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Separation After Darkness

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短編、掌編を載せます。 幻想小説だったり(恥ずかしい)日常の一場面を切り取ったり、そうではなかったり。 私が見ている景色、感じた情景をみなさんにも共有したくて。
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#創作

ドライサーディン

今考えていることはなんですか?

それはね、たぶん、オイルサーディンのこと。ラトビア産の、おいしいやつ。あとは成城石井で買った、さくさくのポテチ。
僕はおそらくそう答える。

「暇なのね」
そうとも言う。
「なら、一緒に踊りませんか。どうせ、こんなところ、誰も来ないだろうし」

彼女はそういって、ソファに腰かけた足をぱたぱたさせる。僕は指を意味もなくぱっちんぱっちんさせる。

「僕は躍り方知らない

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誰も話さなくなった日の終わり

 誰も話さなくなった日の終わり、私はそれが夜だということに気付いた。

 どこかに落としてしまったマフラーについて考えていると、ぽつんと街灯に照らされた自販機を見つけた。誰も話さない夜は寒く、気を抜いたら凍ってしまいそうだった。温かい缶コーヒーがある。手を伸ばす。でも止めた。なぜなら温かい缶コーヒーは温かくなくなる。今の私は冷えが、例えスチールにでも染みていくという事実を受け入れることが出来なかっ

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