甘くないココア

あなたがココアに砂糖を入れないことを
知っている女が世の中に何人いるんだろう
過去の恋愛については全く口を閉ざしているあなたに
そんなこと聞けっこない
元カレと平気で連絡を取り合うような私は
本気の恋というものをしてこなかったのかな
でもたくさん泣いてきた
たくさん笑ってきた
まだ愛し合っているのに別れなければならない
そんなことだってあった
どうしても忘れられない人も何人かいる
たとえ結婚という永遠の契約を結んでも
葬り去れない過去だってあるのだ
あなたからは悲しい恋の気配がする
とても誠実な人だから
付き合った人のことは心から大切に愛しただろう
それでも今こうして私と一緒にいるってことは
離れ離れになるしかない理由が生じたからだ
きっとたくさん傷ついてきたんだろうな
もしかしたら私よりも
元気で幸せでいてくれたらそれでいい
そう思えるまでにはとても時間がかかる
でも乗り越えなくちゃいけない
大人だから
おもちゃを取り上げられて泣いている子どもではないから
甘くないココアなんて美味しくないでしょう
いや、こっちのほうが俺は好き
この会話、他の誰かとも交わしたことある？
うっかり口に出そうになって慌てて飲み込んだ
きっとその恋は甘くないココアみたいだったんじゃないかしら
あたたかくて匂いだけが甘いような
切ない大人の恋
あなたに言ってないことがあるの
絶対言えないことがあるの
まだとても若い頃付き合った人で
魂の双子だと確信した相手がいた
でも彼も私も精神を病んでいて
このままでは心中するしかないと二人とも気が付いてた
だから別れた
愛してた
そして今も愛し続けている
生きていてくれているのかどうかすら分からない
確かめる方法なんてない
でも万が一もう一度巡り合えたら今度は二度と離さない
二度と離れない
彼への想いを断ち切れないから
正直結婚には躊躇してた
でもあなたは全てを包み込んでくれるような優しさで
私を受け入れてくれた
ごめんね
私の中にも甘くないココアがあるの
それはいつまで経っても温かいままで冷めてくれないの
一生言えない秘密はもしかしたらあなたにもあるかもしれない
でも心の片隅だけで彼を愛し続けることを許して
ココアを飲み干したあなたが
そろそろ行こうかと微笑む
この笑顔を愛してる
神に誓ってそう言える
うん、と微笑み返した私の顔は
完全に作り笑顔だった