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「一期一会カタリバ横丁」  5人目の客人 木村 徹さん(コーヒー専門店店主) 〈ニカラグアに農園を購入して、自前のコーヒー豆をつくる〉

今回の「ゲスト」

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木村 徹(きむら とおる)
東京・三軒茶屋にあるコーヒー専門店「三軒茶屋珈琲red-clover」を経営。ニカラグアに「モンテクリスト農園」を所有し、コーヒー豆の栽培も行っている。三軒茶屋観音の朝市でコーヒーを100円で提供しており、MBSのテレビ番組「所さん お届けモノです!」で取り上げられる。2015年には農園近辺に住む子どもたちが教育を受けられるようにと、ニカラグアに学校も設立している。

カタリバ横丁の「ホスト」

パリなかやま_プロフィール_HEA6429

パリなかやま
ギター流し/流し歌手。2008年、亀戸横丁で流しデビュー。2009年、恵比寿横丁流し参入。平時は恵比寿横丁にて20時~平日中心に営業。コロナ禍はオンライン流し展開中。ほか有楽町、新橋、吉祥寺、溝の口などの街とも提携。レパートリーは昭和から平成、演歌からJPOP、洋楽まで含め2000曲ほど。大抵のことは笑顔でこなすピースな流し。出張の流しでは冠婚葬祭、同窓会、送別会、あらゆる催しに対応。場所は野外、個人宅、屋形船、温泉宿、喫茶店、場所を選ばずオンデマンド。2014年書籍「流しの仕事術」を代官山ブックスより発売。平成流し組合代表。現在流し50名程活躍中。https://www.nagashi-group.com/

その他_音楽歴等
2004年 日本クラウンより「人生に乾杯を!」でメジャーデビュー(コーヒーカラー名義)

飛鳥 とも美 - 5E9401D9-6346-4C9A-993A-E6DEB42B0C61

飛鳥とも美(あすか ともみ)
演歌歌手、流し見習い。座右の銘は「死ぬこと以外はかすり傷!」。2013年6月、ビクターより「あなたに決めました」でデビュー。2014年、「日本作曲家協会音楽祭」奨励賞受賞。2015年11月には、台湾にてミニアルバム「大家好! 我是飛鳥奉美。」を発売、台湾南投縣観光親善大使としても活動開始。2017年、三重県津市を舞台とした″レ・ロマネスク”の「津の女」をカバー、2018年6月に、新曲「絆道 -きずなみち-」を発売し、現在 精力的に活動中。
演歌歌手、流し見習い。座右の銘は「死ぬこと以外はかすり傷!」。2013年6月、ビクターより「あなたに決めました」でデビュー。2014年、「日本作曲家協会音楽祭」奨励賞受賞。2015年11月には、台湾にてミニアルバム「大家好! 我是飛鳥奉美。」を発売、台湾南投縣観光親善大使としても活動開始。2017年、三重県津市を舞台とした″レ・ロマネスク”の「津の女」をカバー、2018年6月に、新曲「絆道 -きずなみち-」を発売し、現在 精力的に活動中。

衝撃を受けたコーヒーは「ピーチの味」がした

パリ こんばんは、一期一会カタリバ横丁の時間です。

飛鳥 みなさん、こんばんは!

パリ 今日のゲストは、三軒茶屋にあるコーヒー専門店「三軒茶屋珈琲red-clover」の店主・木村徹さんです。たまたま通りがかりで入って以来、ありえないコーヒーの薫りに魅了されて、もう何年もしょっちゅうコーヒー豆を買いにいっています。

木村 いつもありがとうございます(笑)。今日はよろしくお願いします。

飛鳥 よろしくお願いします。早速ですが、木村さんがコーヒーの魅力に取りつかれたのはいつ頃なんですか?

木村 社会人になってからだね。大学生の頃はコーヒーなんて「ライオネスコーヒーキャンデー」ぐらいしか口にしてなくて、コーヒーは飲まないし、街中にも自家焙煎のコーヒー屋がそんなに目立つほどなかったよね。

パリ ちょうどスターバックスが日本にできたぐらいでしたね。

木村 そうだよね。25歳ぐらいの頃に横浜にある「南蛮屋」というコーヒーショップにたまたま行ってみたら、店内には世界中のコーヒー豆が並んでいて興味が湧いたんだよね。

それで初めて豆を買って、コーヒーを淹れるためには豆を挽くミルや、豆を入れてお湯を注ぐドリッパーやペーパーフィルターを揃えないといけないからすぐに揃えて。家で淹れて飲んでみたら、過去にたまに飲んできたコーヒーと味が全く違ったんです。淹れ方は適当だったのに。

飛鳥 そんなに違うんですか?

