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STRANGE STORIES

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奇妙だったり 不思議だったりする物語のコレクションです
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#小説

ショートショート 拷問

人生で初めての坊主頭を慣れないと思い、地肌を触って待っていると、 目の前に立った男から名前を確認され 書類を出すように言われた。急いで召喚状や必要な身分証明書をカウンター越しに提示する。 大人しく出すと、疑わしそうな目で見られる。 しばらく待たされた後、しぶしぶ頷いた男についてくるよう言われたので、後を歩いていく。 男は狭い階段を上がっていく。この建物で仕事をしている人間がちらちらとこちらに物言いたげな視線を送ってくる。心細くなってわたしは仲間はいないだろうかと探す。わたしの

ショートショート「人事」

「何に喜びを感じますか?」 「今まで嬉しかったことは何ですか?」 「やりがいを感じることは何ですか?」 きっちりしたスーツで来た入試の偏差値が高い大学の学生の履歴書を見る。履歴書のアピールはすごいが、 「全然だめだな」 「どうしてですか」 「個性を観るために私服で来るように言ったのに、それがわかっていない」 カジュアルでいいと言われて 僕が私服で受けた会社はすべて落ちたのに。まったく就職活動というのは腹の探り合いだ。 「やりがいを感じることは何ですか?」 「特にありません

短編「四階」

ホラーです。 昔からよく見る夢がある。 エレベーターに乗っていると、四階の扉を開いてはいけないと感じる。 夢なので、ゾンビのようなものがいることに気付いている。 ビルは十七階建てだったり、七階建てだったりとその都度違う。 けれど、エレベーターは同じだ。 大きさも匂いも壁の色味も同じ。 そして、決まって下りのエレベーターだ。 エレベーターに乗る前に四階は危険だと気付くことがある。 そういう時には、一階までノンストップのエレベーターに乗る。 エレベーターに乗ってから危険だと気付

ショートショート「気持ちはわかる」

都会の人って優しくないよねー 都会って人が多くてほんといや と事あるごとに言っていたら、出入り禁止にされてしまった。 「本自治体の市民に対する名誉棄損で、(中略)貴殿の入境を禁じます。」 こうした際の定型文の末尾に、東京都、大阪府、京都市、名古屋市、福岡市の署名があった。 どうしよう。 これじゃ仕事にも行けない ライブもいけない ああどうしよう 友達だと思っていた人に連絡すると 「はっ あたりまえだよ。前から思ってたんだよね。あんた嫌いって言うなら都会にくんなよ。あんたが都会

「ゴールデンカムイではなく ゴールデン亀井 後編」

「箱根に行くんなら、家永さんと一緒に行ってやってくれ」 家永さんというのは旅館のお客さんで、口元にあるほくろが 妖艶なお姉さんという感じを醸している。白石は早くも くっつかんばかりになって話を聞いている。 「家永さんは箱根に何しに行くんですか?」 「手術 首をちょっと」 「あ そうなんですか 良くなるといいですね」 「? ええ ありがとう」 「白石 あのお姉さんと何話してたんだ?」 「ああ 病気で手術を受けるらしい。」 「そうか 顔色悪そうだもんな」 その家永さんが車で箱根

「ゴールデンカムイではなく ゴールデン亀井 前編」

気が向いたら「ゴールデンカムイ」や登場人物に似た言葉を探してみてください。 気にせず読んで楽しんでくれてもかまいません。 停電した。 せっかく作っていたオレの朝ごはん  卵焼きが中途半端になって パンが中途半端になって コーヒーを飲むためのお湯がぬるくて オレの朝ご 「オール電化 無理」 はあ ガスがあれば  オレは反対したのに 親が勝手に  その親は朝6時には出て行って いまごろ電車に閉じ込められているかもしれない 端末を観ると、停電の情報は流れていない。 5分経っても誰

「逆転体質」

「なんか重そうだね」 詩貴の目線を追うと、やっぱり 大人が入りそうなほどに巨大なトランク二つを脇に置いて プラットフォームに続く階段を見上げている外国人の男性だ 少しパーマ イタリア風 たぶん南の方 わたしはさっきから気付いていたので、詩貴の目に触れないように身体の向きをコントロールしたのだが、詩貴は混雑の中で首を振って見つけてしまった 「なにが?」 と言いつつわたしはなおもそこから離れていこうとするが、 「ほら あの人」 と詩貴に腕を掴まれてしまった。 詩貴は困った人を観る

