ローカル企業のブランディングの第一歩は、Employee Experienceを向上させるミッションの言語化
この記事では、ローカル企業さんの自社商品のブランディングする際の方向性について経験から感じていたことをまとめます。
これまで約2年、地方で中小企業さんと直接お仕事をさせていただきました。なぜローカル企業でのブランディングをテーマに書こうと思ったかというと、自分自身が実際に直面したことと、日本のGDPを見ていると地域経済がより健全にまわった方が良いのではと思ったからです。
地方はリソースが枯渇しているからこそ必然的にコストを最低限に抑えて一人何役でもやるジェネラリストにならざるを得なかったところがあり、そういう動きをする人が非常に少ないとも感じています。車輪の再発明をする必要はきっとなくて、一つの実験結果として前に進めるような観点を残そうと思い書いています。特に地方の中小企業に関わる人に届けば良いなと。
ブランディングは事業の利益につながる投資である
例えば広告運用などはすぐにその費用対効果がわかるため事業への貢献度が比較的わかりやすいですが、ブランディングとなると中長期的に積み重ねていくものだと思っているので、ブランディングによってどれだけ経営状態がよくなるのかはきちんと説明する必要があります。
書籍でわかりやすいのは『マーケティングプロフェッショナルの視点』なのですが、
その中でもブランディングと事業利益について書かれています。
ブランドの意味がより多くの人に認識されることは、ブランド価値が蓄積されていく投資になる。
(出所:『マーケティングプロフェッショナルの視点』より一部改変)
当たり前みたいですがブランディングはリターンの返ってこないものではありません。
市場が縮小していく中でブランディングに本腰を入れて取り組まれる企業さんが増えているのではないかと思うのですが、地域に密着していたり、衣食住のような生活のインフラ的なものを提供しているローカル企業さんでは、都心部とは少し違う考えをする必要があるように感じています。
ブランディングにかかるコスト
そもそもブランディングの定義を考えたときに、先ほどの紹介させてもらった「マーケティングプロフェッショナルの視点」から言葉を借りると、”ブランディングとは意味を作ることである”、となります。
「価値」や「意味」が、五感により刺激を受けて作られていくとすれば、顧客との接点においてどんな知覚刺激を与えるかがブランディングでやることの一つ。
例えば、パッケージ、カタログ、WEBサイト。そこに載せる写真、動画。SNSでの投稿、全体のトンマナ、などが商品から感じられる知覚価値を左右すると考えると、その一つ一つにかかるコストの総和を考える必要があります。デザイナーは社内にどれだけいるのか?アートディレクターはいるのか?などによっても変わります。
かかるコストのイメージを伝える手段として、ブランディングを本業としているB2B企業さんのWEBサイトでの見積もり例などを紹介してみても良いかもしれません。
また、WEBサイトやロゴなどのデザインを外部のデザイナーさんに外注したり、地域でデザインの得意な人に頼んで作ってもらう、といった個別の要素を変えることで全体が劇的に変わることはほぼ無いのではないかと思います。例えば、コストをかけてWEBサイトをめちゃくちゃオシャレにしたとしても、そこから買って届いた商品のパッケージが全くオシャレでなかったら、「あれ?」と違和感を感じられたり、むしろマイナスイメージに繋がってしまうかもしれません。
↑は定期購読させてもらっているマガジンの記事なのですが、まさにその通りだと思っていて、期待値を超えるからこそ、感動が生まれたり、人に伝えたいと口コミが生まれます。
その会社なりの良さが必ずあるだろうし、「限られたリソースの中で本当にコストをかけるべきところはそこなのか?」と、問いかける必要もあるはずです。コストをかけてること自体に安心してしまってはおそらく前に進みません。アウトプットではなくアウトカム(成果)に目を向けるための丁寧なコミュニケーションをしていきたいです。
顧客や社会にベクトルの向いた組織文化をどれだけ作れているか?
前に「いや、僕なんて奴隷みたいなもんなんで……」という声を社員さんから聞いて、悲しくなった記憶があります。他にできることがないからここにいる、と思いながら働くのはなんだか寂しいです。
「会社の良さ」は色々あると思いますが、地方の企業さんと関わる中でよく感じていたのは「社員さんの人柄の純朴さ」。仕事に関して自信を持ってる方にお会いすることはあまり多くはなかったのですが、人間としての素晴らしさを感じていました。
会社が自信を持って提供してる商品なのであれば、社内の人が自身の言葉で語ることで滲み出る、”会社らしさ”もあるはず。
社員さん一人一人の良さはもっとプラスの方向に生かせるのではと思います。もっと人が輝く環境を作れるんじゃないかと。
例えばどこかの会社の商品やサービスに触れたときに、感動したことはないでしょうか?
