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【DCM Atlas 体験記 vol.4】DCM Atlas 第1期('23)運営体験記

DCMベンチャーズ(以下、DCM)は、2023年1月からスタートしたシード投資プログラム DCM Atlas の第1期を、2023年6月に無事修了しました。
5ヶ月間のプログラム期間を終えた3社のDCM投資先へのインタビューに続いて、本運営体験記では、DCM Atlas第1期('23)のプログラムを振り返りながら、当時の状況を運営側の視点からリアルに綴っていきます。
また、インタビュー記事でも触れているバリュープロポジション(=ユーザーへの提供価値)の個社別議論の詳細についても、2つの事例から深掘りしていきます。
(過去の採択企業3社へのインタビュー記事:vol.1 M2X CEO 岡部さんvol.2 Public CEO 松本さんvol.3 WE UP 伊藤さん

DCM Atlasに興味がある方にとっても、このnoteで初めて知る方にとっても、5か月間のプログラムで実際にどんなことを行っていて、自社の事業成長にどう活かすことができるか、少しでもプログラムのイメージを持っていただけると嬉しいです。

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開始1か月でプログラムの大幅アップデート

1月中旬、DCMオフィスにて採択企業3社との顔合わせも兼ねたオリエンテーションを実施。創業メンバーを中心に各チーム2-3人が参加し、プログラム概要とスケジュール説明と共に、DCM Atlasがスタートしました。

当時は以下のプログラムスケジュール案で、最初の3か月は集中講義・バリュープロポジション(=ユーザーへの提供価値)設計を主軸として、3社とも同じスケジュール・プログラム内容を想定していました。

プログラム開始時の想定スケジュール↑

一方で、実際にプログラムを開始してみると、企業のフェーズや業態の違い(プロダクトあり/なし、toB/toCなど)によって、講義のトピックが必ずしも足元の状況に関係する内容ではないため、少しずつ講義における3社の浸透具合にバラつきがありました。
そのため、最初の4週が経過したところで、一度プログラムの軌道修正の要否を確認するため、プログラム構成に関するサーベイを実施。サーベイの結果、採択企業側から各社の進捗に沿った個別ディスカッションの時間を増やしたいとの意見をいただき、5週目以降は合同週次講義とプロダクトスクールの内容は、VCメンタリング/プロダクトメンタリングの1on1に内包し、個社別のニーズに合わせてカスタマイズして提供するという決断をしました。

5週目以降のスケジュール↑

個社別Value prop議論:イシューツリーから考えるユーザー課題

本セクションでは、過去のインタビューnoteでも触れているバリュープロポジションの設計において、プログラム中に実際にどのような議論が行われていたのか、実際に行った議論の一部を抽出して深ぼります。

原のnoteでも示しているように、バリュープロポジション(=ユーザーへの提供価値)とは、「誰が顧客」であり、その顧客の「ペインポイントは何で」、その顧客に対して「どのような価値を提供する」「何で(製品カテゴリー)」、それは「どのような機能」によって成立しているかをシンプルに言語化することです。
今回、DCM Atlasで3社とも共通して最も時間を使ったこのバリュープロポジションの議論では、採択企業ごとに異なる手法を用いて「なぜ僕たち/私たちがこの事業をやるべきか("WHY")」を明確にしました。

B2B向けに業務上デジタルツールを利用する部門のDXを提供するWE UPは、ユーザー課題の解像度を高めるために「イシューツリー」を用いて、丸1か月デイリーベースで上記「WHY」の議論を密に行いました。(前回のインタビュー記事を参照)

まずイシューツリーとはなにかを改めてMcKinseyのブログ上の言葉を借りて定義すると、問題を互いに重複せず、全体として漏れがない(MECE)構成要素に分解することにより、課題解決の原理を構造化するためのツールになります。

”An issue tree is a tool we use to structure problem solving, and it breaks the problem down into mutually exclusive and collectively exhaustive components.”

McKinsey Women Blog "Problem solving is for everyday life, too!"

WE UPの場合は、まず初めに以下のシートを用いて課題仮説の言語化を行いました。ちなみに、このイシューツリーは前提として、ターゲットセグメントは大枠決まっていて、そのセグメントのどの課題を解決していくかの絞り込みを行うことを目的とした作りとなっています。

「イシューツリー」のスプレッドシート

ステップ①:自社が解くべき課題は何か?

