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配信者の『転生』はどこまで許容されるか

動画配信の戦国時代

 インターネットで動画共有・配信を主とするサービスが展開されてから、既に20年近くの月日が経過している。
 黎明期には、一つの動画を見るだけでも多くの苦労と時間を要するものだった。ダウンロードの完了を待ち、エンコードの仕掛けに泣かされ、読み込みエラーに腹を立てることも頻繁にあった。しかし、技術の発達と通信速度の強化が進んだことで、コンテンツの提供能力は格段に上昇。今や投稿済みの動画だけでなく、リアルタイムで撮影した個人の映像が、世界中に配信され共有されている。商業配信にも比肩しうるこの恵まれた環境を追い風にして、次世代のビジネスチャンスに結び付ける配信者が次々と生まれている。

 ゲームの実況やトーク、音楽や絵画などのコンテンツを展開し、視聴者の注目を集める動画サービスの配信者。多額の投げ銭や広告収入を受け取り企業案件さえも引き寄せるその姿から、界隈そのものがバラ色の世界に思われがちである。しかし、外野が抱くイメージに則しているのはほんの一握りだけであり、大半の配信者は見向きもされない中で試行錯誤を重ねている。
 何とかして自分も人気実況者の仲間入りをしたい。話題を集めるクリエイターとなって、商業デビューを果たしたい。そんな夢を持ちながらも過疎状態の配信に心を挫く者は少なくない。同じコンテンツ、同じ題材を先に扱っても、人気の配信者が取り上げた途端彼らのモノになってしまう。トッププレイヤー達の何万という同時視聴者数、何百万という再生数が騒がれる陰で、頑張ってたったの千も届かない総再生数という現実を多くの配信者が受け止めている。現在の動画配信とはそういう界隈なのである。

『転生』は良いことか、悪いことか

 このような環境下でしばしば噂されるようになったのが、事務所デビューのVTuberや別名義の配信者への『転生』である。場慣れはしているが界隈を引っ張るほどのネームバリューが付かない、トラブルなどあったことで心証が悪いといったタイプの配信者が、名前や姿を変えて公にデビューする。そういったことが行われているのではないかという噂が立てられているのである。
 中には、新たな配信者が出る度に『前世』を推測したり、相手の過去が割れているのをいいことに茶化す、中傷するといった人物も一部に存在している。こうした詮索や追及は、現在の配信者のあり方を良いと思っているリスナーやファンにとって、ひどく迷惑で疎ましいものだと言えるだろう。
 ファンからしてみれば、彼らにデビュー前の活動があるかどうかはどうでも良いことである。今ある姿や話しぶりに魅力を感じているからこそ、その配信者を追いかけようと決めたのだ。『前世』で上手くいかなかったり、一部の人物に好ましく思われなかったことと、今の彼らとの間を結び付けられる要素は本来存在しない。ゆえに、外野から非難を受けるいわれもないのである。

 一方で、こうした名義替え行為をロンダリングとして用いることが、界隈の停滞や悪事の見逃しに繋がることも危惧されている。
 たとえば契約上の取引を破綻させたり、明確な犯罪にかかわった人物が、名義を変えて同じコンテンツジャンルに居座る可能性は十分考えられる。また、そうした人物の存在を根拠にして、コンテンツそのものの風評を広め貶めようとする者も現れうる。そうしたことで炎上が起きれば、『転生』をした配信者だけでなく、界隈全体に誹謗中傷や案件のキャンセルといった被害が及ぶことになりかねない。
 また、前述のような咎められうる行いによって事務所からの解雇や引退に至った人物の『転生』は、インターネット配信界隈における自浄能力の喪失を招くことにも繋がる。解雇という形で、他者への損害を生じたことへの社会的な制裁を受けさせたのに、別の事務所が拾い上げた途端チャラになってしまう。そうした状況は、事務所側の誤認や冤罪による解雇という例外でない限り、良い印象を与えることはない。

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