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北欧家具と最近のこと。vol.23

椅子の座面を剥がしている。

もう40〜50年は昔から使われているであろう、古い椅子の座面に張られた布地を剥がしていくと
まあ時々あることなんだけど、剥がした布地の中からまた違う布地が出てくることがあったりする。

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それも剥がしてみると、また新たに違う布地が出てきたりなんかして。
箱から箱が出てくるような。マトリョーシカ状態の
そんな古い椅子の座面を剥がしていく。


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難しい作業は何一つない。
だから余計に、少し手間の掛かるその作業は
ちょっと心が、折れそうになる。


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四角い座面の一辺には少なくとも20本程のタッカーの針を使って生地が留められている。

【一辺約20本のタッカーの針×四辺×3枚の布地=240本のタッカーの針】

これを抜くことが、この椅子の座面1枚を剥がすのに必要な労力である。

椅子は全部で4脚。

【座面1枚240本のタッカーの針 × 4 = 960本のタッカーの針】

をひたすら、抜き取っていく。


なんとさらに、今回は背凭れも布地を張る椅子だった。

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剥がした後の写真しかないが、背凭れにも丁寧に、3層の布地がしっかりと張られていた。

もう、タッカーの針の本数を数える気にもならない。

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何年、何十年前かは知れないが

椅子の座面の生地を張り替える際に、何処かの誰かが手を抜いた。
なんて言うつもりは毛頭ない。

もちろんこれが職人の仕事であったならば
いやいや、手を抜かないでちゃんと仕事してよ
と文句も言いたいところなんだけど。

何処かの誰かは
椅子の座面が傷んできたからと買い換えるでもなく、ましてや処分するでもなく
張り替えて使い続けるという道を選んだ。
自ら手間を掛けてでも、使い続けようと思った。

大切に使い続けてきてくれて、ありがとう。

(張り替える時にね、もともとの生地を剥がしておいてくれれば尚、グッジョブだったよ◎)


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家具の修理をしていると、こんな感じで
人の手を経た痕跡のようなものを見つけることがよくある。
そんな時、ありきたりな言い方かもしれないけど、リレーのバトンを繋いでいるかのような気持ちになる。

たまたま今回、この椅子のバトンは僕に廻ってきた。
たったそれだけのことなんだけど。
でもそれは
今とは、過去から受け継いだものであって、未来へと繋がっていく。
そんな当然のことを思い知らせてくれる。

ただ椅子の座面を剥がすため
ひたすらタッカーの針を抜きながら
大切に使われてきたであろうこの椅子の過去を想う。
不思議と背筋がシャンと伸びてくるような気がしてくる。

どんなに退屈な作業であっても
次へと繋げるために、しっかりと修理をしようという気持ちになる。

何年か後にまた、張り替えが必要になった時
何処かの誰かが少しでも楽に作業が出来るように。

またその先も、大切に使ってもらえるように。

今、出来る限り丁寧な仕事をしてあげよう。


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そんなことを考えながら作業も進み、

あともう少しで完成です。

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