木村 そのとき飲んだのはエチオピアのコーヒー豆の「イルガチャフェ」というもので。今ではコーヒー好きは誰もが知っている銘柄だけど、そんなことは全く知らないで飲んだのね。そうしたらものすごい香りがして、昔、花の絵が描いてあるキャンディがあったと思うけど、あのピーチみたいな味がしたの。衝撃だったね。

飛鳥 そんなにフルーティなんだ!

いろいろな種類を飲んでみたいとコーヒーにハマる

木村 そうそう、フルーティ。何これ、香料でもつけてるんじゃないの?と思うぐらい。当時なかなか手に入らない豆だったからもったいなくて、最後の一杯分の豆は、自分のお店「red-clover」をオープンする33歳までの約10年間取っておいたほど。

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パリ さすがに10年経つと、コーヒー豆の匂いはなくなっちゃいますよね。

木村 でもね、匂いがしたの、ムワッと。どうしてそれほどの強烈な匂いが生まれるんだろうと興味が湧いて、いろいろな種類を飲んでみたいと思うようになってコーヒーにハマっていった感じかな。そうやって突き詰めていった自分で農園まで所有しちゃってね。

飛鳥 なかなかそこまでいく人もいないですよね(笑)。

木村 コーヒー豆って、品種によってはもちろん、生産国や国内の地域によっても味が変わるんですよ。コーヒー豆にはたくさんの品種があるから、なんでこういう味なのかって、知りたい欲に駆られちゃうんです。

パリ それはイルガチェフェに再び会うための旅みたいなものですね。

木村 だからイルガチャフェの生産国であるエチオピアにも行きましたよ。

飛鳥 エチオピアに行ったんですか!?

木村 うん。そこに至るまでの経緯があって。俺がコーヒーにハマったのは転職2社目で、自動車教習所の指導員をやっていた頃なのね。当時は教習所に早く行って洗車を終わらせて、給湯室でコーヒーを淹れてました。まわりからは「のんきな奴だな」って言われてたよね。でも、だんだんと同僚が「僕のコーヒーも淹れてよ」と言ってくるようになって、淹れてあげてたんです。

パリ そこでコーヒー屋がもうはじまってますよね(笑)。

いざ、エチオピアへ

木村 そうなんですよ。その頃にアメリカのハワイアンカフェのコーヒーチェーン「BAD ASS COFFEE」に行ったら、ラフでかわいらしい雰囲気が好きになって、ここで働きたいなと思うようになって。それで教習所を辞めて「BAD ASS COFFEE」で働いたんだけど、しばらく経つと、もっとコーヒー豆にこだわりたくなったんですね。それで辞めてプータローになって、エチオピアやグアテマラ、ニカラグアなどの海外に行くようになりました。

パリ イルガチャフェ生産国のエチオピアはどうでしたか?

木村 現地には知り合いもいなかったからね。エチオピアには「オロネアコーヒー」という日本の農協のようなコーヒー豆の生産協同組合があって、今だったらネットでオロネアコーヒーと検索して、連絡先にメール送って「コーヒー農園に行きたいからアテンドしてほしい」と事前に連絡できるけど、当時はなかったから。

飛鳥 木村さんはどうしたんですか?

木村 エチオピアの首都はタクシーがいっぱいいるから、タクシーのお兄ちゃんに「イルガチャフェのコーヒー農園に行きたい」と言って。そうしたらまわりの運転手達と会議みたいのがはじまっちゃってさ。その農園は首都から車で10時間ぐらいかかるうえ、ぐちゃぐちゃな道を行くから、「自分の車を傷めたくない、他の車に行ってくれ」と(笑)。

飛鳥 10時間はかなりの距離ですよね。

木村 そう。結局、農園には行けなかったけど、首都にあるアリスアベバというコーヒー工場には連れていってくれて。そこは近くて、渋谷から三茶ぐらいの距離。農園にも2回目にエチオピアに行ったときに行くことができたけど、それまでに見てきたグアテマラやニカラグアなどの中米の農園と比べて「エチオピアなどのアフリカのコーヒーの流通システムと、中米のそれは違うんだな」と気づいたんです。

飛鳥 どこが違うんだろう?