個人的な話だと、Apple製のケーブルを買った時のこと。PCの調子が一時的におかしくなってしまったのを直せるか試すためにケーブルが必要でした。「一回使うだけなのに高いな……」と思いながらPCが使えないから電話で注文をしたところ、その時の電話対応をしていただいた方は「こんなこと本当は言ったらダメなんですけど、期間内であれば返品も可能なので、その時はまたお電話くださいね」と言って頂いたことがあります。(結局ちゃんと直り、返品もしませんでした。今後もApple使い続けると思います)
Appleの人との電話で感じたのは「その人の意思」でした。マニュアル通りにタスクをこなすのではなくて、PCが壊れて困ってる自分に対して、こう言ったほうが相手のためになるだろうな、という意思を持った上でそういう行動を選択してもらったような感覚がありました。
マニュアルのない仕事といえば、典型的なのは、大道芸人さん。
常にその日限りのシチュエーション。初めてコミュニケーションをとる老若男女さまざまな人たち。集まった人たちを楽しませるために、時にはアクシデントも笑いに変えるようなウィットに富んだパフォーマンス。
こんなパフォーマーさんのように、目の前のお客さんと関われたら、そこ生まれる体験はお客さんの記憶にも残るではないかと思います。
「仕事をすること」には「役割を演じる」という側面があると思います。それも ”指示通りに演じる” とか、”嫌々演じる” とかではなく、自らの役割を自ら認識して、その場その場でどう振る舞うべきか、自分で行動を選択して”演じる”。その意識が、単に「商品を提供する」のではなく「体験を提供する」ことに繋がり、それはブランド価値にも繋がっていきます。
企業文化、顧客体験、ブランド価値、の繋がりは靴のECの会社、Zapposでも言及されています。
病気の母親のために靴を購入していたものの、亡くなられてしまったために返品し損ねてしまった方に対して、コンタクトセンター(電話やEメール、チャットなどでコンタクトを取る部門)がとった対応など語り継がれています。
「真実の瞬間(MOT)」の概念を最初に提唱したスカンジナビア航空では、顧客接点となる15秒に着目したことで経営を立て直すことができていますし、
GoodpatchさんもPX(People Experience)としてその重要性を発信されています。
意思を持った行動のために必要なことの一つとして「意図の共有」は重要な要素であると思います。会社としてのMVVや、一つ一つの仕事の意図。HowだけでなくWhy。
実体験でいうと以前、電話営業の研修をしたときのこと。作成したトークスクリプトの「意図の共有」と、そもそもなぜ電話営業をしているのかという「意図の共有」を丁寧に行いました。結果的に1年目の社員さんが最も成果を出してくださいました。”能力がない” ことはきっとなくて、知識がないなら共有すれば解決することも多いと思います。そして意図を共有したら目標と現在地をその人なりに埋めることが本人ができれば任せ、難しそうならサポートするようなコミュニケーションをとる。納得感は仕事のフローをまわしてくれる潤滑油のようになると思ってます。
「役割を演じる」というのは特段、新しいことではなく、地元での人と人の関わりの中では自然とされていることのようにも思います。それを少しデジタル上でのコミュニケーションなど別のところに転用するところからブランディングに取り組むことはできるのではないでしょうか。
(人を機械のように「ただただタスクをこなしてくれる労働力」として捉えられてしまうと難しいかもしれません。)
「自己超越目標」という心理学の考えがありますが、自分の範囲を超えた大きなものに対する目的意識は、物事に取り組む意欲や生産性を高めてくれます。
Goodpatchさんの”Why”についての記事の中でも紹介されてるゴールデンサークル理論ではこのように言われています。
目の前の仕事に大きな意義を見出せる社会的ミッションの言語化やビジュアル化によって意思を持った人が増え、ブランド体験を作ることへの第一歩を踏み出せるのではないでしょうか。
CX(Customer Experience:顧客体験)とEX(Employee Experience:従業員体験)は密接に繋がっているはずです。
社会にとって大事な役割を果たしてくれてる人たちにきちんと再投資され、価値が循環する社会であって欲しいです。
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