初恋

彼女はいつも一人だった
窓辺で文庫本を読みふけっていた
陰気だのキモイだの女子から紙くずを投げつけられても
彼女はびくともしなかった
カーテンが揺れる
彼女の長い髪も揺れる
その香りが届く距離まで俺は近づくことが出来なかった
きっと名前も知らない花の匂いを纏ってただろうに
自分で言うと恥ずかしいが
割とクラスの中心にいるような存在で
いつも俺を囲んでくる奴らを
時に卑猥な冗談で笑かしていた
どうか彼女に届きませんようにと
心の中では泣きそうになりながら祈っていたが
なぜみんな気が付かないのだろう
彼女の秘めたる高潔さに
この年齢で既に一人で生きていけるその強さに
とてもじゃないけど釣り合わない
彼女にはずっと年上の落ち着いた男しか似合わない
いるのかなもう
彼女の美しい髪を梳る大きな手
彼女の本当の居場所になれるだけの広く成熟した心
俺も一応は人気者だったから何人もの女の子と付き合った
そして空虚を知った
なあなんでそんなに大人なんだよ
少しでいいからこっち向いてよ
恋が何だかもうわからないんだ
心が今にも泣き出しそうで
もしも彼女がその白く細い指で
涙を拭ってくれるなら
今持っているもの全てを失ったって良いのに
どうせ俺の持ってるものなんてガラクタだけどさ
カーテンが揺れる
彼女の長い髪も揺れる
香りさえ手に入らなかった
遠い日の面影
人生で一番忘れられない人をあげるとしたら
間違いなく彼女だ

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