見出し画像

ふるさと納税で活用が進むNFT、サーロインステーキに代わる返礼品は何なのか

こんにちは、Decentierでリサーチャーをしている聖・マーくんです。

いきなりですが、皆さんはふるさと納税で同じ金額を支払って何か返礼品を受け取るなら次のうちどれが一番嬉しいですか?

①黒毛和牛A5ランクサーロインステーキ750g
②ご当地キャラクターもしくはご当地アーティストのNFT画像
③ご当地の産品を受け取れるNFT権利証

私は迷わず①黒毛和牛A5ランクサーロインステーキ750gを選びます。この中でNFTを選ぶ人はほとんどいないでしょう。

このような感覚が一般的だと思いますが、最近になって地方自治体がふるさと納税の返礼品でNFTを活用する事例が増えています。なぜでしょうか。今回はその理由について考えていきます。


ふるさと納税でなぜNFTを配るの?

ふるさと納税は地方創生と地域活性化の支援を目的とした国の制度です。各地方自治体は、地域ならではの様々な返礼品によって全国の人から寄付金を募り、そこで集めた寄付金を地域づくりや特定のプロジェクトへの資金として活用することができます。

総務省「令和5年度ふるさと納税に関する現況調査について」

この制度は2008年にスタートしてから徐々に認知度と利用を伸ばし、直近では全国のふるさと納税の受け入れ額が約1兆円、受け入れ件数が約5000万件にまで拡大しています。一方、制度の発展が進む裏では地方自治体による寄付金集めの競争が激化し、その競争に打ち勝つべく、肉や野菜などの食べ物、お酒、工芸品、旅行券など返礼品の多様化が進んでいます。

ただし、ふるさと納税の返礼品は何でもかんでも許されるわけではありません。過去にはより多くの寄付金を集めようと換金性の高いギフト券や商品券を提供する地方自治体も増えましたが、それらは2019年の制度改正によって今では禁止されています。他にも高額商品やギャンブル性のあるものなどは返礼品として認められていません。

この点、市場で投機的に売買されることのあるNFTはふるさと納税の返礼品に適していないように思われます。しかし、各地方自治体はNFTを金銭的価値を持つものとしてではなく、地域ならではのコンテンツや体験に紐づくものとして制度内での活用を実現しています。NFTは地方自治体が多くの寄付金を呼び込むための新たな手段として活用が検討されているのです。

NFTで地域と寄付者の関係を深める

ふるさと納税は個人が実質2000円負担で地域に貢献しながら全国各地の名産品を受け取ることができる寄付の制度として人気を集めています。寄付のお返しに何が欲しいかと考えた時には、少し贅沢なお肉や海鮮、果物などを好んで選ぶ人が多いのではないでしょうか。実際に毎年の返礼品ランキングではこれらの食品類が上位を占めています。

これまでは食品類をはじめ物理的なものが返礼品のラインナップを占めていましたが、NFTの登場によって初めてデジタルコンテンツを返礼品として配布できるようになりました。地域におけるイベント参加券や施設利用券、寄付のお礼状や記念品など、体験や記念に代わる返礼品は全てNFTで表現することができます。

ふるさと納税のポータルサイト「ふるさとチョイス」では50万件を超える返礼品が掲載されており、そこで「NFT」と検索すると全国各地で約200件の返礼品がヒットします。その数はまだ少ないですが、例えば、ご当地キャラクターのデジタルアート、地域の名産品を受け取れるデジタル権利、地域プロジェクトのメンバーシップなどがNFTとして配布されています。

ここで具体的な事例を交えて従来の返礼品とNFTを活用した返礼品を簡単に比較してみましょう。次の返礼品はどちらも秋田県大館市が提供するご当地の日本酒に関連したものです。皆さんは同等の金額を支払うならどちらを選びますか?

【隔月3回定期便】北鹿『大吟醸北秋田』720ml×6本(全18本) 63,000円
秋田犬NFTアート×大館の日本酒 60,000円

それぞれお礼の品について見てみると、前者は秋田県の日本酒が計18本3回に分けてもらえるのに対し、後者は秋田県の数量限定オリジナルラベルの日本酒1本とハチ公生誕100年を記念したNFT(デジタルアート)1種を受け取ることができます。

日本酒の本数だけで見れば前者を選ぶ人が多いでしょう。しかし、ハチ公の可愛らしいアートや「数量限定」という言葉に惹かれて後者を選ぶ人もいると思います。また個別ページの説明を読み進めると、NFTの返礼品を提供する秋田犬保存会の歴史や取り組みが丁寧に書かれていて、寄付者として支援しようという気持ちになります。