木村 中米の農園はきれいに整えられていますけど、アフリカの農園は、昔はいわゆるプランテーションで、雑に区切って、一般の人にここの農園を管理してくれ、というイメージですね。

パリ 日本の田んぼみたいな?

農園から直接買うことはできなかった

木村 そうです。だからアフリカはコーヒー農園にフォーカスされることってほとんどないんですよね。収穫時のコーヒーの赤い実をロースト前の白い生豆に加工するウォッシングステーションという工場に行ったほうが面白いです。なぜなら、農園に行っても特に面白くないし、農家から直接買い付けることもできないから。

パリ つまり、先ほど言っていた農協のような存在があるから購入はそこを通してすると。

木村 そう。ただ、農園から個人で絶対に買えないわけじゃないんですよ。というのは、現地のブローカーみたいな人がいて、本職は銀行マンだけど、コーヒー豆を輸入販売するためのライセンスをもってたりする人がいて。そういう人からは直接買えるんですよ。

飛鳥 へー、面白いですね。

木村 エチオピアに2回目に行ったときはもう日本でred-cloverをオープンしていたから、俺はコーヒー豆のブローカーとエチオピアの喫茶店で商談したんです。「どのぐらい欲しいんだ」「小さい店で使うぐらいだから140キロぐらいあればいい」と。

飛鳥 140キロ、結構な量ですよね。

木村 そうでしょ? でも、その人は「俺はキログラムなんていう単位は知らない、トンからだ」と。それで輸入は挫折しました。1トンなんて無理だから。

パリ 倉庫がないとね。

木村 そう、輸送の船もチャーターしないといけないしね。だからコーヒーは自分でやるのは困難なマーケットだと思いました。エチオピアの工場からスーツケースに入る20キロぐらいの豆だったら買えるんだけど、それを持って帰ってくると税関がうるさくてね。

飛鳥 そうですよね。なぜこれだけの量をと。

木村 アフリカからも中米からも持ち帰ったことがあって、仲間3人で行けば60キロはいけるから。でも、入国審査でその3人が並んでるとおかしいでしょ。

パリ いかにもですよね。そういうのを摘発するのが仕事ですからね。

木村 だから農園に「これはお土産です」という内容のレターを書いてもらうの。でも、エチオピアの人は現地の言葉のアムハラ語だから、税関の人も全く読めなくて、「こんなの知らない」と言われて(笑)。だいたい空港では別室行きだもんね。結局、通してくれたけどね。

コーヒー専門店は衝動的にはじめた

パリ 先ほどさらっと「もう自分のお店を開いていた」という話がありましたけど、お店を出すのはなかなか大変なことじゃないですか。2009年オープンだと思いますが、開店準備についても教えてください。

木村 準備はほとんどないね。コーヒー豆のロースト(焙煎)の方法はニカラグアで教えてもらって、衝動的にはじめて。物件も探したわけじゃなくて、世田谷公園で野球やった帰りに歩いてきて「貸し物件」と書いてあって、ここは面白いなと。

パリ 細長のお店の感じが。

木村 そう。そのまま三茶の不動産屋に行って、即決しました。内装は全部手づくりで、天井外して、電気もコンテナチックにしたり、適当なんだけど。今は店内にたくさんの種類のコーヒー豆を並べてますけど、当時は自分が現地から持って帰ってきたコンゴ、ルワンダ、ウガンダの3種類ぐらいしかなかったですね。

パリ 自分でニカラグアに農園を所有したのも、その頃からですか?

木村 いや、それはもっと後だね。お店をオープンした2009年にニカラグア人のゴメスという今の相棒がred-cloberに来て、「ニカラグアのコーヒー豆を見てくれ」というから見たら、とても瑞々しくて良い豆だったんです。俺もこの豆が欲しいと思って、一緒にニカラグアの農園に行くようになりました。農園にはコーヒーの赤い実はたくさんなってるから1粒ぐらい味見してもいいかなとちぎって口に入れたら、ゴメスにめちゃくちゃ怒られたんです。

飛鳥 え、なんてですか?

