第4回 『サッカーは「死にゲー」だ 〜スポーツで学ぶゲームデザインの基本〜』

割引あり

今回は趣味の話をする。

プロフィールにて、

取り扱う話題はこんな感じ

(中略)

趣味の類の感想
・療養中にふれたコンテンツの感想
※約10年大手ゲーム会社に勤めてて、ディレクターに任命されたこともあります。ので、ただの感想は書きません

なんて大口を叩いてしまったので、そろそろ1回やっておこうと思う。

今回取り扱うテーマはメジャースポーツだ。
具体的には、サッカー、バスケットボール、そして野球だ。

2024年6月2日現在、欧州サッカーと米国バスケットボールが、それぞれシーズンの佳境を迎えようとしている。

・6/2 UEFA CHAMPIONS LEAGUE 決勝

・5/31NBA 西カンファレンス決勝 終了
・6/7 NBA final 第1戦

さらに、野球も中盤戦を迎え、今シーズンの趨勢が見え始めるころだ。
今回は、主にMLBについて取り扱おうと思う。

今回はこれらスポーツを例にして、
ゲームデザインの基本について書きたいと思う。

趣味系の話題の1発目としては、なかなかいいチョイスじゃないでしょうか。

例1:サッカー

サッカーは、中学、高校の頃、まだ実家にいた頃にイングランドプレミアリーグをよく見ていた。

当時はアーセナルのファンで、特に当時ストライカーとして覚醒し始めたロビン・ファン・ペルシーが好きだった。

大学進学を機に上京してからは、ワールドカップを見るくらいの、まあ普通のサッカー好きになっていたが、ここ数年、なんと母が欧州サッカーを見始めた。

母はルカ・モドリッチのファンで、レアル・マドリードを応援している。
だから実家に帰省した5月半ば、レアル・マドリード対バイエルン・ミュンヘンのCL準決勝を母と一緒に見た。

その途中、サッカーというスポーツそのものについてふと思ったことがあったので、それを以下に書いていこうと思う。
それがタイトルにもあるサッカーは「死にゲー」だ、ということである。

サッカーの「スタミナ管理」

「死にゲー」だ、というのは、スタミナ管理が似ているなと思ったからである。

サッカーは、脚を使うスポーツだ。
その脚には、二通りの使い道がある。

①ボールコントロールの手段
②移動の手段

わたしは死ぬのがあまり好きではないので「死にゲー」「ソウルライク」といわれるゲームはほとんどやらないのだが、お勉強でちょっと触れたことはある。

これらのゲームは攻撃をするにも防御をするにもスタミナを消費する。

そしてスタミナが切れた時、大きな隙を晒してしまい、たとえ相手がザコ敵だとしても、あっという間に押し込まれて死んでしまう。

死にゲーは、この「スタミナ管理ができないと、死ぬ」システムによって、緊張感を生み出している。

サッカーは別に死ぬことはないのだが、似ている部分もあると感じた。

先ほども触れた通り、サッカーにおける「脚」は、
①ボールコントロールの手段
②移動の手段
という二通りの用途がある。

スタミナ管理が関わるのが、「②の移動にどれだけスタミナを割くのか」ということである。

要は、「走れば走るほど(②)、繊細なボールコントロールができなくなる(①)」ということだ。

・走り過ぎれば、ボールコントロールが乱れて、攻めが十分に機能しなくなる

・走らなければ、十分に攻められないし、相手の攻撃を守れない

この単純明快なスタミナ管理要素が、サッカーを世界No. 1の人気スポーツにした隠れた理由のひとつなのではないかな、と思った次第である。

スタミナ管理をどううまくやるか、方法は2つある。

ひとつは、スタミナの絶対量を増やすことだ。
それこそプロサッカー選手たちは、日々の厳しいトレーニングによって、常人をはるかに上回るスタミナをもっている。

もうひとつは、チーム単位でのスタミナの傾斜配分だ。

これはリオネル・メッシを想像してもらえばわかりやすい。
メッシは走るのに割くスタミナをとにかく温存し、ここぞという攻撃のチャンスに相手に致命傷を与える一撃を高い精度で繰り出す。

