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賛否両論?『なんだかセンチメンタルな時の歌』(モーニング娘。'24)への感想と考察

MV動画公開から1ヶ月以上経ってしまったが、この曲は個人的に衝撃だったので、初見時から今に至るまでの感想やなんやを書き留めておく。

初見時の衝撃


7月21日。YouTubeを開くと、モーニング娘。’24の新着MVのサムネが。
『なんだかセンチメンタルな時の歌』。どんな曲だろう?タイトルからは、『ロマンスに目覚める妄想女子の歌』('17)を連想する。

イントロ。なんかいつもと違う。やけにアンニュイでメロウ過ぎる。
でも、きっと『Swing Swing Paradise』('22)のように、すぐ曲調が切り替わって、いつものモーニング娘。っぽい激しめの感じになるのだろう…。

なんて思っていたら、裏切られた。
メロウな雰囲気のまま、めいちゃん(山﨑愛生)が頭抱えながら「心落ちるな」なんて鬱なことを歌い出す。マジか。
更に、ここんとこ大躍進のあかねちん(羽賀朱音)も、ダウナーなラップで友達付き合いの疲労を訴える。
えっ、待って。何だこの曲は?

サウンド的にも気怠いような、浮遊感のあるような、合ってるような合ってないような、今までに聞いたことのないタイプの曲調。
これまで『青春小僧が泣いている』('15)や『KOKORO&KARADA』('20)などの衝撃に耐えてきた私であるが、意表を突かれた。

歌詞も「笑顔だって上手だった」とか「努力すれば結果となる懐かしい日々」など、報われない感じのフレーズが並ぶ。そんな物悲しいこと、いまや「強い乙女」の代名詞となりつつあるモーニング娘。が歌っちゃうの?

さて、肝心のサビ。ここで一気に明転したりするのか…?
しない。ピリついたままだ。
社会や人生に擦れて疲れちゃった「私」だけど、心は純粋な「幼きあの頃のまま」。そう訴えている。
汚れつちまった悲しみに、ってやつだろうか。

2番も気だるい。つんく♂の歌詞に頻出する「眠気」の訴え。
続くだーいし(石田亜佑美)の「結果出かけちゃう」の歌い方が、「あー、もうっ、何で…」という、思い通りにならない感じがすごく出ている。夢の中で走ってるみたいなもどかしさ。

手放しで人生を楽しんでいた日々を過去のものとして語る歌詞が続く。
「年を重ねるごとにわからなくなっていく」というフレーズといい、これは20代後半から30代の大人世代の歌ではないか?と感じ始める。
今回はだーいしのラストシングルであるが、やっぱり、彼女くらいの年齢や立場をイメージしていたりするのだろうか。

2番のサビでも繰り返される「涙」が気になる。これは何を表しているのだろう?
AメロBメロが「汚れつちまった」なら、サビは「悲しみ」なのか。

間奏にも、緊迫感が続いている。
胸かきむしる焦燥を感じるギターの音。モヤモヤを切り裂くようなコーラスに思わず耳を澄ませる。
この部分は「本当に素直な純粋MY MIND」というフレーズの逆再生なので、意味ある歌詞ではないらしい。
それでも、「眩しい」という言葉がリフレインしている気がする。

バン、バン、バン!と重い音に続く、ちぇる(野中美希)の「なんもかんも歳を重ねるごと わざと気づかないふり」というフレーズにドキッとする。
語尾に「!」が付くような歌い方。「気付かないふり」が出来る大人になってしまった自分への苛立ち。

最後のサビでは、それまで夜~早朝の色彩を見せていた空が、すっかり明るくなっていることに気付く。
後から見返したら、2番の段階で空は明るくなっているのだが、間奏の時の画面が、水溜りに浮かぶ油の虹みたいな、不安を煽る色彩だったので、間奏明けの明るさがより印象的に思えた。
白い衣装といい、「私」の本質は「透明」で「純粋」であることを表現しているのだろう。
年を重ねるごとに垢のように溜まっていく「ほんとはそんなんじゃないのに」という悲しみや、もどかしさ。
もしかして、それに気付いた時が「なんだかセンチメンタルな時」・・・・ってコト!?

