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ブラン氏の肖像 第三章「旅立ち」

「この杖…」さっきまで使っていたはずなのに、どうして置いていってしまったのだろう。

私は不思議で仕方なかった。その杖を街頭の元で詳しく調べてみた。

「BLANC」という文字が微かに見えている。

「B、L、A、N、C…ブランク?ん?いや違う。フランス語で白という意味のブランだ!!」

私は唖然とした。さっきの男性は、やはり…私のイリュージョンが生み出した幻想か?それともただの偶然か?ブランさんなんてこの世にいっぱいいるのか?

いや、、、、待て落ち着け自分。彼はこの謎を私に託したのだ。

最後に、自分は何者なのかを証明するために。

私は最後の最終結論の自分の中では極解のある答えを導き出していた…

「まさか、彼は、あの絵の中から出てきたのではないか…?」

今、思えばそんな考え方をした自分が馬鹿らしく微笑ましく思える事である。絵の中から人間が出てくることなんてあるはずがないのだから。

だけどあの後、私は真実を確かめたくてフランスに渡った。

それはブラン氏との遭遇の4か月後の3月のことであった。

最安値のチケットを入手し、4日間のパリ旅行ということでフランスに渡ったのであった。

私はブラン氏のお墓を探すことにした。パリには三つの巨大な集合墓地が存在する。モンパルナス墓地、ペール・ラシェーズ墓地、モンマルトル墓地である。

まず、私はかの哲学者、ジャン・ポール・サルトルとそのパートナーである詩人のボーヴォワールの眠る墓地、「モンパルナス墓地」へと足を運んだ。

そこは緑が生い茂り、西洋独特の棺桶や家のような形の棺がたくさん集合している場所であった。日本ではあまり見かけない。

さっそく地図で調べて、サルトルのお墓へと向かった。その間私は無意識にそしてとても意図的に、「BLANC」の文字を探していた。

しかしどこにもそれは見当たらなかった。

サルトルのお墓にたどり着くと私はその前で深く頭を下げて祈った。

「サルトルさん、あなたのように勇敢で果敢な人間となれますように。ゆっくりと天国でお過ごしください。あなたの素晴らしいパートナーと共に。」

そう言って墓地を離れた。

その日、私はなんだかぐったり疲れてしまって夕方にペール・ラシェーズを回ろうとしたのだが、門が閉まっていて回れなかった。

私はゆっくりと自分のホテルのあるガリエニ駅へと足を急いだ。

翌日、私は自分の滞在している場所から2駅ほどのペール・ラシェーズ駅からすぐの墓地へと足を運んだ。

そこは、うっすらとした森のような場所で散歩をしている人たちで賑わっていた。

すぐ入ったところに、かの詩人で劇作家であるオスカー・ワイルドのお墓が目に入った。彼の墓石には多くのキスマークがつけられこれは何等かのジンクスであるとたしかガイドブックに書いてあった。

オスカーのお墓を後にし、私は、また意識的にそして無意識でも「BLANC」の文字を探していた。

だがしかしそれは見つからなかった。「BLANC」という氏名の人間はこんなにも少ないのか。私はなんだか泣きそうな気持ちになった。

疲れ果てて、今日もその旅路を終えようと思った矢先、ふとモンマルトルの丘にあるサクレ・クール寺院が目に入った。

「そうだ。あそこに行ってみよう。また神頼みだ。仕方ない。」

そう思い、メトロに乗って、20分程の場所にある「Abbesses」駅へと向かった。

そこからケーブルカーでモンマルトルの丘を登った。

その見晴らしは最高としか表現できない。この景色を見るために私はここの世界に生まれてきたかのように思えた。

次に続く