そしてメッシが走らない分、周りの選手たちがそれをカバーするくらい走り回って相手のオフェンスを凌ぐ。

例2:バスケットボール

最近一番試合を見ているのが、NBAだ。

2、3年前はプレーオフ1回戦から全試合見ていた。
1年前は仕事が忙しくてファイナルだけしか見れなかったが、これも楽しかった。

楽天がNBAの視聴料金を大幅値上げしたので熱も冷めた…のだが、なんとWOWOWもNBAを中継してした。

前述の通り、母がCLをみるたびにWOWOWを契約しているので、それに乗じてNBAをまた見始めた。

今年は東西カンファレンスファイナルから見た。
今年のNBA flnalはボストン・セルティックス対ダラス・マーベリックスとなった。

勝負の分かれ目は、「ルカ・ドンチッチとカイリー・アービングのオフェンスの出来」かと思う。

順当にいけば、総合力に勝るボストンが順当に点を取って、順当に堅く守って、勝つだろう。

が、もしルカとカイリーが、ボストンが誇るホリデー、ホワイト、ブラウン、テイタムの鉄壁のディフェンスを正面から破壊できるほどのクオリティを見せられれば、勝つのはダラスだ。

なにより、カイリー・アービングがNBA flnalに戻ってくるのが楽しみでたまらない。
わたしが初めてNBAにふれた2015-16シーズンのファイナルの伝説的パフォーマンスの再来を期待したい。

NBAの「バランス調整」

バスケットボールは、「いかにミスマッチをつくるか」のスポーツだ。

・大きいが遅い選手に、小さいが速い選手をぶつけて、ドリブルで抜き去ってレイアップ

・小さい選手に、大きい選手をぶつけて、押し込んでゴール下でシュート

のように、有利な対面を作って、点を取っていく。

基本的には、「小さい選手ほど、速く、ドリブルなどのスキルが高い」「大きい選手はあまり速くなく、スキルも高くない」ということが多い。


ところでこちらをご覧いただきたい。1955年から1975年までのNBA年間最優秀選手の一覧だ。

なんと、ほぼポジションがセンターの選手しかとっていない。
センターは、要は一番大きいポジションだ。

ゴールが高い位置にある以上、「ゴールの近くに一番大きい選手が陣取って、ゴールに強引にボールをねじ込む」という戦術が、どうしても有利になってしまうのだ。

そこで、NBAは小さい選手が活躍できるように、数々のバランス調整を行ってきた。

①3ポイントシュート
3ポイントは、実は最初からあったルールではない。
NBAでは1979-80年シーズンから採用されたようだ。

これにより、「ゴールから離れる」ことに、「得点効率が1.5倍」という非常にわかりやすいインセンティブが追加された。

②3秒ルール
簡単にいうと「ゴール下に3秒以上いてはいけない」というルールだ。

経緯については、単純に「ゴール下に大きい選手が居座り続けると、攻撃も守備もその選手で完結してしまう」という理由ではないみたいだ。

オフェンス3秒ルールは、1930年代には採用されていたようだ。

NBAでは2000-01年から、ディフェンス側の選手にも適用された。
上記は、1950年代から「ゾーンディフェンス禁止」という形で禁じられていた。つまり、守備側の選手はそれぞれ特定の選手の攻撃側選手のマークにつかなくてはいけない。
オフェンス3秒ルールはあるので、おのずとゴール下に大きい選手が居座り続けることはできない。

一般的には、「シャキール・オニールの影響」といわれることが多いようだ。
シャキール・オニール、通称シャックを簡単に説明すると、「あまりにも大きすぎる選手」だ。
強すぎるシャックを止めるためのルールとして、「ゾーンディフェンス解禁」と「ディフェンス3秒ルール採用」のルール改正が行われた、ということである。
「複数人でゴール下を固めてもいいよ」「でもゴール下に居座るのはやめてね」ということだろう。
参考:(Wikipediaの孫引きなのとかは、許してね)
https://ameblo.jp/nba-leblog/entry-12763426759.html

