短編小説【タイトル:山荷葉(サンカヨウ)】
私は夢を見ている。
山荷葉(サンカヨウ)の花畑の真ん中に座っている。
こんなに咲いてることはありえないと思いながら
私は膝を抱えていた。
雨が止んだあとで山荷葉が透明になっている。
私は山荷葉に心を奪われずっとみていた。
なんでこんなに透明でキレイなんだろう。
私もこんなに心が透明だったらよかったのに。
そう思いながら目線を上に向けると
あなたが立ち去ろうとしていた。
私は手をのばしなら
「待って!!!」
と言いながら目を覚ました。
朝日がカーテンの隙間からゆらゆらと漏れる。
私は寝ぼけまなこになりながら手を伸ばしていた。
あの夢のせいで涙があふれだしていた。
リビングに行ってコーヒーを入れて
その匂いに目を覚まして私は椅子に座る。
でもどこか寂しさを感じる。
誰もいないリビングで膝を抱えながら涙をふいた。
なんで私はあなたにあんな酷いことを言ってしまったんだろう。
「私の前から早く消えてよ。あなたの顔なんて見たくない」
私はあなたと喧嘩してしまった。
それがあなたと交わした最後の会話。
そのあと、あなたは・・・。
私は後悔をした。
あの時、私が先に謝っていたらあなたはここにいたかもしれない。
私の心が透明だったら・・・。
そんなことをいつも考えてしまう。
リビングで膝を抱えながら座っていると
あなたの面影を思い出してしまう。
いつも起きてリビングに行くとあなたは挨拶をして私を抱きしめてくれた。
そのぬくもりが幸せだった。
あなたの匂いが好きだった。
今はどこを探してもあなたがいない。
でも起きる度に、リビングに行くたびに
あなたの声が聞こえる気がした。
「まだあなたの記憶が心にあるよ」
そう思いながら一日を過ごす。
後悔と幸せがせめぎ合いながら
毎日がすぎていく。
あんなに優しい声で挨拶してくれる人なんてこの世にいなかった。
幸せだった。愛していた。
私の片隅にその声は生きている。
今日も誰もいない部屋で挨拶をする。
「いってきます」
私は元気よく家を後にした。
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