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普遍的な人間ドラマを描き続けるピクサーの変わらぬ精神を宿した『2分の1の魔法』

延期を経てようやく日本でも8月21日より公開を迎えた、ディズニー・ピクサー最新作の『2分の1の魔法』。公開初日に映画館で鑑賞し、変わらないピクサーのポリシーに感動したので書かせていただきます。ネタバレはしませんのでご安心ください。


ピクサーの制作方針

“Pixar's stories rise out of the life experiences of the people who work on our films and we always want those films to speak deeply to our audience. For us, it is essential that our own team represents the whole of that audience - so we commit to creating a Pixar that includes everyone, makes movies for everyone, and hopefully allows everyone who goes to see a Pixar movie to see a bit of themselves on the screen.”

※Pixar Animation Studios 公式ホームページより https://www.pixar.com/commitment


ピクサーのホームページをのぞくと、上記のようなジム・モリス社長の言葉が書いてある。

“ピクサー映画の物語は、ここで働く人たちの人生の中での体験から生まれる。それゆえ観客の心にも深く訴えかけるものになる。”

有名なところでは『インサイド・ヘッド』が、監督ピート・ドクターの娘が転校して口をきかなくなってしまった出来事から想起されていたり、昨年の『トイ・ストーリー4』は1作目から時が経ち当時の子どもが大人になったことで「親の子離れ」がテーマになっていたりと、まさにピクサーで働く人たちが実人生において直面した様々なドラマから名作が生まれている。なにも壮大な世界や物語が必要なわけではなく、私たちの日々の人生こそが冒険でありドラマである。そんな制作スタイルを貫いてきたからこそ、ピクサー映画は世界で受け入れられる作品となり、毎回高い評価を得てきたのであろう。

そう、私たちがピクサー映画を観ている時、それはピクサー社のアニメーター達の人生の一部を目の当たりにしているのと同じなのだ。そしてそれは誰の人生にも共通する点がある。

自分は『インサイド・ヘッド』を観た時、声が出るほど泣いた。「あの時なんで悲しみを押し殺してしまったんだろう」という経験をリアルに思い出したからである。『トイストーリー』シリーズに関して言うと、自分はまだ子を持つ親になったことがない。けれども、『トイストーリー4』で自らを責任から解放するウッディには深く自分を重ね合わせてこれまた泣いた。

古くから言われていることだが、映画でも小説でも音楽でも、人生の実体験から生まれたものは確実に人の心を動かす。簡単なことのようでいて、会社がここまで大きくなっても真面目にそれを守り続けているというのがピクサーのすごいところではないだろうか。


原題『Onward』にこめた意味は?

たとえば『リメンバー・ミー』の原題は『Coco』であり、映画を観てからタイトルのセンスに唸らされる。今回日本でつけられたタイトル『2分の1の魔法』には、魔法で父親の体の半分しか蘇らせられなかったことや、主人公が魔法使いとして半人前であることなどが察せられるが、制作者がつけたタイトルが本来すべてであると思うので、原題『Onward』について考えてみたい。


副詞→さらに先へ、さらに進めて
形容詞→前方への、前進する、進歩する、その次の、さらに継続した

※ウィズダム英和辞典より

上記のような意味を持つ、Onward。劇中でも、車のアクセルのフル回転をさせる時にこの言葉が使われている。

これについては完全に私の推測だが、ひとつは主人公兄弟の冒険自体を暗示した言葉かと思われる。家を飛び出したイアンとバーリーは、父親を復活させる鍵を求めて先へ先へと旅を進めていく。それまで引っ込み思案だったイアンにとっては、自分への自信を取り戻すための成長のステップにもなる。

そしてもう一つは、父親を失ったライトフット家にとって前に進むことが必要であるという意味にも取れる。母親ローレルはたくましく2人の息子を育て、兄のバーリーは我が道をいくタイプ。そしてイアンは誰よりも父親の影を追い求めている。なのでイアンが特に顕著ではあるが、この3人家族はいずれも父親の存在を埋められずにいるように見える。過去に生きず、未来を見るという家族の立ち直りを意味した上でのOnwardとも取れないだろうか。

そして家族の中で最も救われるべき人物、前を向くべき人物が判明したとき、物語は最高潮の感動を迎えるのである。



こんな方におすすめ

ディズニー・ピクサー作品である時点で、年齢・性別問わず誰にでもおすすめしたい映画であることは間違いない。なので、とにかく全員に観てほしい。家族の大切さ、兄弟の絆、身近にある普段は気づかない大切なものに気づかせてくれる珠玉の作品。個人的には、映画館にお客さんが戻ってくれる理由になったら嬉しい。

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