経緯については色々な説があるにせよ、これによって戦術の幅が広がったことは確かなようだ。

③ハンドチェック禁止
2004-05シーズンから採用された。

ハンドチェックとは、「ディフェンス側の選手が、マークしているオフェンス側の選手に手や腕をふれる」ことである。

これによって、ディフェンス側は、オフェンス側の選手の動きを察知しやすくなる。

また、特にサイズの小さい選手は、より大きい選手に物理的にに動きを封じ込められてしまう。

魅力的な、すなわちよりオフェンシブな、スピーディーなゲームを増やしたかったNBAは、「ハンドチェック禁止」ルールを追加したのである。


上記のように、大きい選手に不利な、そして相対的に小さい選手に有利なルール改正を重ねてきた結果、2000年〜2018年の年間最優秀選手は以下のようになっている。

ガードとフォワードの選手が、見事に半々に選出されている。

近年のNBAは、ステフェン・カリー擁するゴールデンステート・ウォリアーズの4度の優勝に象徴されるように、「小さくて速い」選手優位とまでいえる時代に突入している。

NBAは、バランス調整に成功したのだ。

ところで、2019年〜2024年の年間最優秀選手は以下のようになっている。

また、パワーフォワードやセンターといったサイズの大きい選手が独占するようになっている。

なんと、「大きくて、速い」「大きくて、うまい」選手が出てきてしまったのだ。

各選手の説明については、まあyoutubeで名前を検索してもらえばわかると思う。
特に、ヤニス・アデトクンポはひと目でその異次元さがわかるはずだ。

さて、今後のNBAはどうなっていくのだろうか…

例3:野球

わたしが一番ニュースを追いかけているのは野球だ。

NPBはもちろん、MLBも毎日ニュースを追いかけては、誰がホームランを打ったとか、順位がどうとか、ケガ人がどうのこうのとか、一喜一憂している。

野球は非常に不確実性が高いスポーツだ。
打者は打っても3割、MLBでここ数年ダントツに強い選手を集めているドジャースも世界一になったのは2020年だけ。ヤンキースも同じく大金を払って選手を集めているが、松井秀喜のいた2009年以来、ワールドシリーズに進出すらできていない。

今年はどこが世界一になると思いますか?

順当にいけばドジャースなんだろうが、わたしはパドレスの世界一が見たい。
タティスJr、マチャド、ボガーツと戦力は揃っている。

何より、日本が産んだレジェンド、ダルビッシュ有の世界一はぜひとも見たい。

それ以外だと、ブレーブスか、ヤンキースかな。
アクーニャJrにも、ジャッジにも、一度は世界一をとってほしいな。
アクーニャJrケガしたらしいけど…

MLBの「成長サイクル」

MLBは勢力図の入れ替わりが激しいリーグだ。

2023年シーズンのワールドシリーズはテキサス・レンジャース対アリゾナ・ダイヤモンドバックスとなったが、両チームとも2022年にはなんとプレーオフにすら出場していない。

前述の通り、野球自体不確実性の高いスポーツであることに加えて、MLBが勢力図の入れ替わりが起こりやすいルールを作っているからだ。

①サラリーキャップと贅沢税
MLBでは、各チームが選手に払える年俸に上限を設けている。

これによって、日本でいう読売ジャイアンツのような、「金を持っているチームが、強い」という構造が生まれないようにしている。

…のだが、実はこの年俸上限、平気で破ることができる。

しかしサラリーキャップを超過した分の選手年俸に対しては、贅沢税というものがかかるようになっている。

さらにこの贅沢税、サラリーキャップを超過した年が連続するほど、どんどん税率が上がっていく。

この贅沢税はMLBが徴収し、贅沢税を超過しなかった球団、つまり資金力の乏しい弱小球団に分配されるようになっている。

②ドラフト
MLBのドラフトは、抽選が一切ない。

つまり、前年最も勝率が低かったチームから順に、選手を順番に選んでいける。

マイク・トラウトクラスの、ひとりで年間10勝分活躍できるポテンシャルのある選手は、そろって弱小チームにいくことになる。

そうして、弱いチームがドラフトによって戦力を揃えて、何年か後にプレーオフを争えるようになれる仕組みを作っている。

③放映権料の分配
MLBの球場を見てみると、ホームチームのファンしかいないことがほとんどだ。

日本はホームとビジター半々ということが多いが、国土の広いアメリカでは移動が大変だからか、そういうことは起こらない。

そうなると、自然と人口の多い都市にフランチャイズを置くチームが多くの入場料収益を得ることになる。
グッズなどの収益、および放映権料についても同様だ。

そこで、放映権料については、「MLBが一括で買い取り、それを各球団に配分する」という形式をとっている(、という内容を大学の講義で聞いた覚えがある。大体合ってると思うけど、間違ってたらごめん)。

その際に、スモールマーケットチームに多く分配するようにして、フランチャイズの場所による収益の差が発生しにくいようにしているのだ。


上記のような工夫の甲斐もあり、MLBでは「プレーオフにすら出れないようなチームが、翌年にワールドチャンピオンになる」ような活発な勢力の興亡が起きているのである。

一般化:ゲームデザインの基本

以下、有料部分になります。
内容は、上記に書いた内容の一般化です。
とりあえず、上に言いたいことは全て書きましたので、あくまで内容は同じです。

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それ以降は100ポイントです。


ゲームデザインの基本はルール設計である。

採用のお手伝いなどで入社希望の方のゲーム企画書を見る機会などもあったのだが、よくあるのが「どんな世界観にするか」ばかり書いてある企画書だ。

それであれば、漫画家なり映像作家になる方が手っ取り早い。

ゲームをゲームたらしめるものが必要だ。それがゲームのルールだ。

ゲームのルールの本質とは、

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