私の当時の住まいは、車通りが多い道路に面していました。近隣には栗林や畑が広がっているため、この季節はどうしても賑やかになります。
ところが耳栓をしたところ、かえって気になる音がドクンと高鳴りました。私の心臓の音です。耳栓を外すか、着けるか。虫の音を我慢するか、鼓動の音を辛抱するか……。二者択一を迫られたとき、闇に光が灯ったように、ある思いが浮かび上がりました。
休まずに働く身体に感謝
真っ暗闇のなか、頭から布団にくるまって耳栓をしていると、自分の心臓の音だけがよく聴こえます。ふだんではなかなか味わえない感覚です。ドクッ……ドクッ……。怖いくらい規則正しい心拍音に、久々に耳を澄ましたとき、自分の身体に対する感謝の思いが、不思議と湧き上がりました。
私が眠ろうとしているときも、心臓は休まず動いています。もしも心臓が止まってしまったら、私は永遠に眠りに落ちることになるでしょう。自分の意思とは関係なしに働き続ける身体に、我ながら尊敬してしまいました。
そして、発達障害の原因が脳にあるなら、そのことについて落ち込むとき、脳が脳について思いを巡らせていることになります。脳は何の文句も言わずに、黙々と考えてくれています。
身体が幸せになれるよう、もっと労わってあげられたらいいのに。私は心の底からそう思いました。今までも確かにがんばって生きてきたけれど、どこか環境とずれてしまって、全身が悲鳴を上げていたのかもしれません。
社会人である以前に生き物
たとえば私は聴覚過敏があるにも関わらず、コールセンターでずっと神経をすり減らしながら働き続けました。虫の音よりも激しくコール音が鳴るオフィスでです。私がクレームの電話に、それこそ消え入りたくなったときも、心臓は止まりませんでした。脳も必死になって怒声を聴き取り、返答の言葉を探し求めていました。
私は社会人である以前に、生き物です。どんなに合わない環境にいても、身体は本能で生き続けようとします。聴覚過敏も生きるうえでの過剰反応なんだと思うと、何だかいとおしいです。
虫も人も必死に生きている
虫が鳴いているのも、元はと言えば次世代に命を繋ぐためなんですよね。虫は異性を求めて、懸命になって羽を鳴らしています。そう考えたら、不思議とうるさいと思えません。
自動車だって単なる物体ではなくて、人が運転しているものです。働いたり生活するために、人々はハンドルを握っているんだろうと想像すると、流石に恨むことはできません。
私を取り囲む音は、虫にしても自動車にしても、生きるために鳴らされているのがほとんどでしょう。みんなそれぞれの立場で、命がけなんです。
まとめ
発達障害で聴覚過敏になって、眠れない夜に気づいたこと。それは私が社会人である以前に、ひとつのかけがえのない生き物であるということです。
発達障害があると、社会に適応するのが難しいこともあります。そのことが原因で、殻に閉じこもることもあるかもしれません。そのようなとき、社会的な立場よりももっと大きな、生物的な立場を忘れてしまっていないかと思うのです。
悩み苦しんでいるときも、心臓は高鳴り、脳は考えます。それは他の人たちや、生き物たちもみな同じ……そう思うと、騒がしいと感じていた音も、今までとは違って聴こえてくるような気がします。
聴覚過敏でお困りのみなさん、いろいろ大変なこともあるかもしれませんが、どうか自分の身体を労わってあげてくださいね。
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