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獺祭が生まれる米

「最高の酒を造りたい」

その思いから旭酒造がたどり着いた酒米が山田錦でした。

今や世界中の人に愛される「獺祭」の美味しさは、この山田錦に支えられています。

「獺祭」を生みだす山田錦に対する私たちの情熱を、ほんの少し語らせてください。

旭酒造はなぜ「山田錦」しか使わないのか

獺祭という酒を一言で説明するならば、「山田錦だけで造る純米大吟醸酒」。山田錦は、最高品質の酒米として知られ、別名「酒米の帝王」と呼ばれるほど。食用米とは異なる大きな粒が特徴です。ただ、その特徴である粒の大きさから、稲穂が重さに耐えられないため倒れやすく、栽培が非常に難しいとされています。旭酒造では、これまで、さまざまな酒米を使ってきましたが、その優秀性から山田錦しか使わない酒造りにたどり着いたのです。

山田錦 稲穂1

安定した供給をめざし米作りから関わる

「山田錦を使うのだから、少ない生産量で獺祭を高く売ったらいいじゃないか」、きっとそう思われる方もいらっしゃることでしょう。しかし、私たちの想いは高く売ることではありません。「美味しい酒を、飲みたいと思ってくださる方のもとに届けたい」。私たちはそんな想いで獺祭を世に送り出しているのです。ただし、生産し続けるためには、山田錦を安定的に確保しなければなりません。山田錦がどれだけ手に入るかで、生産量は決まってしまいます。そこで私たちは、「山田錦を栽培してくれれば、適切な価格で安定的に買わせてもらいます」と米作り農家のみなさんにお約束しました。酒蔵と地域を結ぶ「村米契約」です。

農家01

富士通の技術で育成状況を管理

2015年、山田錦の栽培拡大運動の一環として、旭酒造は富士通株式会社と手を組み、農業クラウドシステム「Akisai」の導入による山田錦の栽培情報のデータ化に取り組んでいます。田んぼの脇にセンサーを設置し、温度や湿度、日照時間、土中の湿度などのデータを収集。

この農業クラウドシステムの狙いは2つあります。1つ目は、品質の高い山田錦の生産に役立てること。2つ目は、山田錦をつくったことのない農家に技術を提供するためです。つまり、全体的に山田錦の生産量を増やそうという試みです。

しかも、「質の高い」山田錦を、です。

山田錦栽培農家を支援します

酒税法上で言えば等級米で造ったものしか純米酒とか大吟醸とか、いわゆる売るためには重宝なお墨付きを表示基準上認められません。そのため、各酒蔵(弊社も含めて)は等級米しか購入しませんでした。「うちで使っているのはどこそこ産の特等米だけです」なんて話をお聞きになった方も多いのでは。しかしその結果として、そのしわ寄せが農家に行き、農家は等級検査に通らなかった米はくず米として処分するしかありませんでした。農家さんにとって大きな負担になっていたのです。そんなことから、旭酒造では、等外米を購入させていただいて、ズバリ名称も「獺祭等外」として純米大吟醸表示なんか気にせず普通酒として出しています。(もちろん、造りは純米大吟醸造りです)

農家08

山田錦を使い続けることに対し抵抗もありました

ある時期、「獺祭が山田錦を買い占めて他の酒蔵を困らせている」と、いわれなき非難をされることもありました。また、「なぜ、県が新開発した山田錦以外の酒米を使わない」とお叱りもいただきました。しかし私たちにとって山田錦以外の酒造りは、お客様の顔を思い浮かべたとき考えられませんでした。私たちは何より、お客様の「あぁ、美味しい!!」の一言を大事にするからです。

山田錦を使った酒が全て美味しいわけではない

山田錦は「酒米の帝王」と呼ばれる最高品質の酒米です。ただし、山田錦を使いさえすれば最高の味に到達するわけではありません。獺祭の特徴は、米の磨きによって生み出されます。たとえば獺祭の平均精米歩合は驚きの35%です。このとんでもない米の磨きで製造される酒は美味しくて当たり前。ですが、私たちは数字に満足するのではなく、酒の美味しさが日本最高であることを求めます。華やかな上立ち香と芳醇な味、濃密な含み香、全体を引き締める程よい酸、これらが一体となったバランスの良さ。そして、それが喉をすべりおりた後の爽やかな後口と切れ、そこから続く長い余韻・・・。私たちはこの美味しさを常に提供するため、伝統的な酒造技術者からは「そこまでするのか」と驚かれるほどのデータを製造過程から取り、0.1%の水分量、0.1度の温度の違いにこだわる徹底的な工程管理を行い、さらに、その先の品質を目指して新しい手法を導入することも厭わず、挑戦し続けています。「山田錦を使っているのだから」、それだけでは獺祭はできません。獺祭にとって、この挑戦こそ獺祭を獺祭足らしめているものなのです。

世界の獺祭となることで山田錦の需要を増やす

長く続いた減反政策の結果、米は作りたくても作れない状況になっています。私たちができることは、獺祭を世界中の方に味わっていただくこと。世界で獺祭の魅力が理解されれば、さらに多くの日本酒が求められ、より多くの山田錦(酒米)の栽培が必要となります。世界に誇る日本の酒である日本酒の原料を増していくために山田錦をもっと生産していくことを考えました。私たちがそんな状況を作ることで、米栽培の制度が変わり、もっと多くの農家さんが希望をもって米作りに携われるようになる・・・。山田錦しか使わない獺祭が、やがては日本の農業の再興につながると思っています。

藤田村②

山田錦のぬか、酒粕も生まれ変わって輝きます

山田錦の生産量は、生産拡大運動の結果、ここ5~6年で60万俵を超えるまで増えました。そのうちの12万6千俵が獺祭に使用されています。そして獺祭を造るとき、米を磨いた後には大量の米ぬかが、そして酒を搾った後には大量の酒粕が生まれます。私たちは優れた資源としてこれらを再利用しています。例えば、米ぬかはバームクーヘン、そして酒粕はアイスクリームなどの菓子類や食品、他にも石けんや美容品などに姿を変えています。これらの収益としての意味は酒蔵にとって少ないのですが、せっかくいただいた米の命です、できるだけ生かしたい。その考えのもと、さまざまな製品を開発しています。米ぬかの人体に対する機能性や大吟醸のフルーティな香りは、こういった製品に適し、新たな商品の可能性を開きつつあります。

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