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文化事業に来るお客さんの数のこと(8/7)

福島県から飛び出して、8月は渋谷ヒカリエでイベントをやっています。やっぱり地方と都市部では、お客さんの数が圧倒的に違います。みなさん楽しんでくれているようでありがたいですね。葛尾村の事業も、この機会にもっと
たくさんの方に知っていただきたいですね。

↓イベント情報はこちら(8月17日までです。ぜひお越しください!)

やっぱり東京は、アートに触れる人の母数が多いです。

2021年の調査では、現代美術作品の売買で394億、美術品関連グッズで240億が購入されたそうです。

このほとんどは都市圏でやりとりされていると考えると、やっぱり東京にはアートマケットがあるんですね。福島と比べるのは難しいですが(そもそもマーケットがないので比べようもないのですが)それでも、すごいなと思います。地域で活動している自分には、あんまり直接の恩恵はないですが……

アートのお客さんってどれくらいいるの?

さて、ヒカリエで会場受付をしながらふと思いました。東京には「アートを見る人」ってどれくらいいるんでしょう?

アート事業のターゲットになる人って実際どれくらいいるのか、そういえば考えたことなかったなぁ……と。(ざっくりと”たくさんいる”という認識でした……)。

受付で業務の合間の時間に、ざっくり計算してみようと思います。

参考にするのは↓の文化庁の「文化に関する世論調査(2019)」です。理由はネットで調べたら検索結果の一番上に出てきたから(笑)

https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/pdf/r1393020_01.pdf

この世論調査によると、回答者のうち53%以上の人が、年に1回以上鑑賞活動を行っています。また全体の1割以上が、月一回以上の展覧会の鑑賞をしています。鑑賞活動には、ライブやアート以外の展示会も含まれますが、アートの展覧会はこのうち4割くらいが鑑賞しています。

計算してみよう

それでは計算してみましょう。

かなりざっくりですが、年に一回以上鑑賞活動をしている人が人口の53%です。アート展示に限るとそのうちの4割。つまり全体のうち21.2%の人が”年に一回以上、アート展示を鑑賞する人”になります。これをアート展示の潜在的なお客さんの割合だと仮定すると、あなたの活動している地域の潜在的なお客さんの数が見えてくる……と考えます。

例えば100人の村なら、21.2%なので、21人が潜在的なお客さん?になわけですね。ただこれは文化庁のアンケートなので、回答者の偏りもあると思います。実際はもっと少ない割合だと思いますが。今回はこのまま進めます。お許しください。

では、上記の前提で、例えば渋谷を例にとると、
人口が21.1万人の21.2%なので=約4.4万人(小数点第一位以下切り捨て)が潜在的なターゲットの数になります。

ついでに、入館者収益についても一緒に計算してしまいましょう。ちょうど東京国立近代美術館でやっている「ガウディとサグラダファミリア展」の入館料が一般2200円なので、それを平均にして考えてみましょう。上記の4.4万人全員が年1回展覧会に行くとすると、4.4万人x 2200円=渋谷区だけで9680万円の入館料が見込めますね。実際は、複数回行く人もいる一方で、無料入館できる場所も多々あるので、数字の通りではないでしょうが。

同様に、東京全体で行くと人口が1400万人(2023年)。そのうち21.2%なので、大体296万人が潜在的なターゲットになります。入館料は65億の見込みになります!すごい!

では、地方ではどうでしょうか。

例えば、私が今活動している福島県葛尾村は人口が1387人(公称)です。ここに文化施設が立つとすると、人口の21.2パーセントなので、294人がターゲットになります。

地方だと美術館の入場料も安い場合が多いです。今回は郡山市美術館でやっている「ひつじのショーン展」を基準に考えてみましょう。こちらの入館料は一般1000円です。

上記と同様に、全員が年1回以上美術館に行くとすると、294人x1000円=294、000円 
……うーん、これはちょっと厳しい。

例えば、渋谷区入館料見込みの大体1/10の、年間入館料1000万円を目標にしてみましょう。すると、1万人の来館が必要になります。1万人の来館のためには、人口が47170人必要になります。うーん、やっぱりちょっと厳しい。

視点を少し広げてみて、お隣の田村市(3.7万人)、富岡町(1489人)、浪江町(1283人)にも見に来てもらいましょうか。あとはもう少し遠くの南相馬市(5.3万人)、三春町(1.7万人)からも少し来ていただくと、大体4.7万人に届くかどうか……という感じですかね。

福島県全域で考えるなら、181万人になるので、潜在的な入館者は38万人になります。上記に合わせて入館料の見込みを計算すると、3億8千万円!

どうでしょうか。すごいかどうか、感覚が麻痺してもうわからないですが、少なくとも僕が3億8千万円を手に入れたら、すぐに仕事をやめます。

わかりやすい価値とわかりやすい数字と

アート事業の価値や成果について考える際に、われわれアートに関わる者は、感性や情緒に訴えるような定性的な価値について重視する傾向にある一方、定量的な価値については(評価に慣れていないこともあり)、及び腰になる場合も多く見受けられます。(中にはそういった評価自体に否定的な者もいます。)

しかし、現実問題として、定量的な成果を上げることで開ける道もあります。特に公的な予算が入っている事業や、委託されて実施する事業では、次に繋げていくためには「心の豊かさ」だけでなく、きちんと成果になる数字を上げていく必要があります。

定性的な価値も定量的な価値も、相反するものではありません。むしろその評価は往々にしてリンクしているものです。ただし、定量的な価値だけは、その地域の人口や来場者数の実績をもとに、おおよその数がやる前から想定することができます。

地域の文化施設や文化事業は、税金を使うことからどうしても「その地域」に還元することを重視し、地域を超えてターゲットを広げることについて否定的にとらえられがちです。

しかし、文化施設や文化事業で地域を超えた来場者を呼び込むことは、地域の文化振興の面だけではなく、収益確保の観点からも、目指すべき方向性の一つなのかもしれません。きちんと両方を視野に入れて活動をしていきたいものです。

最後に

計算の副産物として、地方でもアート鑑賞をする人はそれなりの数がいることがわかりました。

ちなみに、文化庁の調査でも、地方での文化体験についてアンケートがとられています。例えば、「伝統的な祭りや歴史的な建物などの存在が、その地域の人々にとって地域への愛着や誇りとなる」という考えに 74.9%が支持しています。

一方で、地域の文化的な環境への満足度は 33.5%しかありません。少子高齢化による税収の減少で、地方が文化への予算支出を削減する中、多くの人々が地方の文化的環境に不満を抱えている様子が見られます。

地方には文化的環境がまだまだ足りていないというニーズがあるので、地方でのアート活動には可能性があると思うのですが、いかがでしょうか?収益性の問題が解決できれば、もしかしたら競合者の少ないブルーオーシャンになるかも知れません。




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