ナマ

ヲタク女子垂涎の2.5次元映画なるものを
試しに観に行ってみることにした
何事も社会勉強だ
食わず嫌いはよくない
シアターに入ると
案の定普通の男には相手にもされないような
醜い女たちがキャラクターグッズらしきものをベタベタ貼り付けた
バッグを大事そうに抱えながら連なっていた
愛する男と寝る喜びより
答えてもくれないグッズで埋め尽くされた部屋で
ひとり二ヤついてるほうが幸せだなんて
到底理解できないなあと思いながら
後ろの方の席についた
ふと少し離れたほうを見やると
肩まである黒髪が艶やかな
清楚な美人が座っていた
膝には上品なケリーバッグを置いている
へえこういう人も観に来るんだ
男が放っておかないような美貌を持っていても
生身よりこっちを選ぶこともあるのか
映画の内容は言うまでもなく意味不明というか
分かり易すぎて退屈極まりなかった
醜女たちが嬌声をあげる度
どんどんしらけてゆく自分がいた
スクリーンに集中するより隣の美女が気になっていた
思わずちらちら様子を覗ってしまう
するとどうやら向こうもこっちを少し気にしているようで
何度か目が合っては慌ててそらした
突然の告白だが私には友達がいない
というかいらない
中学の時から一匹狼だった
謎めいた私を同級生たちは少し恐れてるようだった
酒は一人で飲んだほうが美味いし
待ち合わせだの相手の都合だのに振り回されたくない
自由を愛してるし自由に愛されているのを確信している
それなのになぜだろう
あんな行動をとってしまったのは
全くハマらなかった作品の上映が終わり
まだきゃあきゃあ五月蠅い醜女たちを横目に
席を立ったタイミングが全く一緒だった
しばらく見つめ合っていたと思う
あの、と声が重なった
余りにもシンクロするのが可笑しくて
笑いそうになってると
彼女はクスクス可愛い声で笑った
よかったらお茶でもしませんか
ええ喜んで
カフェに客はまばらで
私と彼女は窓際の景色のいい席についた
つまらなかったですよね
その一言で彼女が私の同類であることが判明した
ええ話題になってるから観に来たら損しました
もしハマっちゃったら主人に嫉妬されるかなあって心配だったんですけど
ご結婚なさってるんですか
ええ2年前に
じゃあまだ新婚さんだ
ふふ、と照れ笑いする横顔は一人の男に独占させておくには
もったいないほど美しい
私も同じ心配をちょっとしましたけど
全くの無用でした
ね、やっぱり好きな人の傍にいるのが一番幸せですよね
男に抱かれる喜びを共有できる人が
あのシアター内にひとりでもいてよかった
彼女の語り口は聞いていてとても心地よくて
私たちは時間を忘れておしゃべりを楽しんだ
ずうずうしいかもしれないんですけど、line交換しませんか
もちろんです
こうして私に初めての友達ができた
彼女が実は元ヤンなことも
子どもが産めない体だということも
2次元には興味がないけど
藤井風の追っかけをしてることも
これから知ってゆくお話

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