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短編小説
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2023年6月の記事一覧

短編小説『ソルシコスの夜』

短編小説『ソルシコスの夜』

仕事を終え、いつものように神保町で降り喫茶店Mに入る。ここはいつも適度に人が居て、適度に話し声が聞こえ、適度に暗い。焼酎をコーヒーで割った酒を飲みながら煙草に火を点け、本を開き、一番新しいセックスのことを思い出していた。文字の一つ一つが過去を刺激するように出来ていて、言いかけてはやめたいくつもの言葉が、浮かんでは弾けて消えていくのが見えた。もしかしたら有効かも知れなかった言葉も、その時の私は言いか

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短編小説『エル』

短編小説『エル』

確かその時スプーンを落としたんだったと思う。夏に父方の祖父母の家に行くと、決まって青い容器に入ったあまり甘くないバニラ味のアイスクリームが出て来た。偏食だったからなのか飽きたからなのかは定かで無いが、好んで食べた記憶が無い。
私の対面にはいつも祖父が座っていた。祖父の後ろに大きな窓があり、逆光のせいで記憶の中の彼の顔はいつも翳っている。祖父は若い時分、仕立て屋だったそうだが、きちんと働いていたよう

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短編小説『魂の蔓』

短編小説『魂の蔓』

彼女を駄目にしてしまったのは自分だ。
いつもの様に、幻覚剤の齎す多幸感に浸っていると、突然キッチンから叫び声が聞こえて来た。気持ちは急いても体が動かず、緩慢な歩みでキッチンに向かう。彼女──Mが包丁で自分の左腕を切り落とそうとしていた。私は慌てて彼女の右腕を引き離し、反動で二人とも後ろに大きく倒れた。包丁は床に転がり落ち、泣き叫び暴れるMを必死で押さえつけた。間も無くMは気を失った。床には血溜まり

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短編小説『黒い双生児』

短編小説『黒い双生児』

アメリカ中西部に位置する某州へ、高校生の頃からの友人であるユリと一ヶ月間ホームステイをする事になった。ユリは私以外に友達は居ないと言っていたが、ホームステイ先のアメリカ人夫婦とは知り合いなのだそうだ。インターネットで知り合ったのかと尋ねたところ「違う」と返答するだけだった。尋常の会話であれば続けて追及するのだろうが、そういう気にならなかった。私がそういう性格なのか、ユリが物事を詳細に説明したがらな

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