最強の凡人

天才に生まれなくてよかった
歴史にその名を残すより
僕は愛する妻が注いでくれる
一杯のビールを尊ぶ
才能と呼べるものなんて何も持ってはいないのに
妻は僕を素敵な人よと褒めてくれる
仮に僕に特技があるとするなら
一途にこの美しい人を愛し抜ける自信くらいだ
天才の孤独なんて想像しただけで寒気がする
誰にもわかってもらえず
誰ともわかり合えず
その秀で過ぎた脳みそに拳銃を当てたこともあるだろう
才華ゆえに変人奇人扱いされて一人で生きてくなんて拷問だ
ああちょっとだけお馬鹿さんでよかった
あなたは優秀よ
妻にそう言ってもらえるだけで
会社で凡人中の凡人扱いされてても
むしろ幸運だなんて思ったりする
必死に昇進を狙う同僚を横目にあくびしながら
今日も平和な一日に感謝する
贅沢を言わせてもらえば早くうちに帰りたい
妻の笑顔と手料理が食べたい
結婚して8年経つけどまだ抱きたくてたまらないんだ
あなたって老けないわね童顔だからかしら
その言葉そっくりお返しします
君はいつまでも綺麗だね
少し酔ってた僕の言葉に
僕より赤くなっていた妻がいじらしい
なんで僕なんだろうな
君なら本物の天才だって射程圏内の美貌を持ってる
さびしいのはもう嫌なの
いつだったか泣きそうな声で僕にしがみついてた
経験者はここにいた
君は天才の孤独を知る者だ
そしてそこから命からがら逃げてきた先に
あくび顔の僕がいたんだろう
僕の才能のなさが
僕の特技の無さが
君を孤独から守ってた
凡人に生まれてよかった
天才に生まれなくて本当によかった
僕なんかの妻になってくれた君へ
僕には君を守る力だけは死ぬほどあるみたいだよ

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