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勝手に終わった恋だった。

中学生の時、人生で初めての恋人が出来た。

好きが何かとか、
愛が何かなんて考えたことはなかったし、

所詮は大人の真似事でしかなかったけれど、
僕にとっては紛れもなく初めての恋愛だった。

少し前に「大人の恋愛と子供の恋愛は何が違うと思いますか」と聞かれたことがある。

私はその時「本質的には何も変わらない」と答えた。

恋なんて全部等しく脆くて、痛くて、それでいていじらしく心地の良いものだと思ってるからだ。

でも実際の所、必死になって背伸びをして大人を演じようとしていた頃の恋は、どことなく今とは違う視点で世界が動いていたのかもしれない。

それは好きなアーティストがファンモンからRADになったり、身につけていた時計がG-SHOCKからDANIEL WELLINGTONになったり。

そんな些細な違いでしかないのだけれど、あの時にしか感じなかった愛があったんだと今なら言える気がする。

僕の左手と初めて恋人繋ぎをしたのも、唇を奪ったのも、手紙を貰ったのも、殆どの初めてを奪っていった彼女の悪戯な笑顔が、僕は大をつけるぐらい好きだった。

馬鹿で間抜けで、目立ちたがりやな15歳の僕の世界では、彼女が全てだと錯覚すらしていた。

そんな僕の初恋は、中学3年生の冬、唐突に終わりを迎えた。

日曜日の夕方、偶々散歩がてら訪れたピアノの公園(僕が当時勝手にそう呼んでいた)で、彼女は同級生とお互いの体を弄り合うようにキスをして盛っていた。

そんなの嘘だろと思われてもいい。
ただ僕は、あの時感じた血液が湧き上がってくるような感覚と、それとは裏腹に冷え切って首筋を伝った汗の感触を忘れることができない。

結局僕は、その場から逃げるように踵を返し、次の日から学校で話しかけられても無視をした。

1週間後、一方的に「今までありがとう」とLINEで送りつけてブロック。
卒業するまで一言も話すことはなかった。

その後僕は、地元から5時間も離れた高校に進学することになる。

帰省できるのは年に一度、年末年始の3日だけだった。

高校一年生の12月、Twitterに彼女からの「久しぶり、元気?」というダイレクトメッセージが届いた。

僕は「元気だよ、どうしたの」と返信をした。

「年末は帰ってくるの?」

「うん」

「いつ戻ってくるの?」

「29日かな」

僕らは他愛もないやりとりを数件繰り返した。

唐突に彼女が、「ちょっとだけでいいから会えない?」と聞いてきた。

一瞬訝しんだが、地元を離れてからなんとなく感じていた疎外感を埋めたくて、僕は「30日の夕方とかでもいい?」とメッセージを送った。

僕の中ではもう終わっていた恋で、軽はずみで深く考えない承諾だった。

地元を離れて約8ヶ月、僕は当時からよく行っていた自然に囲まれた河川敷で、彼女と再会した。

たかだか8ヶ月、背も容姿も殆ど変わっていなかったけれど、僕は長かった髪が坊主になって、ショートヘアだった彼女の髪は、肩ぐらいまで伸びていた。

「久しぶり」とお互いに言い合って、なんとなく恥ずかしくなり目を逸らした。

近くに設置されていた石の椅子に腰掛けて、30分くらいどうでもいい話をしていたと思う。
内容はもう覚えていない。

ただ、その後の会話だけは今も鮮明に覚えてる。

彼女は唐突に「ごめんなさい」と謝った。

友達づてに、僕があの日の出来事を目撃していたのを聞いたらしい。

何を今更と思った。僕の中ではもう終わった話だったから。

それでも彼女は必死に当時のことを話した。
僕が「もういいって」と言っても彼女は「ごめん」と言うのをやめなかった。

瞳には薄らと涙が溜まっていて、夕日を反射した川の水面みたいに光っていた。

「ちゃんと謝って、ちゃんと終わりにしたかったの」と彼女は言った。
最後に「ちゃんと好きだったよ」と付け加えて。

その時僕は、勝手に終わったと思い込んでいたけど、彼女の中ではまだ終われていなかったんだという事に気づいた。

僕が思ったことを、彼女も思っているんだと勝手に勘違いしていた。

一方的に別れを告げて、話す機会も設けないで、僕は彼女から離れた。

裏切られたのを容認するつもりはないけれど、僕のせいで彼女は、この1年間少しも前に進めなかったんだと思うと、ちゃんと話せばよかったなと今更後悔した。

「まだ終われてなかったんだね」とぼそっと呟いてから「ちゃんと好きだったよ。さよなら」と言った。

僕と彼女の恋は、そこで漸く終わった。

それ以降、彼女とは会っていない。
連絡先どころかSNSすら知らない。

僕は東京にいたけど、彼女はずっと地元にいたのかもしれない。

時折帰省して、あのお気に入りの河川敷に行くと、大好きだった彼女が悪戯な笑みを浮かべて、横に居てくれているような気がした。

僕の大事な初恋だった。







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