まず、ターゲットセグメントの困りごと(=大枠の課題仮説)と、その困りごとのボトルネックの仮説を書き出しました。
次に、これらの課題に対する既存のソリューションを書き出し、その上でどこに事業機会があるのか、仮説を構築していきます。
自身で初期仮説を構築した後に重要になるのが、ユーザーヒアリングによる仮説検証です。WE UPは1か月間で約50名以上の方にヒアリングを行い、実際に仮説が正しかったのかを検証しながら、自社が解くべき課題の絞り込みを行いました。ヒアリングでの確認項目については、追って触れられればと思います。

ステップ②:どのように上記課題を解くべきか?

課題の絞り込みを行った後は、どのような提供価値(=バリュープロップ)でその課題を解決するかを考えていきます。
スタートアップとして提供しうる解決策を考えるためには、まずは課題の発生頻度・複雑さ・代替手段の剝がしやすさなどの実態を理解する必要があります。WE UPの場合は、ユーザーヒアリングで以下の項目を確認しました。

ユーザーヒアリングでの確認項目
・業種、事業規模、従業員数、対象業務の人数→ペルソナ選定時の重要指標
・課題の発生頻度→頻度の確認
・課題の内容→複雑さの確認
・現状の課題への対応方法と対応時間・コスト→代替手段
・課題に関連するシステム・プラットフォーム→剥がしやすさ
・ソリューション導入時の意思決定者→導入しやすさ

上記ヒアリングを通じて、業務におけるユーザー目線での具体的な課題(サブ課題)と、課題ごとの既存対応手段をブラッシュアップした後、自社のバリュープロップの仮説を整理しました。

ステップ③:「最初に」解くべきサブ課題は何か?

上記①、②で大枠のバリュープロポジションを固めた後は、以下の基準に沿ってサブ課題の重要度の色付けを行いました。

サブ課題の重要度の選定基準
・その解決策に対して顧客はお金を支払うか?
 -ニーズはあるか?
 -予算のとりやすさは?
・競合環境はどうか?
・技術的に実現しやすいか?

まず重要な点は、対象ペルソナが課題に対してお金を支払うか、という点です。解決策の必然性が高く、かつ予算が十分にある業務であれば、この解決策を提供する優先度は高くなります。また、競合環境や技術的な実現しやすさについても、導入ハードルや代替可能性を図るためには重要な情報になります。

ステップ④:PoC(=概念実証)では誰にどのようなサービスを提供するべきか?

ステップ①~③で絞り込んだ情報をもとに、ターゲット企業の選定軸/条件の言語化を行いました。抱えている課題の深さ、組織・人員的な条件、システム的な条件など、バリュープロポジションに合わせて独自の選択軸/条件を設定していきます。その上で、最初のターゲット顧客を誰にすべきかを個社名で理由とともに改めて言語化し、実際にPoCでは何を提供してその対価としていくらもらうのかを整理します。

DCMチームとしては、1か月間デイリーベースでキャッチアップミーティングを実施し、イシューツリーの仮説をアップデートするための議論を密に行いました。
結果としてこのチームは、プログラムを経て2社のPoC先を獲得し、現在まさに上記で絞り込んだ事業仮説の検証を行っています。

個社別Value prop議論:カスタマージャーニーの解像度を高めるには?

Value propの議論は課題が明確にあるtoBだけではなく、toC向けサービスでも重要です。
冒頭でも触れていますが、シード期で自社の"武器"を仮説検証と共に磨いていくフェーズでは、「どのようなユーザーに何を届けるのか」は極めてシンプルでクリスタルクリアに絞り込まれたものを提供していく必要があります。
プログラムの中盤にtoC向けのコマースアプリを提供しているPublicは、ここでいう「どのようなユーザー」の解像度を高めるために「カスタマージャーニーマップ」のメソッドを用いました。

”A customer journey map is a visual representation of the customer journey (also called the buyer journey or user journey). It helps you tell the story of your customers’ experiences with your brand across all touchpoints. Whether your customers interact with you via social media, email, livechat or other channels, mapping the customer journey out visually helps ensure no customer slips through cracks.”

