Polina Zubrofski

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ブラン氏の肖像 第五章「夢」

「マリアンヌ・ブラン」その名前を聞いたとたん私は開いた口がふさがらない状態となってしまった。何故なら今まで回ってきたお墓で私が見た墓石の中に「BLANC」という綴りは一つもなかったし、ブランという名前を聞いただけで反射的にブラン氏を思い出してしまうからだ。 私は言葉につまりながらこう答えた。 「マリー、初めまして。私はゆりで日本人よ。」 マリーは笑顔で握手してくれた。 半ば打ち解けた私たちはしばらくそこでお互いの事について話した。 少しすると、犬のルルーがどこかへ向

    • ブラン氏の肖像 第四章「再会」

      モンマルトルの丘から見晴らせるパリ全体の景色に感嘆とし、私は感動のあまり涙が出そうになるのをこらえながら、サクレ・クール寺院へと向かった。サクレ・クールとは「聖なる心臓」を意味する。かつての殉教者たちのためにこの丘に建てられたと言われている。 私はその聖堂に入った瞬間、なんとも言えない神秘的な空気に包まれていることを感じた。 天井には大きな教会画が描かれイエス・キリストが大きな手を広げて私たち訪問者を包みこんでくれているかのようであった。マリア様の像の前では人々が蝋燭を次

      • ブラン氏の肖像 第三章「旅立ち」

        「この杖…」さっきまで使っていたはずなのに、どうして置いていってしまったのだろう。 私は不思議で仕方なかった。その杖を街頭の元で詳しく調べてみた。 「BLANC」という文字が微かに見えている。 「B、L、A、N、C…ブランク?ん?いや違う。フランス語で白という意味のブランだ!!」 私は唖然とした。さっきの男性は、やはり…私のイリュージョンが生み出した幻想か?それともただの偶然か?ブランさんなんてこの世にいっぱいいるのか? いや、、、、待て落ち着け自分。彼はこの謎を私

        • ブラン氏の肖像 第二章「決心」

          「あなたはフランス人なのですか?」そう尋ねてみる。 すると彼はこう答えた。「そうだ。私はフランス人さ。そしてずっと日本にいる。60年間ね。」 私はびっくりしてこう答えた。「60年間も?どうしてこの日本に?」 男性は帽子を少しずらしながらうつむき加減でこう答えた。 「そうさ。戦後まもなくしてこの地にやってきたんだ。色々な偶然が重なってね。」 私はいまだにその事実が信じられなかった。本気で言ってるの?そう思わされた。 しかし気になることが一つある。この人が戦後10年経

        ブラン氏の肖像 第五章「夢」

          ブラン氏の肖像 第一章「出会い」

          ある時、私は、上野恩賜公園にある国立西洋美術館の二階を訪れた。 そこにある絵画たちはどれもノスタルジックでエキゾチックな印象派の絵画たちであった…。 モネ、ルノワール、コロー、クールベ、ドーミエ、そしてエドワール・マネである。 この絵を目にした時、私は心になんとも言えないノスタルジアを感じた。 もし前世があるならばそこで出会ったことのある人間を前にしているかのように… そしてあるいはこの絵がまるで本物のように生きていて今私と直接対話しているかのように… 不思議な感

          ブラン氏の肖像 第一章「出会い」