そして、おそらくこの曲の最重要パートかつ今回のMVPが、ラストのはるさん(井上春華)。
「初恋した頃のまんま」の1フレーズが、これまでのすべてを薙ぎ払って清めるかのようで、鳥肌が立った。

聴き終わった後、しばらく放心状態。ここ数年で一番の衝撃曲だった。

一ヶ月以上聴き込んでの感想と解釈


初めて聴いてから今日に至るまで、1日2~3回は再生しているので、単純計算で100回以上聴いていることになる。それでも全然飽きない。

この曲、ネットでは賛否両論あるらしい。おそらく「アイドルっぽい曲」ではないからだろう、と思う。人によっては「暗い」と感じそうだし、サウンド的にもちょっとマニアックさ(?)がある。ポップではない。
でも、作詞・作曲者であるつんく♂本人がXで「この曲で刺さらないなら、俺の役目が何か迷う」と発言した通り、おそらく「今のモーニング娘。のつんく♂提供曲」としての最大公約数がこの『なんだかセンチメンタルな時の歌』なのだと思う。

私も、初見時に戸惑いはあった。「えっ、こんな“心の裏地”みたいな部分を歌にしちゃっていいの!?」と。
言うなればこの曲、タイトルが「疲れて帰った後、ソファーに倒れ込んで動けなくなってる時の歌」とか「湯船でボーっとしてて気付いたら1時間経過してたときの歌」でもいいくらいである。
「あー、もうなんもしたくない…」を細分化して逐一言語化・サウンド化したらこの曲になる。
そんな心の内の内をさらけ出すような、太宰治の『女生徒』みたいな曲が、あの最強、もとい「最KIYOU」アイドル・モーニング娘。の楽曲として目の前に現れたら、そりゃ戸惑いもするだろう。

とはいえ、これまでも「暗い」と評される曲はあった。マイナーコードだったり、歌詞がちょっと重かったり。個人的には『人生Blues』('19)など、なかなかビターだった気がする。
でもそれらは、「建前(表に出せる言葉)の中で、本音と同じ部分をすり合わせている」歌詞だったように思う。
たとえば歌詞の登場人物が「もう全部がだるい。疲れた。てかこんなの本当の私じゃないし」と思っていても、そのまま描かれることはなくて、どこかに「でも愛や希望はあるし頑張るしかないよね」的なエッセンスはあった。
それが今回、本音中の本音である「だるい、疲れた、こんなの本当の私じゃない、もう愛とかわかんなくなってきた」が丸のまま出て来ているわけである。
だからこそ、この曲は異質なのだ。その「異質さ」を好意的に捉えるか、そうでないかで、評価が真っ二つに分かれているのだろう。

つんく♂のライナーノーツによれば、この曲の歌詞は、思春期や青春をイメージしているらしい。
しかし、やはり聞き手の感覚としては、10代より20代が聴いたほうがしっくりくる。なんなら、30代(私)にも刺さっている。

そういう意味で、今作について問われたおださく(小田さくら)の「大人になっちゃった人の曲」というコメントは的確だと思う。
どこで読んだか忘れたが、クレヨンしんちゃんの映画『オトナ帝国の逆襲』で、高校生である紅さそり隊がオトナ側に入っているのは、大人の定義が「“懐かしい”という感情を持っていること」だから、みたいな話を見かけたことがある。
過去へのセンチメンタルな気持ち、ノスタルジー的なものに浸ってみたいと歌うこの曲は、間違いなく「大人の歌」だ。

そう思うと、ラストの時計の音が哀しい。無情に進む針の音は、間奏の逆再生コーラスに対応しているような気がする。
自分が純粋であるという認識に変わりは無くとも、純粋だった過去そのものには戻れないんだ。


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