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歯医者 【インスタントフィクション #02】

「奥歯が痛くて、診てもらえますか?」
 彼はそういって、わたしに背を向けると、おもむろに穿いていたズボンとパンツを脱ぎ、両手で尻の割れ目を開いて、肛門を見せつけてきた。

 まだ開業したばかりだというのに、こんなおかしな客が来てしまうなんて。選ぶ街を間違えてしまったようだ。
「ちょっと、なにされてるんですか?」
「あ、だから奥歯を診てもらいたいんです。オヤシラズかもしれない」
 彼はさらに尻を突き出して、両手の指先が赤くなるまで、目一杯割れ目を開いた。開きすぎて内側の鮮明なピンクが見える。
「あの、むかし、よく遊んでた友達に『ケツの穴から指つっこんで奥歯ガタガタ言わせたろか?』って言われてました。だから、奥歯のことはケツの穴から診てもらうのかなって、思ってたんですけど…」

 奥歯より、もっと治すべきところがあるように思えた。
 彼はたぶん、セケンシラズだ。

(了)

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