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正直がマル

いわゆる良い人も悪い人も、
正直が美徳だということに、意見の違いはないらしい。

他者の役に立とうと努める人々にとっては、
正直で誠実であるということが、
他者へ対する礼儀のようなものである。

他者を食い物にしようとする人々や団体ももちろんいるが、
その中にも堂々と悪事を働く者と、
悪事を隠しつつ働く者の二種類ある。

多くの悪人は、悪事を隠して自らを良い人間であるように装うが、
その時にウソをつく。
そしてウソをついたことを隠す。

これは正直が美徳であり、ウソは悪であるという共通認識がさせているのだろうと感じる。

以前インドで知り合った女の子が、「誰かに一番腹が立つのは、ウソをつかれた時だ」といっていた。

インドあるあるの話である。
彼女に会ったのはビハール州というインドの中でも最も貧しい州だった。
現地の人々は貧しく、外国人は裕福そうで、のほほんとしているのが見て取れたのだろう。
小さな買い物に二倍三倍なら可愛いものの、十倍くらいの料金でぼったくられて、腹が立ったそうである。
隣のインド人が遥かに安い値段で買っているのを見て、駅の売店であったにもかかわらず大声で「何でそんなウソつくの‼」と怒鳴りつけたそうである。
相手はビビッて正規の料金に戻したとか戻さなかったとか。

ともあれ、少なくとも一部の日本人にとっては、正直さは人であることの基本的条件であるということだ。

子どもの頃読んだ偉人の伝記の中に、アメリカ建国の父ワシントンは非常に正直であったという記述があったような気がする。
少年時代のエピソードに、桜の木の枝を折ったことを正直に先生に言ったという場面があった。

子ども時代に読んだ物語のはしばしにも、「正直なのは良いことだ」と自然に感じられるような内容が当たり前にあった。

これも一つのすり込みではあるだろうが、
あることをそのまま伝える透明さや公平さは、複数の人が集まる社会においてはどうしても必要になってくる。
一人の人間が、世の中のものごとすべてを実際に体験し、直接に情報を得ることは不可能だからである。

幸運にも日本に生まれた筆者は、正直が良いことであると当たり前のように思っていたが、
実はそうではない人々もいるらしいことを知って、驚いたことがある。

数年前、インド北部ラダックのゲストハウスで、チベット人の先生方の会話を耳にした。食堂での会話である。
筆者は同席していたのではないけれど、テーブルが隣だったので聞こえて来た。

話していたのは、バナラシのチベット系大学の教授をされている小柄な先生で、サンスクリット語が専門であるとのことだった。
非常に多くの研究をされて、沢山の学術書を読まれ、活舌な方でもあった。

その日、何故だか「インド人はウソつきだ。」という話になっていた。

チベット人でも、インドに住みながらヒンドゥ―語をしゃべれない年長者が多い。
貧しいインドの人々よりはお金を持っているので、時々ボラれることもあるらしい。
特に人の良いお坊さん達である。

他の先生方から苦労話がいくつか出たあと、その先生がいった。

「でもそれも無理はない。俺たちはウソが悪いと思ってるだろ?
彼らには、ウソが悪いっていう概念が無いんだ。

俺はヴェーダを全部読んだけど、その中で神さんがバンバンウソついてる。

神の話って言っても人の話みたいだ。
(途中略。神様のエピソードであったが、全部覚えていない)

神がウソつくことから始まってるから、高い地位にいる人は、特別にウソをついても良いと許可されてるっていう。
高い地位にある奴がウソつく時は、『俺はウソをついても良いんだ』と思ってウソついてるんだよ。」

同席していた先生方は、異文化の価値観の違いを面白がっていた様子であったが、
筆者にとっては小さなカルチャーショックであった。

それがどれほど本当であるのかは、ヴェーダを読んだことのない筆者には分からないし、
話にはその先生の意見が入っていたのかもしれない。

しかしながら、今筆者の周囲にいる人々にその話が当てはまるかというと、疑問である。
こちらが正直に対応していれば相手も喜んでくれるし、
騙されれば腹が立つのは、自分も相手も同じだ。

だいたい、最初から相手をウソつきだと思っていて、気持ち良い人間関係を築くのは難しいような気がする。

いずれにせよ、あることをそのまま伝えることは当たり前のことである。

相手のことを思いやって、すべてを伝えなかったり、触れなかったり、
場合によっては事実と違うことを伝えたとしても、
ここでいうウソではない。

自分の都合に合わせて歪曲したり、一部だけを伝えたり、事実と違うことを伝えることが、ここでいうウソである。

情報の伝達がされる以上、その情報が正しいか、正しくないかは常に吟味されるものではあるけれど、

そして時には、正直に正しいと思って伝えたことが、
事実と違うことがあったとしても、

少なくとも伝える側の姿勢においては、
誠実に、正直に伝えたいものだと思う。


DECHEN
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