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聖☆おにいさんに恋をしたら、大切なものを取り戻せた

本が読めないってどういうことか?
うつ病になってみて、ようやくその意味がわかりました。

これは、伊坂幸太郎が読めなくなって、イエスとブッダに恋をして、陽気なギャングに再入隊した話です。

伊坂幸太郎とギクシャク

あれ?そういえば伊坂幸太郎、読んでないな。そう気がついた時には、すでに冬でした。

2015年秋に伊坂幸太郎さんの新刊『陽気なギャングは三つ数えろ』を買ったのに、12月になっても読んでない。これは、私にとって異常事態だった。

子どもの頃から本を買ったら、即読む。読み合わるまで、他のことは一切いたしませんの寝食滅却の読書スタイル。

それが、読んでいないだと?
あんなに楽しみに買ったのに?

うつ病になると本が読めなくなる。
うつ病になると今まで好きだったことができなくなる。
まさかの、それだった。

本が読めないの意味

うつ病になると、脳の機能不全のため、情報処理能力が限りなくゼロになる(と私は思っている)。

だから、なんてことない普通のことができなくなる。

たとえばテレビを見る。
目も耳も使って、言語や映像の処理までするとなると、キャパオーバーでぐったりだ。

歩くことも、化粧をすることも、お風呂に入ることも。
とにかく情報処理と判断、行動が常に必要で、ひとつやるだけでも頭も体もフル稼働。だから、疲れる。

うつ病が重度の頃、主治医に口を酸っぱくして言われたのが

当分の間、これ以上、脳に刺激(ストレス)を与えないこと。脳の回復が最優先なので、寝て!刺激からは極力逃げて!

うつ病に効くとよく言われる散歩や行動日記、規則正しい生活なんかは、もっともっと先の話。とにかく刺激するなー!ということだった。

本屋が迷宮すぎる

少し外出できるようになって、徒歩10分ほどのところに小さな本屋さんがあることに気がついた。

しかし、本屋めっちゃ情報過多。
あんなに書棚をウロウロするのが好きだったのが嘘のようで、完全に迷子になった。正確に言うと、目から入ってくる情報が多すぎて、何をしたらいいのか混乱し、吐きそうになって、その場から逃走した。

1度行くと1エリアだけ見る。で速攻、帰るを繰り返す。
でも、どれなら読めるのかわからない。

まだまだ陽気なギャングを読める気がしない。
なんでだろう。

運命のおにいさん

普段ほとんど漫画を読まない。
なのに、中村光さんの『聖☆おにいさん』のことを急に思い出した。
以前、連れて行かれた漫画喫茶で、何気なく読んで、たしか声を殺して笑ったような記憶がある。あれなら読めるかも。

あの本屋さんで探すと、無事に『聖☆おにいさん』と再会できた。
読めるかどうかわからないから、とりあえず1巻だけ買おう。

1巻だけ握りしめレジへ。即、家に帰る。
恐る恐るページをめくると、

なにこれ!とてつもなくおもしろーい!

気がつくと1巻読み終わってた。
何より「おもしろい!」と笑ったことが久しぶりだった。

おにいさんとギャングの違い

なんで聖☆おにいさんは、読めたんだろう?
なんで陽気なギャングは、読めなかったんだろう?

聖☆おにいさん

ブッダとイエスのぬくぬくコメディ。“笑い”でも世界を救う!聖人in立川。目覚めた人ブッダ、神の子・イエス。世紀末を無事に越えた2人は、東京・立川でアパートをシェアし、下界でバカンスを過ごしていた。近所のおばちゃんのように細かいお金を気にするブッダ。衝動買いが多いイエス。そんな“最聖”コンビの立川デイズ。

出典*講談社コミックプラスより

誰かを傷つけることはない笑いで溢れているお話。(いろんな意味で主人公たちががっかりすることはあるけど)

そして1巻に短編が複数入っている漫画。

これがちょうど良かったのだ。

誰かが傷つくというのは、たとえ漫画でも非常にストレスを感じる。情報処理ができず、他者の感情にぐわーっと飲み込まれてしまいがちで、ツライ。

単純に集中できる時間も少ないので、短編、最高。
いつでも区切りよく、読むのを止められるのは、精神衛生上、助かる。読み終わらなかったと自分の能力を責める必要がないから。

内容もポジティブ&読書の達成感までついてくる「聖☆おにいさん」は、控えめに言ってうつ病リハビリの神だわ。

続いて、伊坂幸太郎さんの陽気なギャングシリーズ

陽気なギャング一味の天才スリ久遠は、ひょんなことからハイエナ記者火尻を暴漢から救うが、その正体に気づかれてしまう。直後から、ギャングたちの身辺で、当たり屋、痴漢冤罪などのトラブルが頻発。蛇蝎のごとき強敵の不気味な連続攻撃で、人間嘘発見器成瀬ら面々は断崖に追いつめられた! 必死に火尻の急所を探る四人組に、やがて絶体絶命のカウントダウンが!

出典*『陽気なギャングは三つ数えろ』公式サイトより

当たり前ですが、小説なので起承転結あるんですよ。
で、主人公たちが大抵ピンチになるわけ。それがしんどい。(もはやクレームレベル)

わかってる。ではドンデン返しのうえで、すっきりハッピーエンドだってことも。わかってるけど、とりあえずピンチになるのが、とにかくツライ。(クレーム確定)

これはお話ですよとわかっているのに、情報処理のキャパが足りないから、気持ちが入り込みすぎて感情が振り回される。

ギャングのみんなが心配すぎて、かわいそうと泣く。力尽きて、先が読めないから、みんなの無事確認できない。負のサイクルぐーるぐる。

これでは、ギャングを楽しめるわけがない。全く陽気じゃない。

おにいさんと二人三脚

それ以来、1週間に1度本屋に行き、『聖☆おにいさん』を1巻ずつ連れて帰る。散歩と買い物と読書がいっぺんに習慣化できた。
おにいさんへの愛、おそるべし。

『聖☆おにいさん』が10巻まで揃ったあたりで、次の段階としてエッセイが読めるようになった。

そして、購入から1年後。
ようやく、伊坂幸太郎さんの『陽気なギャングは三つ数えろ』が読めた。
やっぱりドンデン返しは必要よね、とか思いながら、ちゃっかりギャングの仲間入り。

今、何でも読むことができる。
私は読書を取り戻すことができた。

うつ病の皆様、リハビリに『聖☆おにいさん』いいですよ。
そんなアドバイス、誰も教えてくれなかったから、ここにこっそり書いておきます。

読書が好きだったのなら、いつかまた楽しめるようになる。きっと。

うつ病とは全く関係のない皆様も、『聖☆おにいさん』いいですよ。
もうすぐクリスマスですから。2巻パラッと読んでみて。季節感満載でサプライズパーティーしたくなるはず。

この冬もぬくぬくしながら、おにいさんとギャングと一緒に過ごします。


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