2023年6月の記事一覧
短編小説『ソルシコスの夜』
仕事を終え、いつものように神保町で降り喫茶店Mに入る。ここはいつも適度に人が居て、適度に話し声が聞こえ、適度に暗い。焼酎をコーヒーで割った酒を飲みながら煙草に火を点け、本を開き、一番新しいセックスのことを思い出していた。文字の一つ一つが過去を刺激するように出来ていて、言いかけてはやめたいくつもの言葉が、浮かんでは弾けて消えていくのが見えた。もしかしたら有効かも知れなかった言葉も、その時の私は言いか
もっとみる短編小説『黒い双生児』
アメリカ中西部に位置する某州へ、高校生の頃からの友人であるユリと一ヶ月間ホームステイをする事になった。ユリは私以外に友達は居ないと言っていたが、ホームステイ先のアメリカ人夫婦とは知り合いなのだそうだ。インターネットで知り合ったのかと尋ねたところ「違う」と返答するだけだった。尋常の会話であれば続けて追及するのだろうが、そういう気にならなかった。私がそういう性格なのか、ユリが物事を詳細に説明したがらな
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