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【DCM Atlas 体験記 vol.1】 M2X 代表取締役 岡部 晋太郎氏 (第1期 '23 採択)

DCMベンチャーズ(以下、DCM)は、2023年1月からスタートしたシード投資プログラム DCM Atlas の第1期を、2023年6月に無事修了しました。
本連載では、DCM Atlas第1期('23)に採択され、5ヶ月間のプログラム期間を終えた3社のDCM投資先へのインタビューを掲載していきます。
第1弾は、設備メンテナンスのDXに取り組む株式会社M2Xの代表取締役CEO  岡部晋太郎氏です。

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Atlasへの応募動機は"ブランディング"

株式会社M2X 代表取締役CEO 岡部 晋太郎
2007年、東京大学文学部卒業後、総務省に入省。主にIT政策の企画立案に従事。2016年、ボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社、一貫して製造業における中長期戦略立案・全社トランスフォーメーション、DX等を担当。三菱ケミカルへの出向経験もあり。製造における保全業務の改善やDXの取組をリードした経験をきっかけに2022年にM2Xを創業。

出典:https://www.m2xsoftware.com/company

💬 DCM: 岡部さんは、どういった理由でM2Xを創業されたんですか?
💬 岡部さん:前職のBCGで、大手化学品メーカーのメンテナンス効率化プロジェクトに携わったのが、起業を思い立ったきっかけでした。大企業でもデータが一元化されていないという現実に直面して、中小企業含めて相当なペインがありそうだなと感じました。そこから、独自で50社くらいのポテンシャルユーザーにヒアリングをかけみたら、実際にペインがありそうだったので、保全業務のDXをテーマに起業を決意しました。

💬 DCM:Atlasに応募された時、まだ会社設立前でした。既に起業は決意されてたんですか?
💬 岡部さん: 応募時点で、元々声をかけていたプロダクト・エンジニアの2人と一緒に、起業することは決めていました。ただ、どういう形でどういう投資家に入ってもらうか、というのは迷っていました。DCM投資先でもありBCG時代の同僚のenechainの野澤さんから、起業時のアドバイスをもらっていて、「初期はユーザーとプロダクトにフォーカスすべき」「VC調達は良い面もあるがコミュニケーションコストも必要とするので、1番最初はエンジェルという選択肢もある」と聞いていました。正直、当初はVCからの出資はあまり考えていなかったんです

💬 DCM: VC調達には動こうとしてなかった中で、なぜDCM Atlasへの応募を決めたんですか?
💬 岡部さん:TwitterでDCMがシード投資プログラムをやることを知り、これはゲームチェンジャーになり得るかも、と思い、応募しました。シードプログラムでDCMから最初の出資をもらえたら、何の実績もない状態で始める自社のブランド作りにインパクトがあると考えました。

💬 DCM: なるほど。YCに参加するチームの多くも、かなり重要な目的のひとつがブランディングだと言いますよね。
💬 岡部さん:YC企業でもあるRipplingのCEOも、「ブランドがあるVCと組むと、あらゆることが進みやすくなる」と言っていたんです。当たり前ですが、実績がないとブランドは勝ち得ないので、つまり実力があるということ。DCMは日本のスタートアップ業界ではポートフォリオも限られている中で、それぞれが成長されており、ブランドが確立していると思っていたので、これは応募してみようと思いました。

💬 DCM: 実際にこの5ヶ月間で、DCM Atlasの採択企業というブランドが、インパクトに繋がったと実感することはありましたか?
💬 岡部さん:営業と採用に効いていると思います。創業して数ヶ月のスタートアップをビジネス上の取引相手として信頼していただくのは難しいことですが、「シリコンバレーのVC」から投資を受けていると言うことで、一定の信頼感を与えられると思っています。LinkedinのDMでコールドメールを送る時は、必ずその文言を入れてます。あと、採用にもとても効いていると思います

Atlas第1期 初日オリエンテーションの様子

高頻度の議論と、グローバルなインプット

💬 DCM: 振り返って、Atlasに参加して1番良かったことって何ですか?
💬 岡部さん:次から次に押し寄せる未知の課題について、高頻度で議論できることですね。自分には、スタートアップの経験も、会社経営の経験もなく、次から次にわからないことが出てくる。その中で、ならすと週1回以上の頻度で議論させてもらって、時にはグローバルメンバーからのインプットもあり、海外の類似企業についてかなりディープな情報ももらえたりして。このフェーズでこういったコミュニケーションを高頻度で得られたのはすごく良かったです。DXの文脈だと、アメリカの5年前くらいが日本のイメージで、僕らがいる市場が将来的にはこうなるだろうという解像度を、DCMのUSチームにかなり高めてもらいました。DCMならではの密なインプットだったなと思います。

