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SaaSスタートアップが爆発的に成長するかどうかを測る方法

スタートアップが成功するかどうかは、提供するプロダクトを必要とする顧客がいて、さらにそうした顧客が多いかどうかです。つまり、プロダクトを必要とするマーケット(市場)があって、そのマーケット規模が大きいかということによって決まります。

もしそうであれば、プロダクトとマーケットがフィットしているということになり、こうしたプロダクトを提供するビジネスは飛ぶ鳥を落とす勢いで成長していくことになります。逆に、プロダクトとマーケットがフィットしていなければ、どんなに営業やマーケティングを頑張ってもビジネスはなかなか成長しないどころか、最後はクローズすることになってしまうでしょう。

そこで、スタートアップに関わっている人は特に立ち上げ当初に「プロダクト・マーケット・フィット」をものすごく気にします。

ところで、この「プロダクト・マーケット・フィット」というコンセプトを知っていても、自分たちのプロダクトが「プロダクト・マーケット・フィット」しているかどうか、またはしそうかどうかというのはよくわからなかったりします。

そこで、今回はSlackなどへの投資で知られているTribe Capitalが「プロダクト・マーケット・フィット」を定量的に定義し計測する方法についてのブログポストを出していたので、一部を要約して紹介したいと思います。

  • A Quantitative Approach to Product Market Fit - Tribe Capital - リンク


「プロダクト・マーケット・フィット」というコンセプトは、Marc Andreessen(訳者注:シリコンバレーでトップ5に入るベンチャー・キャピタルのAndreessen Horowitzの創業者)が作ったもので、 広く知られていますが、具体的な定義は決まっていません。

そのため、スタートアップの企業にとって、プロダクト・マーケット・フィットの兆しを認識することは非常に困難ですが、弊社では、プロダクト・マーケット・フィットを客観的に測定するためのフレームワークを開発しました。

我々はこのフレームワークをFacebook、Slack、Front、Carta、などのスタートアップを含めた様々な企業で利用し、改良してきました。これらの分析ツールは投資判断に役立つだけでなく、プロダクト・マーケット・フィットの達成を目指す経営者にとっても、貴重な視点を与えてくれるものです。

こちらの記事ではプロダクト・マーケット・フィットを理解するために利用している分析方法を紹介します。

モニターする指標とその追い方

プロダクト・マーケット・フィット の定量的な測定方法の1つに「コホート分析」という手法があります。「コホート分析」では顧客を「サービスの利用開始時期」でグループに分けて、サービスの継続期間ごとに、様々な指標をモニターします。

私たちがコホート分析をするときには、次の3つ指標に注目します。

  • 累積収益: 顧客がサービスの利用を開始してから一定期間 (例えば 12 か月)後の顧客の累積の収益

  • 収益のリテンション率: 顧客がサービスの利用を開始してから一定期間後に継続して支払われている収益の割合

  • 顧客(ロゴ)のリテンション率顧客がサービスの利用を開始してから一定期間後に、サービスを継続している割合

上記の指標の可視化にあたってはラインチャートとヒートマップを使う方法があり、ラインチャートを使う場合、さらに2つの可視化の方法があります。

  • ラインチャート

    • 「利用開始時期」で顧客をグループに分けて、サービスの継続期間ごとに指標の推移を可視化する

    • 「サービスの継続期間」でグループに分けて、指標の「トレンド」を可視化する

  • ヒートマップ

    • 「利用開始時期」と「サービスの継続期間」の両方を同時にグループに分けて指標の「推移」と「トレンド」を可視化する

ここからは上記の3つの可視化の方法を具体的に紹介します。

1. 「利用開始時期」で顧客をグループに分ける

累積収益

まずは、顧客の累積収益をサービスの継続期間ごとに可視化したチャートを見てみます。

このチャートでは、顧客がサービスの利用を開始した月ごとにグループ(色)が分かれています。X軸は、顧客がサービスの利用を開始してからの経過月数を表していて、Y 軸は、累積収益を表しています。なお点線は、各グループの顧客数で重み付けされた、累積収益の加重平均です。

このチャートの最も重要なポイントは、線の形状です。線が上向きにカーブしている場合、それは顧客がサービスを継続するにつれて、そのグループから得られる収益が増えていることを示しています。もちろん、一部の顧客はサービスを解約しますが、サービスを継続している他の顧客が、(サービスの解約により)失われる収益以上に(アップグレードなどにより)多くの費用を支払っている、ということです。