Salesforce "Customer Journey Map: What is Customer Journey Mapping & Why is it Important?"

カスタマージャーニーマップとは、上記Salesforceの言葉を借りると『プロダクトのあらゆるタッチポイントにおいて、顧客がどのような体験をしているかを可視化するためのもの』です。
Publicは、Atlasの開始時点で既にプロダクトをリリースしていて初期ユーザーがついている状況だったので、実際の声を元にプロダクトの各タッチポイントでユーザーが何を求めていて、実際にどういう体験になっているのかを理解することを目的としました。

ワカマツ主導でプロダクトワークショップを実施

また、Publicはコマース事業を提供しているため、ユーザーは買い手と売り手が存在し、それぞれのカスタマージャーニーを以下の流れで振り返りました。

全体の流れ
・Step 1 - Awareness
・Step 2 - Consideration
・Step 3 - App experience
・Step 4 - Retention
・Step 5 - Royalty

事前に準備するもの
・ペルソナシート(Buyer/Seller 1人ずつ)
・大きい紙(各ステップで、Userの考えていることとアクションを松本さんが記載)

まず、事前準備としてBuyer、Sellerどちらもペルソナシートを作成し、それぞれプロファイルを細かく設定しました。
その上で、プロダクト上の各ステップでペルソナが感じるImpression(=何を感じるか)Next action(=次にどんな行動をするか)を紙に記載していきました。
この時に、ユーザー目線でのNext action(現状)と、松本さん自身が望んでいるNext action(理想)も併せて言語化し、理想のNext actionをとってもらうためにはどんな価値/機能が必要かを議論しました。
こちらの松本さんへのインタビュー記事でも触れていますが、松本さん自身がすごく開発力のあるエンジニアなので、このワークショップで議論した機能が翌週にはプロダクトに反映されていて、すごく驚きました。

DCM投資先の起業家によるゲスト講義

DCM Atlas第1期で特にフィードバック評価が高かったゲスト講義。第1期はDCM投資先から以下の4名に登壇いただきました。

DCM Atlas第1期ゲスト講義登壇者
enechain 野澤さん
10X 矢本さん
Magic Moment 村尾さん
・Coubic(現STORES) 倉岡さん

採択企業には各登壇者の概要を共有したうえで、以下の事前質問シートに当日聞きたいことを募集し、質問を事前に登壇者に共有していました。

事前に採択企業から募集した質問シート

登壇者と採択企業のニーズを極力擦り合わせる目的で質問募集を行っていましたが、どの講義も即実践に繋がるに興味深い内容で、実際には事前質問の数倍近い質問が飛び交っていました。。!

enechain CEO 野澤さんのゲスト講義の様子

本シード投資プログラムは、起業家が少しでも旅をしやすくなるための"地図"になれるよう、"DCM Atlas"という名前に想いを込めています。
起業家によってルートは異なりますが、先輩起業家がどう事業を進めてきたのか、どう"山"を登ってきたのかの経験・知見をシェアすることで、採択企業自身のルート構築に役立てることを目的としています。

ご登壇いただいた野澤さん、矢本さん、村尾さん、倉岡さん、惜しみなくご自身のストーリーをシェアいただき、本当にありがとうございました!!

9/13 (水) 16時には、DCMの原とenechain野澤さんで、Value prop設計をメイントピックとした対談ウェビナーを実施します!DCM Atlasのプログラムに応募検討中の方も、それ以外の起業家にとっても、これからどう事業を進めていくか、どう組織を作っていくかを考えるうえで、参考になる部分もあると思うので、ぜひ下記画像リンクより登録お願いいたします!