ニカラグアでコーヒー農園を購入

木村 「おまえがやってることは泥棒だ」って。まわりを見ると、農園で働いている人も俺のことをそういう目で見ていて。それをきっかけに、じゃあ自分で農園をやろうかなと思うようになりました。同じ中米でも、コスタリカやパナマ、グアテマラの農園はきれいな管理されている農園なんだけど、ニカラグアは手つかずの自然の中に農園がある感じなんです。

飛鳥 何も手が加わってなくて。

木村 そう。農園の中をぐちゃぐちゃのぬかるみを長靴はきながらアップダウンして、要はドラクエ、冒険よ。だからコーヒー豆を自分でつくるというビジネスの視点もあったけど、農園の中を流れる川を独り占めにしたいという気持ちもあって。それで2012年にニカラグアのモンテクリスト農園を買って、初めてコーヒー豆の木に赤い実がなったときは感動したよね。

パリ 買ってからどのぐらいで赤い実を見ることができたんですか?

木村 3年ぐらいかな。土地を整備するメカを購入する去年まで、2012年から2019年までは手作業で整備して。現地の人達と手を切りながらコーヒー豆の木を植えて。大変だけど、農園に寝泊まりするのはいいよ、陽が沈むと真っ暗になって、外でハンモックで寝るの。朝起きたら農園を散歩して、そこらへんになってるベビーコーンちぎって食べたり、オレンジやバナナをむしって食べたり。朝ごはんを農園に調達しに行く感じで。

飛鳥 農園にバナナの木も植えたんですか?

木村 植えました。というのは、コーヒー豆は直射日光が当たると苦味を生成しちゃうので、日陰をちょっとだけつくるためにオレンジやバナナの木を植えるんです。バナナの木は台風が来たときに土が流れるのを防いでくれるし、農園の人はバナナやオレンジを売って生活の糧にしたりもします。

パリ 今はモンテクリスト農園では何人ぐらいが働いてるんですか?

木村 14人かな。彼らはめちゃくちゃ真面目に仕事しますね。それはうちの報酬が現地の農園に比べて高いというのもあります。報酬は収穫したバケツ1杯いくらで計算されるんですけど、ニカラグアだったら200円ぐらいが相場ですね。朝6時から夕方4時まで働いて、1日平均5回ぐらい運んで、日給1,000円ぐらい。結構運ぶ人で1,400円。物価は日本とそれほど変わりません。

飛鳥 日本と物価が変わらなくて、それで生活できるんですか?

2015年にはコーヒー農園で働く人の子どもたちのために「学校」を設立

木村 モンテクリスト農園は、無料の寮あり、食事あり、スマホも貸し出しありです。さらに、うちは相場の3倍のバケツ1杯600円払っています。1日5,000円ぐらい稼ぐ人もいて、うちは稼げるからと彼らがどんどん友達を連れてくるんですよ。

パリ それを聞くと、他の農園の1日1,000円は安すぎる気がしますね。

木村 そうだね。ただ、フェアトレードで正当な給料を払いますというのもいいんだけど、それもまた難しいんですよ。結果、コーヒーの販売価格が高くなっちゃうから。報酬はそれが限界かな。だから住む場所や食事を提供して、さらに2015年には学校もつくりました。

飛鳥 え、学校?

パリ 学校をつくってあげないと学校にいけない子がたくさんあるということですよね。働いている人の子どもたちが通うための学校をつくって。

木村 そう。モンテクリスト農園は1つの山全体が農園地帯になっていて、その山の一番下に学校をつくりました。

飛鳥 凄い話ですよね。他の農園はバケツ一杯200円で、寮や食事の提供もなくて、それが当たり前で。一方で、木村さんは働く環境も整えて、さらに報酬も相場の3倍払うというのは、なぜそこまでしようと思ったんですか?