一方で 線が「直線」であれば、サービスの利用を開始したときと、最初の期間と同じだけの費用を払い続けていることを表していて、それ以外の(累積収益の線が直線より下にくる)場合、顧客から得られる収益はサービスの解約やダウングレードによって、サービスを利用し始めたときよりも減っています。

顧客のリテンション率

次のチャートは、各グループの顧客(ロゴ)のリテンション・カーブ(訳者注:サービスの継続期間ごとのリテンション率を可視化した曲線)です。

このチャートの重要なポイントは、顧客のリテンション率が長期に渡って0%にならないような緩やかな曲線になっているかどうかです。上記のチャートでは、まだそのような良い傾向は見えていません。

収益のリテンション率

次のチャートは、各グループの収益のリテンション率です。

顧客から得られる収益は、(前述したプランのアップグレードなどにより)サービスの利用開始月の収益を超えることがあるため、収益のリテンション率は100% を超えることがあります。

例えば、上記のチャートにおいて、サービスの利用を開始してから6 か月後の平均的な収益のリテンション率は約120%です。収益のリテンション率が100% を超えているということは、前述の各グループの累積の収益の曲線が上向きにカーブしているということです。

このチャートでは、各グループの累積収益の曲線の傾きを可視化しているわけです。

2. 「継続期間」でグループに分ける

2つめは可視化の方法では、 「サービスの継続期間」でグループ(色)を分けて、時系列のトレンドに注目します。

このチャートでは、先程のチャートと、 X軸と凡例(色)が逆転しています。X軸は、日付の情報を表していて、1つ1つの線は、各継続期間(例:サービスの利用を開始してから1カ月後)における累積収益を表しています。なお、上記のチャートの灰色のバーはその月の新規顧客の数を表しています。

例えば、2017年7月から2018年7月にかけて、サービスを開始してから3ヶ月めの顧客(オレンジ色の顧客)の累積収益は1200ドルから1800ドルに増加していますが、2018年7月以降は減少しています。

新規顧客は増加してますが、累積収益が減少しているわけです。こういった状況から、多くの新規顧客を獲得しても、その顧客からの累積収益が大幅に減少しているので、あまりいいビジネスの状態ではないことが分かります。

3. 「利用開始時期」と「継続期間」の両方でグループに分ける

3つ目の可視化の方法では、リテンション・カーブを使わない代わりに、ヒートマップを使って「利用開始時期」と「サービスの継続期間」の両方でグループに分けて、各指標を可視化します。

ヒートマップでは、日付の情報を垂直方向で表して、各グループの継続期間を水平方向に表します。

以下は累積収益を可視化したヒートマップです。

また、以下のヒートマップは、顧客 (ロゴ) のリテンション率を可視化しています。

最後のヒートマップは、収益のリテンション率を可視化したヒートマップです。

各行を左から右の順で確認すると、どういったタイミングで各指標が大きく上昇したのか、あるいは下落したのかを理解できます。

また各列を上から下の順で確認すると、最近の顧客の収益のリテンション率が悪化していることや、新規の顧客数が減少していることが分かります。


以上、要約終わり。

あとがき

記事で紹介されていたチャートは、いずれもサブスクリプション型のビジネスの将来性を測るために有効な方法ですが、いざ、これらのチャートをモニターしようとするときに、ぶつかる問題が1つがあります。

それは、どのチャートを作るにしても支払い履歴などのデータを加工することが必要ということです。また、作成したチャートは一回作って終わりではなく、継続してモニターする必要があるため、データ加工の処理を手間をかけることなく、再現することも重要です。

例えば、記事内で紹介されていたコホート分析は、データの加工、可視化、分析、レポーティングのためのUIツールのEpxploratoryを使うと、簡単に実行できるだけでなく、その更新を自動化できます。

そちらの詳細や、詳しい作り方に興味がある方は、以下のリンクで詳細を紹介していますので、ご参考ください。

サブスク・データ分析トレーニング

今年の12月にサブスクリプション型ビジネスに特化したデータ分析のトレーニングを開催いたします。

こちらのトレーニングは、今回の記事でも触れられていたコホート分析のやり方だけでなく、SaaSを含むサブスクリプション型のビジネスの改善に必須である、ビジネス指標(KPI)の定義、コンバージョンやチャーン(解約)の要因分析、さらにそれらの先行指標となるエンゲージメントの計算方法や分析手法を効率的に学んでいただくための2日間のトレーニングとなっております。

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