ふるさと納税は地方自治体間の競争の中で返礼品ばかりに注目が集まっていますが、本来は特定の地域を支援したいという個人の想いによって成り立つべきです。後者のようにご当地の品に加えて地域やプロジェクトに関連したデジタルコンテンツで繋がることで、地域と寄付者がより密な関係を築くことができるのです。

個別ページに記載のあるメタマスクの説明資料

しかし、個人がNFTを返礼品として受け取る場合、メタマスク等の暗号資産ウォレットが必要になります。寄付者にとってはその準備が最大のハードルになりますが、地方自治体がそのための説明資料を用意することで対策がされています。

※メタマスク内でのNFTの表示方法やPolygon等のネットワークの切り替え方法など、各地方自治体によっては説明が不十分であることは否めません。

NFTは返礼品の魅力を増すための手段

ふるさと納税のNFTではデジタルとリアルを組み合わせて地域ならではの価値を返礼品として寄付者に届けることができます。岩手県遠野市では現地の店舗や施設と連携してNFT保有者だけが得られる特典を提供していたり、新潟県の三条市と燕市では既存のご当地トレーディングカードとコラボして現地における特別な体験と合わせて提供しています。

「燕三条NFT 匠の守護者」ブースター(1キャラ) 10,000円

しかし、今あるふるさと納税のNFTのほとんどは地域グッズに見立てたデジタルコンテンツとなっており、画像などのデータを何でも売りつけていた第一次NFTブームの域から抜け出せていません。その中には10万円を超えるものもあり、今後の流れによってはNFTが再び高額返礼品の問題を助長してしまうリスクもあるでしょう。

また、NFTに地域ならではのユーティリティを付けて配布しているものもありますが、ご当地の品やサービスなしにNFTだけで地域に人を呼び込もうとする事例が目立ちます。ふるさと納税の寄付者はまず地域特産品を味わいたいと考えるのが一般的であり、NFTをもらってじゃあ現地へ旅行に行こうという人はほとんどいないでしょう。

これはNFTの全般に言えることですが、デジタルコンテンツに相当のブランド力がない限りはNFTそのものが返礼品になることはありません。NFTは寄付への感謝を地域色のある見え方で伝えたり、地域限定のリアルな体験価値を上乗せしたり、既存の返礼品の魅力を増すための手段として活用されるべきです。

ふるさと納税のNFTは実質2000円負担の住民権?

では、ふるさと納税でNFTを活用する上ではどのような設計が望ましいのでしょうか。返礼品の転売が推奨されていないことを踏まえると、NFTは二次流通を想定したものではなく寄付者である個人に紐づくものとして配布されることが第一に考えられます。今出されているふるさと納税のNFTの多くも転売が認められていません。

譲渡できないNFTは「Soul Bound Token(SBT)」とも呼ばれ、個人の本人確認や学歴、職歴、スキルなどを証明するものとして活用が検討されています。これをふるさと納税で応用する際にはまず寄付の証明としてSBTを配布することが思い浮かびます。しかし、単なる証明だけでは返礼品のおまけ程度にしかなりません。

2023年8月よりNishikigoi NFTの第3弾セールを開始

そこで参考になるのが新潟県長岡市山古志村のプロジェクトです。NFTをデジタル住民権として販売し、そこで得た財源をもとに限界集落の復興を目指しています。NFTの購入者はデジタル住民として村おこしに関わることができ、今では山古志村の人口約800人を超える1000人以上が関係人口としてNFTを所有しています。

このアイデアをふるさと納税に当てはめると、各地方自治体は地域プロジェクトへの寄付金(財源)のお礼として寄付者にデジタル住民権を付与することができます。一方、私たちは住民票を置く地域に税金を毎年納め、その代価として様々な公的サービスを享受していますが、これと同じ様に毎年実質2000円負担で全国各地のサービスを受けられるようになります。

例えばですが、地方自治体はふるさと納税を通じて観光ホテルの新設のための資金を集め、その寄付者には建設までの過程にデジタル住民として参加してもらいながら、それが完工した際には宿泊券を毎年プレゼントするなどの設計もできるかもしれません。実質2000円負担でその体験が得られるなら個人も喜んで地域の一員に加わるでしょう。

このようなNFTおよびSBTを活用したデジタル住民権の考え方が広がることで、ふるさと納税におけるモノからサービスへのシフトが加速し、金銭的な財源のみならず人的なリソースの奪い合いも起こることが予想されます。その時にサーロインステーキに代わる人気の返礼品が何なのかについてはこれから議論されるところです。

Decentierでは地方自治体向けのweb3コンサルティングサービスも提供しています。ふるさと納税に限らずNFTやSBTを活用して新しい取り組みに挑戦したいという団体様はぜひお気軽にお問合せください。

お問い合わせ

ビジネスのご相談や取材のご依頼など、当社へのお問い合わせはこちらから。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?