ショートショート「草々のフリー恋」

拝啓  お久しぶりです。出す当てもないのですが、あなたは読んでくれるだろうと思って、この手紙を書きます。    周囲の人が派遣社員や契約社員にぞんざいな態度を取っている中、あなたは会って早々フリーランスの僕に笑顔で接してくれて、下に観ようともせず、対等にしてくれましたね。最初はそのことが新鮮で それからあなたに興味を持ったんだと思います。  それからお昼を一緒に食べるようになって、仕事以外の話もするようになったんでしたね。他に誘う人がいなかったのか 僕を誘いたかったのか 今

ショートショート「ぐずりやのひとりごと」

あーやだー やだやだ 私は自分の顔も声も性格も嫌だし、貧乏なところも嫌いだ 受け入れたくない。中卒だけど、高卒だと偽って仕事をしている自分が嫌だ。簡単な掛け算もできないことを必死に隠して あれえ間違えちゃったとか へらへら笑っている自分にもうんざりする。 前の日に「あなたはそのままでいいのよ。そのままの自分を受け容れなさい。自分がまず自分を愛さないと誰もあなたを愛してくれない」と正論のような言葉を聞かされて以来、悶々としている。 そのままでいいって、進歩がないってこと? 何

ショートショート 「誕生日」

その日の最初に「誕生日おめでとう」を言ってほしくて 結局 夜の2時過ぎまで彼と話していたので、端末の命が残り少ない。 朝は眠いし 母は夜勤で起こしてくれないから学校に遅刻しそうだったし それで充電器を持ってくることを思いつかなかった。 なんかまだ頭がぼんやりする。 学校が終わってから充電器を取りに戻る時間もない。どうしよう。 「充電器持ってない?」 ほとんど目をつむりながら美和に訊いてみる。 美和は あっさり首を横に振りながらも 「ない。代わりにこれ。」 なにかを手に押し付け

ショートショート「幸運が降ってくる」

誕生日である2月6日を連ねた02060206の数字を毎週買うことにしてきた。 始めたのは大学生の頃だった。 大学で知り合った友人が自分の誕生日を選んだら、その週で唯一の当選者となり、2億円が当たったと言うのがきっかけだった。 本当かどうかは知らないが、彼女はその後すぐに大学をやめた。 それ以来わたしも必ず誕生日と同じ番号を選び、金曜日の2時6分に有楽町の決まった売り場で日の昇る東側のブースで、東側となる左手で支払いと、ゲンを担いだ。 毎週の結果発表がある日曜日の午後  まだ当

滝汗 流 の物語 第一部

久しぶりに男性を主要キャラにしてみようということと、今書いている長編の段落内構成をもっとうまく書きたいので、その練習をしようと思って、習作として書きました。 第一部  芭蕉の葉に似た色のワンピースを着た女性が私の前へ笑顔で現れた。が、差し出した手を私が握ると不快な顔になり 手を引っ込めた。眉間に皺が刻まれたまま お掛け下さいと言われた。 採用面接は失敗だった。 当然だ。採用というものは能力や経歴だけで決まらない。面接における印象 つまり採用担当者の感情に左右される。 相手

滝汗 流 の物語 第二部

第二部 ミスターシェイクハンドの日常 海に運ぶのは手間だ 途中で観られるかもしれない その点私の掌という沼に沈めてしまえばそんな問題は起こらない 忽然と部屋から消えて 行方不明ってことになる 大学を出てからこのアルバイトは私の本業になった 彼女と別れて以来誰かと親しく付き合うということもなく 私の心は固く閉ざされていった 私生活で誰かと言葉を交わすこともないが、それなりに日常はある。室温を十四度に設定して 汗が出ないようにした部屋で映画を観たり 本を読んだり 近くの浜辺を

滝汗 流の物語 第三部  完

      第三部 ミスターシェイクハンド再び 冬のある日 私と仲介屋は依頼を受けて大手町の高層ビルに向かった。 二十畳くらいの会議室に通された。 汗がじんわりと出てくるのを感じる 室温はたぶん二十度くらいだろう 男が話し出す 「私は依頼人の代理人です。本日 お二人に来ていただいたのには訳があります。それはこれまでのお仕事とは性質が異なるからです。作業自体は変わりませんが、人助けなのです」 私が身振りで続けるように示すと、 「あなたが溶かした人間は実は生きているんです」 妙