木村 何でもお金なんですよ。うちはおいしいコーヒーをつくりたいから、きれいに熟した赤い実だけを積むように要求しています。コーヒー豆はまだ熟してない実もあるから、赤い実だけを選んで摘んでいくのは大変なんですよ。

枝をもってビューンとやっちゃえば、たくさん取れちゃうから、そうやってサボることもできて。そのなかで「きれいな赤い実だけを摘んでくれ」と言ったら、「じゃあお金」となるんです。いろいろきれいごとを言ってるけど、何たってお金だから。

飛鳥 そうですよ、生きるためにはね。

相棒のゴメスとの出会い

木村 気持ちよく仕事をしてもらうために現地の相場の3倍払ってね。ニカラグアは貧しい国で、良い人材はコスタリカやパナマなどの裕福な国に流れちゃうんですよ。だからちょっとでも良い人材が流れないようにするためには、報酬を払うしかないんです。

飛鳥 そうなんですね。これまでのお話を聞いてると、ゴメスさんとの出会いも大きかったように感じます。

木村 そうですね。今もコーヒー豆の輸入はゴメスに頼ってますからね。ただ、ちょっと俺とは感覚が合わないところがあって、コーヒー豆の販売は利益が2割程度で、1,000万円売り上げても、200万円しか手元には残りません。でも、ゴメスはお金のことに細かいくせに、1,000万入ったら1,000万使っちゃうんですよ。

パリ ははは、わかってないと(笑)。

木村 六本木で豪遊してタクシーで横浜に帰ったりして。でも、その売上金のうちの800万円ぐらい出して、翌年の豆を買わないといけないんですよ。

飛鳥 ゴメス~! それで大丈夫なんですか?

木村 大丈夫じゃないよ(笑)。でも、ゴメスも最近ようやくわかってきたかな。コーヒー豆はそういう先行投資をしないといけないから事業としては凄く難しいね。変な話、コーヒー農園が儲かるんだったらみんな農園やってるじゃないですか。

パリ 確かにそうですね。

木村 やらないですよ。だって、問屋や商社から良い豆が入ってくるんだから、自分が良い豆を選んで買ったほうがいいじゃないですか。農園の何が難しいって、売れようが売れまいがコーヒーの実は熟すから、「今年は30個でいいよ」と言っても、125ぐらい熟させちゃって。そうすると、コーヒー豆は生鮮食品だから、全国に売りさばかないといけない。

パリ いわゆる農家の大変さってやつですよね。

自分の農園のコーヒーにはまだ納得できていない

木村 毎年コーヒー豆ができるわけで、「今年はコロナであまり売れないから、ちょっとコーヒーの諸君、今年は実を熟さないでもいいからね」というわけにはいかないです。でも、ゴメスは能天気だからそれがわかってなくて、先日電話かかってきて、「おい、徹! 農園凄いよ! ブルボンのコーヒー豆の木を5万本植えてきたよ!」って。

飛鳥 足りているのにさらに新たたに植えてしまって(笑)。

木村 1本から10キロぐらい収穫できるんだから相当な本数でしょ。売り先をちゃんと整えてからやらないと、どんどんコーヒー豆ができてしまうから。

パリ 木を植えるのも、管理するのも人手がかかるからね。ゴメスが現地でどんどん先行投資しちゃってるんですね(笑)。

木村 そう、どうすんだよって。肥料も金がかかるし、働き手も増やさなくちゃいけないからさらに金がかかる。農園は大変ですよ、今でも辞めたいと思うもん。みんなは「コーヒー農園やっていいですね、凄いですね」と言うけど、もういいわって感じ。まぁ、面白いですけどね。

パリ それだけ大変な思いをされて、モンテクリスト農園で収穫したコーヒー豆は良い豆なわけじゃないですか。それはどこかに他の店などに卸したりもしてるんですよね?

木村 買ってくれる店はいくつかあります。でも、味はまだまだだね。コーヒーはやっぱ味ですよ、味。

パリ 味を知ってるがゆえに自分の農園にも厳しくなって。

木村 お客さんに「おすすめの豆はなんですか?」と聞かれても、自分の農園の豆は勧めないもんね。グアテマラのチェリーストーンというコーヒーがあるんだけど、こっちのほうがおいしいからって。

飛鳥 木村さんが味にまだ納得できないのは、農園の木がまだ若いからとか、そういう理由なんですか?

