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社交的なイカとオタク系タコ

 ようこそ、もんどり堂へ。いい本、変本、貴重な本。本にもいろいろあるが、興味深い本は、どんなに時代を経ても、まるでもんどりうつように私たちの目の前に現れる。

 私は元来の「イカ好き」(食うのも観るのも語るのも!)がたたり、佐賀の呼子までわざわざ「イカ検定」を受けに行った男だ。そんなイカ好きの私がイカ好きにかまけて、今まであまり関心を払っていなかったところにもんどってきたのが、この本だ。

 『タコは、なぜ元気なのか~タコの生態と民俗』(奥谷喬司・神崎宣武編著、草思社、1994年刊、入手価格不明)である。

 ここで、まず押さえておきたいのは、「タコとイカは親戚関係」ということだ。

 身体の基本的な構造が酷似しているため「近種関係」にあるが、タコ、イカ、それぞれの「性質」を深く追求してみるといろいろなことが違う。タコはタコなりに、イカはイカにも、と神さまの配財よろしく、実によく出来ているのである。

 取り急ぎもう一冊を紹介しておこう。

 『イカの心を探る~知の世界に生きる海の霊長類』(池田譲著、NHKブックス、2011年刊)である。

 前述の一冊と合わせて読むと、この「イカ・タコ問題」が実におもしろく浮かび上がってくる。

 「イカとは誰か」(小見出し)。

 この本の著者は、徹底的にイカの知性にこだわる。

 著者は「『他者とのやりとり』という社会的場面が進化上の一つの選択圧となり、脳が大きくなっていった」という人間の「マキャベリ的知性仮説」なる考え方をイカに当てはめ、イカの知性や社会性を描き出そうとする。もちろんすべてが解明できてはいないが、彼に言わせると、イカはじゅうぶんに社会的・社交的であると言う。

 だが、タコはというと、「『たこ壺に篭もる』ということばがあるくらいで、彼らは日常的に同種個体との接触おろか、遭遇をも避けている」(『イカの心を探る』)、非社交的な性格で「一日のうち餌探しに出るのはほんの2、30パーセントの間で、他の時間は巣穴で眠っているか、家の掃除や穴の広さを調整したり、ハウスキーピングに費やしている」(『タコは、なぜ元気なのか』)そうなのである。

 タコもイカも海外でのウケは悪い。味の前にそのビジュアルが忌み嫌われている。

 だが、「タコの八チャン、タコ踊り」。日本でのタコのイメージは「縦横無尽」だ。愛嬌たっぷりなキャラクター設定だけでなく、ちょっとエッチなイメージにも使われる。

 「タコは八本の腕を使って抱きしめ、締めつけ、吸いあげるそうで、一説によると、自分の体重の20倍のものも吸引する」ということから、好色的で淫らなイメージも強い。よく知られるところでは、北斎によって『海女とタコ』という交合図が描かれているし、『閨中に入って妾はタコになる』とか『蛸と麸を出してもてなす出合茶屋』といった川柳も数多く創られている。」(『タコは、なぜ元気なのか』)

 対するイカはどうか。なんだか、イカ臭い話になりそうなので、ここらへんでやめておく。

                     (2014年、夕刊フジ紙上に連載)


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