中間発表:US投資チームからのインサイト

4月の中間発表では、USで投資をリードしているメンバーも参加し、USの類似事例からのインサイトを交えながら、各社100分ずつ議論を行いました。

中間発表当日のスケジュール
・プレゼンテーション:40分(言語:日本語でDCMメンバーが逐次通訳)
・Q&A・フィードバック:60分

プレゼンテーションの3日前には、採択企業3社+猿丸+三輪で模擬プレゼンを行い、伝えたいことのストーリーポイントを整理しました。
限られた時間の中でより深いインサイトをDCMとして提供できるよう、採択企業3社の概要や事業進捗は事前にグローバルで共有をし、社内でもどういった類似企業が当てはまるか、類似企業からどういったインプリケーションがあるかを議論したうえで当日に臨みました。
結果として、ユーザー課題の深さ、競合環境、GTM戦略含め、かなり幅広い側面でのアドバイスと共に、市場の違いを踏まえたひとレイヤー上の議論を各社と行うことができました。

WE UP伊藤さんの中間発表時の様子

6月のプログラム最後に予定しているUS企業訪問では、USの投資チーム経由で、採択企業のフェーズやニーズにフィットする企業(投資先・その他ネットワークがある企業含む)との面談を設定していきます。
この中間発表では、事業に関する議論はもちろんですが、USの企業訪問の際にどの会社と面談を設定するのが適切か、判断材料を集める場でもあり、両面で非常に内容の濃い時間になりました。

中間発表後、来日していたUS・中国のDCMメンバーも交えてBBQ

最終プレゼン+US企業訪問:グローバルの投資チーム・起業家からのインサイト

6月上旬にはいよいよプログラム最後のイベントでもある最終プレゼン&US企業訪問のため、DCMのMenlo Parkオフィスに集結しました。
中間発表と同様に、事前に模擬プレゼンを通じてストーリーポイントを整理したうえで、DCMの米・中・日の投資チームに向けた最終プレゼンを行いました。

最終プレゼン当日のスケジュール
・プレゼンテーション:30分(言語:日本語でDCMメンバーが逐次通訳)
・Q&A・フィードバック:30分

当日は上記のスケジュールで準備をしていましたが、GPのDavid Chao(US/日本)、Hurst Lin(中国)、Ramon Zeng(中国)、本田央輔(US/日本)を中心に、プレゼンテーション中からどんどん質問が飛び込んでいました。(プレゼン中からしっかり質問していくのはDCM投資委員会あるある。。)

中間発表と同様に、US、中国の類似事例をベースに各国の特色との違いを踏まえた上でのインプットがあり、非常に濃い3時間でした。特に中国はコマース企業が既に数多く存在しているため、1時間で10社近くの類似企業からのインプリケーションと共に議論を行ったのが印象的でした。
このようなグローバルからの経験・知見のインプットはまさにDCMのシード投資プログラムの最大の強みのひとつとなっています。

5ヶ月間の進捗を、DCMグローバルチームに最終発表している様子

最終プレゼンの翌日はUS企業訪問を行い、これがプログラムとして最後のイベントとなりました。中間発表後にUSの投資チームとも議論しながら、toB向け/toC向けで2グループに分かれ、それぞれの事業内容に沿った企業との面談を設定していきました。

toB向けグループの当日のスケジュール

面談先の概要やスピーカーの経歴を事前に共有したうえで、基本的にはゲスト講義と同様に、全ての面談をQ&Aベースで行いました。スピーカーはシード期のSaaS企業で初期顧客獲得に従事していた方や、採択企業1社の類似企業へアーリーステージからエンジェル投資をしているDCM投資先CFO、プロダクトエンジニアのバックグラウンドを持つCEO等、採択企業が直近で議論しているトピックに沿った方とピンポイントで面談設定を行いました。

採択企業のうちB2B向けの2社でFreshworksに訪問した時の様子

一部のスピーカーは、プログラム終了後も継続的にエンジニアの紹介や壁打ちなど手厚い支援を提供していて、DCM Atlasで得た繋がりが長期的なアセットとして活用されていることを大変嬉しく思います!

プログラム最後のディナーにて、採択企業とDCMメンバーで集合写真

以上、DCM Atlas第1期の事務局目線での体験記を、最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
もしまだご覧になってない方は、第1期の採択企業3社へのインタビュー記事も併せてご覧ください!(再掲:vol.1 M2X CEO 岡部さんvol.2 Public CEO 松本さんvol.3 WE UP 伊藤さん

本プログラムは、10/31を締切として現在DCM Atlas第2期の応募を募集しています!起業検討中/起業済みシード期の方は、是非応募をお待ちしています!

🗺️ 第2期('24)への応募はこちら[受付期間2023/8/1~10/31]🗺️

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