木村 なんだろうな。農園のディレクターみたいな人が現地にいるんですよ。コーヒーの先生と監督みたいな役割の2人がいて、一昨年人を代えたら、だいぶ味はよくなってきましたね。

飛鳥 どうしてディレクターを代えたら、味が変わったんですかね?

コーヒーの木も「休み」が必要

木村 完熟させる前までに早く熟したのを摘んだり、枝を切ったりする準備がうまいのかな。コーヒーは農園に植えて収穫期になれば、たいした世話をしなくても勝手に実をつけるんですよ。でも、農園の土の管理だったり、味をおいしくするテクニックはあると思います。ディレクターを代えたら、土もフカフカになったもんね。

飛鳥 ということは、同じ木だったとしても、その世話の仕方でコーヒーの味が全く変わってくるっていうことなんですね。

木村 そう。あと、日陰にする木の話をしたけど、日陰になり過ぎちゃうからバナナの木をちょっとカットしたんですよ。日陰すぎると「徒長(とちょう)」と言って、ずっと枝が伸びちゃうから。他にも、こちらが欲を出すと、その木から毎年、実を積みたくるんだけど、休ませないといけないんです。

パリ あ、そうなんだ。それは知らなかった。

木村 この木を休ませるために枝を切って、もう1つ隣のラインに木を植えるんですよね。それで今年はこの木から獲ったから来年はこっちと、交互に収穫をするんです。俺がそれを知らなくて農園のキャプテンのリコベルトに「これ切っちゃうの?」と言ったら、「女の人だって毎年子どもを産んでたら大変でしょ。木も実がなると疲れちゃうから休ませてあげないとね」と教わりました。

パリ そうやって少しずつ味が改善されていってるんですね。

木村 そう。以前は自分の農園のコーヒー豆なのに、自分の店にはしばらく入れてなくて。おいしくなければ自分の店にも置かないという。試しに置いたことがあったけど、お客さんも正直で、買ってくれなかったもんね。

パリ この店に来る人は相当好きな人だからね。

現地の農園に行くからこそわかることがある

木村 でも、今年からおいしくなったから。収穫したばかりの赤い実を12時間以内に皮を剥いたほうがクリアな綺麗な味になるんですよ。しばらく置くと、発酵してしまって、癖が出てしまって。大きな農園はコーヒーの皮を剥く機械や皮を洗う設備があって一気にガーッとやるんです。その皮を洗う工程をウォッシュというんだけど、洗濯にしても手で洗うより、機械でやったほうが汚れは綺麗に落ちますよね。

飛鳥 そうですね。

木村 でもうちはお金がないから手で機械を回して皮を剥くの。そこで戦っても勝てないから、うちは乾燥で勝負しようと、皮をつけたまま24時間ぐらい放置して乾燥させています。乾燥の仕方を工夫すると、おいしくて、個性的な味になるんですよ。それにね、大きい工場のウォッシュの作業って排水が山や町を汚すんですよ。

パリ コーヒーの実の汁が混じったものが流れるわけだから。

木村 うちの農園の山は大自然で、湧き水もあって、きれいな川が流れているから、それも汚しちゃいけないなって。大きいところと戦わないで、僕らは僕らでできるコーヒーをつくろうじゃないかと思っています。

飛鳥 そうやって工夫していった結果、自分の農園のコーヒー豆が理想の味になったらいいですよね。

木村 感動するよね。理想の味を求めるのもそうだけど、自分で農園をやると他にも良いことがあって。お客さんに「この豆ってどういう風にできたんですか?」と聞かれたときに、自分の目で見て、体験したことを話すことができるんです。

なぜこのコーヒーはこんな味がするんだろう?と思ったときに、現地に行ってみると、たとえば農園から工場まで離れていて輸送に時間がかかるからこういう味になっちゃうんだろうなとか、徒長で枝がひょろひょろ伸びちゃってるからこんな味なんだなとわかって。体験している話のほうが説得力があるでしょ。

パリ なるほど、現地に行くとヒントや答えがあるわけですね。

木村 うん。コーヒー豆って8割ぐらい加工されて日本に入ってくるんですよ。我々は焙煎するだけだから、その豆の個性を見極めて焼くわけだけど、それまでの育った環境がわからないと焙煎ってできないはずで。人間で言ったら、書類だけ見て、実際に会わないでお見合い結婚するようなものかな。そう考えるとやっぱり現地に行きたくなりますよね。真実は1つだから。

パリ 「行けばわかるさ」というね。

店にブレンドを置かない理由は?

