ポカリ

ポカリ買ってきたから
ドア越しに息子の声
39℃の高熱で倒れた私に
さっきは俺の飯はどうなんねんと怒鳴ってたのに
幻聴かと思って冷蔵庫を覗くと
2リットルのペットボトルが2つと
ウィダーインゼリーが6つ
こんなにいらんねんけど
加減を知らない所がまだ子どもだ
16歳の息子と二人暮らし
反抗期真っ只中で殴られたり蹴られたりするけど
一度も本気でやられたことはない
重かったやろうに
逞しくなり始めてる少年の中に
大人の男の影を見た
ありがとうな
冷蔵庫の中に向けてそう呟いて
カラカラの体にポカリが染み渡る
女手ひとつで育ててきたから
家計は常に苦しく
満足に小遣いも渡せていない
なのにそれを私の為に使ってくれたんや
深い意味なんてなくたっていい
不器用な優しさに育て方間違えてなかったんやなと
少し誇らしかった
翌朝熱も下がって食卓を囲んでると
息子は俺バイトするわと言い出した
だから母ちゃんいつ熱出しても大丈夫やで
そっぽを向いてぶっきらぼうに言い放つ横顔が
死んだ父ちゃんにそっくりやった

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?