💬 DCM: 1番印象に残っているインプットや議論はありますか?
💬 岡部さん: 僕らの場合、最初にValue proposition(ユーザーへの提供価値)をシャープにすることに苦労してました。ホールプロダクト的な側面があり、色々なバリューが出せる中で、「自分たちが1番エッジを立てるべきところはどこなのか?」というのが、社内だけで議論していると煮詰まってしまってスッキリと整理できなかったんです。今でもハッキリ覚えていますが、プログラム始まってすぐ、DCMの会議室のスクリーンに弊社のValue propositionを映したら「これはマジでわかりづらい。色んな要素が混ざってしまっているので、自社の提供価値の肝をとことんシャープにすべき」と指摘を受けたんですよね。ああいう議論が、今の事業の土台にもなっているし、あれをかなり早い時期にやれたのはすごく良かったと思っています。

💬 DCM:Value propositionを、ワード文書で言語化していた時ですよね。最初は、たくさんの可能性を、一文の中に込めてましたよね(笑)
💬 岡部さん:そうですね、私が"霞ヶ関風のValue proposition"を書いちゃってた時ですね(笑)。1文なのに、3行くらいになってしまっていたので。

中間発表後、来日していたUS・中国のDCMメンバーも交えてBBQ

"AI革新"の活用に、強い後押し

💬 DCM:  23年の1月半ばにAtlas第1期はキックオフしましたが、その間にChat GPTがすごいことになりましよね。M2Xのプロダクトにも、すぐに実装されていたのが印象的です。
💬 岡部さん: これはもう、本当にラッキーだったと思います。100年に一度の技術革新が、マスに使える状態で届けられた。DCMの皆さんが、あの時即座に「絶対に活用した方がいい」と強く後押ししてくれたのを覚えています。「AIで何を作るか、ではなくて、今いるお客さんの課題をAIでどう解くか、が大事」というアドバイスをもらえたのも良かった。

💬 DCM:「先端的なAIを活用することは、営業や採用にもすぐに効いてくるから」という話をしましたよね。
💬 岡部さん: まさに、実際の営業で「Wow」が作れたのが大きかったです。現場のお客様は、生成AIを実際に触ったことがない人がほとんどなんです。我々が最初にChat GPTを使った時に感じた驚きを、現場のペインを解消する形で体験していただくと、みなさん強い関心を示してくださいます。

VCとの正しい付き合い方 - 事業の"正解探し"をしない

💬 DCM: Atlasの期間中、苦労したことって何かありますか?
💬 岡部さん: ベンチャーキャピタルとの付き合い方ですね。どうすればみなさんの豊富な知見・経験をフルレバレッジできるのか。最初は、こっちもシャープなインサイトを引き出せる質問をできていなかったと思います。途中から「こういう投げかけをすると、こういうインサイトが出せる」というのがわかってきました。それを創業2~3ヶ月で掴めたのは、とても良かったと思います。

💬 DCM:具体的には、どんな投げかけですか?
💬 岡部さん: やはり自分たちの方が事業理解の解像度は高いので、自分の事業にかなり深く関係してる個別論点で議論しても、大きなインサイトを得られにくい。事業の「正解」を聞きに行くのではなくて、抽象度の高い大論点を議論しつつ、その判断材料となる他のビジネスからのアナロジーや、他企業の失敗談を踏まえた「インサイト」を勝ち取りに行く方が、良い議論になると気づきました。

💬 DCM: VCからの「インサイト」を材料に、事業の判断は自分たちが下すということですよね。
💬 岡部さん:やはり最初は自分たちにも経験がないし、DCMさんが言うことなので、全てを真に受け取ってしまいがちでした。でも、「答え」を探しに行くのではなく、「判断材料・思考のヒント」をもらい自分たちの意思決定の成功確度を高めるというのが、VCとの正しい付き合い方だなと学びました。

Atlasディナーにて、採択メンバーとDCMメンバー

プロダクト0から、PMFへ。1社目はどう獲得した?