木村 今はネットを見れば何でも情報が入ってきて、モンテクリスト農園もGoogle Mapで見ることができるし、コーヒーについても調べることはできる。でも、反面、正しくない、良くない情報もたくさん入ってきちゃって。僕はネットがない時代を若い頃に生きていたせいか、自分の足と目しか信用できなくて。現地を知っている僕からすると、ネットの情報で「これ違う」というのはたくさんあります。

パリ 現実しか信用しない。美学ですね。

飛鳥 コーヒー専門店の方って、そういう販売者の方が多いんじゃないですか?

木村 農園に行ったことない人のほうが多いと思うよ。そういう人はローストやブレンドで勝負していて。一方、うちは数種類の豆を混ぜて販売するブレンドがなくて、お客さんによく「ブレンドないですか?」と聞かれるんだけど、ブレンドをやると主役が豆を混ぜる僕になっちゃうんですよ。主役はコーヒー豆であってほしくいから。

パリ だからブレンドがなかったんですね。

木村 お客さんは勝手にブレンドしていて、それは大歓迎なんだけどね。うちはお値段も一律価格でやっていて、常連のパリさんは慣れているから、200グラムがこれで、100グラムがこれこれと、自分でカスタマイズしてるもんね。

飛鳥 ちなみに、パリさんのチョイスは何ですか?

木村 200グラムのベースをかましてくるんだけど、浮気性だからベースも変わるんだよね。個性的なの好きだな。怖いよ、この人は(笑)。

パリ 今はケニアだね。最初は酸っぱいフルーティな、あれは感動したよね。未体験の香りだったから。

木村 チェリーテロワール系ね。今はもうないかな。

一律価格にしているのは、同じ値段でコーヒー豆を戦わせたいから

パリ 一通り棚に並んでいる豆は知ってるから新しい豆が出たら必ず買いますね。僕はお酒飲まないからコーヒータイムが一番贅沢な時間で。贅沢であり、1日何回も飲むわけだから、とても大事だよね。

木村 お客さんの豆の選び方を見てると面白いですよ。本当にかたくなにそればかり買う人もいるし。パリさんみたいにいろいろ買う人もいるし、性格わかるよね。全部同じ値段にしていると、それが面白いですよ。この店の中では一律価格にして、味の好みは個人差があるから、その中でコーヒー豆を戦わせたいなと。

パリ それは凄いわかる。red-cloverの瓶が並んでるのを見ると、昔のキン肉マン消しゴムを並べて戦わせているように見えるんですよね(笑)。全てのコーヒー豆が愛すべきという状況の中で、お客さんの人気投票を見てみたい気もしますよね。

木村 あ、それいいね。やってみようかな。

パリ お店にはコーヒーの愛好家が来るから、僕も順位つけろと言われたら全部つけることができますよ。それが世間と比べてどうなのかは興味がありますね。今月のチャンピオンはこれでしたとか、みんな知りたいんじゃないかな。自分が知らないものが人気だったら絶対買うよね。競馬みたいに予想もやったりしてさ。

木村 面白いね、やってみよう。今のところ、棚は精鋭のコーヒー豆が揃ってるんだよ。新しい豆を入れるために誰かを落とすんだけど、もう落とす豆がなくて2段だった棚を3段にしちゃって。

パリ 野球のファームみたいに2軍専用のコーヒー豆の店をつくらないとならなくなりますね。木村さんは世田谷観音の朝市でコーヒーを販売してるから、そこでそれを出してみたりね。

飛鳥 そうそう、朝市の話も聞きたいんです。テレビ番組の「所さん お届けモノです!」でも取り上げられたんですよね。朝市の出店はどれぐらいのペースでやってるんですか?

世田谷観音の朝市では1杯100円に

木村 毎月第2土曜日です。今はコロナで5月からやってないけど、来月からまたはじまるみたいですね。

飛鳥 コーヒー1杯100円で出してるんですよね?

木村 100円以上取れないよね。以前の朝市はいろいろなコーヒー屋がいて、350円で売っていて、さらに世田谷観音の住職に「550円に値上げしたい」と言ったみたい。それからすぐに住職がここに来て、「木村くん、コーヒー1杯いくらでいける?」と言われて、「100円でしょ」と言ったら「じゃあやって」と。それでやることになったんです。

飛鳥 でも100円で売ったら赤字でしょ?

木村 赤字にはならなくて儲けはちょっとぐらいですね。まぁ100円以上は取れないよね。このあたりの三軒茶屋の南側、下馬エリアはおじいちゃんおばあちゃんが多くて、アットホームな感じなんです。おじいちゃん、おばあちゃんに気軽においしいコーヒーを飲んでもらいたいというのはあるよね。

飛鳥 地域のためにやってるんですね。

木村 それに550円払ったら「それはまあおいしいよね」って感じでしょ。でも、100円でおいしかったらビビるよね。今はセブンイレブンの100円コーヒーもおいしいし、昔はそうでもなかったけど今はドトールのコーヒーも210円でおいしいから。かなり底上げされているから自家焙煎の店は頑張らないといけないね。

パリ 企業同士も戦っているから、おいしいよね。とはいえ、木村さんのモンテクリスト農園のコーヒー豆も味がどんどんよくなっているから楽しみですね。

木村 最近、ニカラグアで複数の農園のものを審査員が飲み比べて評価するカッピングというものがあって。カップには番号しか書いてなくて、それを審査員が飲んで、評価していくんですね。そこで高評価を得たものが2つあって、両方ともモンテクリスト農園でつくっている「ジャバニカ」というコーヒー豆の品種で。

飛鳥 え、凄い!

木村 僕も両方飲んだんですけど、1つは本当においしくてマスカットやレモンを飲んでるように感じました。でも、もう1つはそれに比べると弱くて。で、結果、後者がうちの豆だったんです。2つに選ばれたから味はよくなっているのは間違いないけど、まだまだだね。

飛鳥 ジャバニカというのはどういう特徴がある品種なんですか?

コーヒー豆を買うコツは、味の好みを伝えること

木村 インドネシアのジャワ島で華やかになった「ジャバ」という品種をニカラグアに移植して、「ニカ」という品種を加えて、「ジャバニカ」をつくったんです。正確に言うとティピカロングベリーという品種なんだけど、ジャバニカはマスカットみたいな味がするのが特徴ですね。それがうちのはまだまだ弱いから、がんばらないと。

パリ 木村さんは、野球スクールとプロの球団の両方をやっているようなものだから、いくらスクールの生徒といっても、レベルに達してなければ店には出せないというね。

木村 そうそう、その感じ。出したいけど、ヒット打てない奴を出せるかと。うちの棚は個性的なのが揃ってるから、そこに何の特技もない奴が入っても使えないもん。パリなかやまぐらい個性的じゃないと。

飛鳥 厳しいですね! そろそろカタリバ横丁も終わりの時間ですが、最後に私みたいな素人が木村さんのお店に行ったときはどういう風にコーヒー豆を買うのがいいですか?

木村 うちの店に限らず、コーヒー豆を買うときは好みの味と苦手な味の表現をストレートに伝えるのが間違いないです。「酸っぱいのと苦味が嫌い」と言えば、それだけでも十分に絞れるし、うちはさらに質問していくから。間違いなのは銘柄で言ってくる人ですね。

飛鳥 銘柄はダメなんですか?

木村 「グアテマラください」という人がたまにいるんですけど、グアテマラでも苦いのもあれば、酸っぱいのもあるし、同じ豆でも違うんですね。だから、うちで買ったグアテマラがおいしくても、他の店で買っても酸っぱいのが出てくる可能性がある。たとえば、エチオピアだったら、うちは7種類もあります。銘柄でいうと失敗します。

パリ 今はコロナでできないけど、本当だったら瓶を開けて香りをかいで、それで好きなものを選ぶというのも正しいんじゃないかな。

木村 そうだね。香りは判断基準にはなるよね。ぜひうちの店に来て、好みのコーヒー豆を探してみてください。

<END>

編集・構成 廣田喜昭(代官山ブックス)

「一期一会カタリバ横丁」が開催されているオンライン横丁の総合案内
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