💬 DCM: Atlasに応募した時は会社設立前、1月のキックオフ時点ではプロダクト開発前でしたよね。そこから、6月頭の最終発表では最初の顧客で全社展開が決まっていたり、複数契約が取れていたり。プログラム中、どうやってターゲット顧客の絞り込みをしましたか?
💬 岡部さん: ターゲット顧客のセグメントは、今でも試行錯誤中なんです。ただ、ファーストカスタマーにめちゃくちゃ刺さったその要因分析によって、ターゲット選定で重要になる「軸」の優先度がクリアになってきたと思います。ロジカルに絞り込んだというより、まず話が進んだところ。それで、なぜ刺さったのか?という分析をしてたどり着いたという感じです。

💬 DCM: その1社目の顧客は、どのように見つけましたか?
💬 岡部さん:
 起業する段階で、自分たちの事業アイディアがどれだけ市場に受け入れられるかのユーザーヒアリングをしていたんです。ビザスクやクラウドワークス、SNSなどを駆使して、50社以上にはヒアリングしました。製造業だけでなく、物流、ビル管理、データセンター、宿泊とか、幅広くやってましたね。そこで1番食いつきが良かったのが、最初のお客様だったんです。現場に行ってみたら、工場長と話ができて、「それくらいの予算だったら、来年度の予算に入れておくからやってごらん」って。

💬 DCM: すごいですね。その会社の「食いつきの良さ」や「刺さってる」という感覚は、どのあたりで感じましたか?
💬 岡部さん:
 よくB2Bで一般的に言われる「バーニングニーズを捉えるべき」「プロダクトがなくても、パワポ一枚でそのニーズの高さはわかる」という話って、実際やってみるとジャッジが難しい。日本人の気質もあるのか、わかりやすい「Wow」が得られづらい。「良いですね、確かにこれは欲しい」とは言われましたが、それがバーニングなのかが分かりにくいんです。ただ「要らない」と言われることはなかったので、筋は良いのではないかと感じていました。そのような中で、1社目のPoCでMVP(Minimal Viable Product)を初めて持って行った時に、工場長が直接手で触りながら「やばい。これはマジでやばい」と言ってくださって、これはいけると確信しました。

5ヶ月間の進捗を、DCMグローバルチームに最終発表している様子

DCMは強面だが、愛情深かった。プログラム後も続くサポート

💬 DCM: 5ヶ月間のAtlasの前後で、DCMやプログラムに対して、想像や期待と実際とのギャップは何かありましたか?
💬 岡部さん:僕は個人的に、DCMのそれなりに詰めてくるスタイルが好きで、常にcheer upだけされても伸びないので、それを期待して入りました。もっとやってもらっても良かったくらい(笑)。おそらく世間的にも、DCMは強面なイメージがあると思います。もちろん厳しい指摘はいただきますが、中間発表や最終発表で、USや中国のDCMメンバーにもプレゼンをするとなると、日本のDCMチームが非常にサポーティブだったのが印象深かったです。プログラムを通して、皆さんがめちゃくちゃ時間も使ってくれて、深い愛情を感じました

💬 DCM: 愛情が伝わって良かったです(笑)
💬 岡部さん:Atlasが終わった後も、DCMさんの投資先の1社として、幅広いご支援をいただいています。経営や組織の相談などで週1で時間をいただいたり、プロダクトエキスパートのベンチャーパートナーの方によるプロダクトセッションも隔週でやっていただいたり。組織作りをしていくにあたって、人の紹介もたくさん頂いていますね。経営者の紹介や、デザインのプロの紹介、CTO・エンジニアの見極めのために、DCMさんの投資先企業で活躍されているCTOの方をご紹介いただいたり。

最後に、Atlasへのリクエスト・第2期応募者へのアドバイス

💬 DCM: 今後、DCM Atlasに対して、もっとこうすべきみたいなことってありますか?
💬 岡部さん:DCM投資先CEOの方々によるゲストレクチャーがとても良かったので、もっと頻度を上げていただきたいです。freeeやSansanなど、上場したDCM投資先の経営者の方々が見ている景色も聞いてみたい。シリーズA/Bの人たちともまた違う、1周回った景色が見えていると思うので。あと、最後のUS出張もとても満足度高かったです。やはり、シリコンバレーの投資家・起業家から直接インプットをいただけたのは、とても刺激になりました。

💬 DCM:第2期の応募企業にアドバイスをするとしたら、何を伝えますか?
💬 岡部さん:自分たちの経験上、この5ヶ月をAtlasで過ごせたことで、事業の発射台をかなり高められたと思うので、応募をお勧めします。そしてもし採択されたら、とにかくDCMさんをフルレバレッジしたほうがいい。なかなか創業期からグローバルVCの知見・経験をレバレッジできる機会はないと思うので、フル活用されることをお勧めします!

DCM USオフィスにて、M2Xの創業メンバーで記念写真📸


岡部さん、インタビューありがとうございました!
第2弾の採択企業は、Public株式会社の代表取締役CEO  松本拓也氏の予定です。次回もお楽しみに!

🗺️ 第2期('24)への応募はこちら[受付期間2023/8/1~10/31]🗺️


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