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家のない眼 第一話

あらすじ
家入充はノンバイナリーであったが性欲はあった。大学で女性と出会い、性交をしていろいろ経験したが一緒にうろつくのも嫌、結婚なんて考えられなかった。しかし、その女性は彼の子供を欲しがった。卒業前に充は両親の不慮の事故での結果実家に帰ることになった。女性は彼の子供を育てたいからと卒業前に生でした。
妊娠したが彼は認知はして責任はとらなかった。実家をリフォームしたら彼には見えない、眼が家の壁に現れた。通る人は心臓をやんだり、大変なことになった。彼には全く見えないのだが。その眼は誰かを見つめる為に待っていた。それはいつ来るのか・・・。

一話目
家入充は瀬戸内の県の大地主の家系の末端であった。地元が嫌いで物心つくころには出たくて仕方なかった。一人っ子の為にいずれは家を継ぐしかないのだがせめて少しの間位他の土地を知りたかった。
彼は映画がとても好きで高校は進学校に進んだが進路相談で先生に芸術系の大学に行きたいと親より先にいった。
親はあとから知った。両親は少しは外の世界を知れば逆に地元に戻るだろうと思い、そちらの方向への進路を認めた。
充は関東と関西の芸術系の大学を受験したが関西の方しか受からなかった。浪人することなく受かったために喜んで彼は一人暮らしの為に関西へ行った。両親はまだ関東より近いと思い、半年に一回は母親が会いに来たいといったが充は断った。
充は地元では映画好きの仲間がいなかったために大学を満喫した。そして彼は自分が中学、高校の時に彼女が出来なかった理由を内面で理解した。
恋愛とか結婚とかにまるであこがれがないのである。恋愛映画が一切見られないのもそれが理由かと思い、彼女ができないことを気にしなかった。

しかし、充は体系は普通、実は顔がそれなりにイケメンなためにサークルの女子にモテた。
充は映像系、サークルは映画研究会、仲間たちとの生活は楽しかったが恋愛に疎い彼には先輩や同期、後輩たちの恋バナに入れなかった。
それでも早坂洋子は彼を好きになって同期の彼に告白した。充は断る理由はなかった。彼自身洋子がタイプではあったからだ。しかし、映画館以外へのデートはなかった。
充は自分自身が欠陥人間で、結婚とか、所帯とか、全然考えられないと洋子に常に伝えていた。洋子はそれでも充が好きだった。
不器用なところもあるが、愛されて育った充は優しさも包容力もあるし、人当たりもいい、洋子は北関東の人間で、地元の荒さが嫌で関西に来たが関西の荒さは気にならなかった。実に心地よかった。

二人は新世界、心斎橋、天王寺、難波、梅田、映画館は片っ端から行った。
洋子は写真学科、彼女なりに努力して、卒業前に先輩で現役でバリバリ活躍している女性カメラマンのアシスタントの職を得た。
その頃に充の両親がヨーロッパの旅行中に飛行機が墜落して亡くなった。
充は悲しかったが、それは彼がどうしても実家に帰らなくていけないことでもあった。それは充の父親が家入家の金庫番で充も芸術系の大学に進んでおきながら簿記の資格を取っていたからだ。
充はこんなに早く地元への呪縛が始まるのかと両親の死よりそちらを悲しんだ。
洋子は充とともに葬式に出て、充に言った。
「どうしてもあなたの子供が欲しい、認知してくれたらあたしが育てるから。」
充は困惑した、そして大叔父に相談した。
「世継ぎがいるのは悪くない、養育費はわしが出しちゃるから気にせんでいい。」
大叔父の太は充を幼いころから可愛がっていたし彼がノンバイナリーなのも知っていた。
そういうことで充は子種を植え付けた。
充が地元で簿記の仕事を本格的に始めてから八か月後に、子供が生まれた。
充は正直会いたいとは思わなかった、その時には彼には家族愛がないのだ。
洋子はメールで子供の写真を送ってくれた、彼女は同性の師匠たちに囲まれて、
「大事に育てるから大丈夫。でも一年に一度は会いに来て。」
そう言った。それを断る理由は充にはなかった。
そうして、充は地元で腐りながら簿記の資格をフルに使い、家入家の財政の管理をしながら家入家御用達の弁護士と一緒に一族を守っていた。
彼はその役目にある程度の充実感を感じるまで五年かかった。だが、ある程度時間が経つと地元の良さが分かってきた。
保守の土地の為に平和だし、食べ物は美味い、彼自身がとても自炊派だが外食も美味しい、
彼は仕事の合間に県内を愛車の古いスターレットで走り回るのが楽しかった。自分の金で買った車だ。おんぼろだが。
三人家族であったものが一人で暮らすことになり、最初は実は家が広かったことを知った充だがすぐに慣れた。そして、地元で働きだして六年目、家の外観が古くなってきたから知り合いのつてでリフォームした。白かった外壁を薄い青色にしてもらった。
充の家は外堀がない、側の道が狭いために自分の土地で車どおしがすれ違ってもらうために充の父が作らなかったからだ。家は充が11歳の時に大叔父から勧められて買ったものだった。
ローンはとっくに両親への賠償金で払って完済してるし、充は独身貴族を謳歌していた。一年に一度会う子供のリツ子への愛情も段々わいてきた。
だが、彼は他の女性と一緒になる気もないし、いかんせん洋子がシングルマザーのままで結婚しないから彼も彼女に悪いと思ってるから地元の見合い話をすべて断り続けた。
そして、大叔父の口添えで彼はそういうことで、ひとり、というのを周囲に納得させた。
ある日、異変が起きた。
充は目覚ましをかけなくても朝の7時に起きる。それが習慣だからだ。彼の家の側の道は地元の中学の通学路で小学生も通る時もある、子供たちの悲鳴が聞こえてきた。
「どうした!何があった!」
幼いころから知っている子供たちもいるので充はパジャマのままで表に飛び出した。
子供たちが家を観ようとしない、充は振り返って家を見るが彼には異変を感じられない、
子供たちは中学生、そのうちの女の子が、
「眼が、眼が怖いの!こっちを観てる!いやあ、早く逃げないと。」
五人ほどの中学生たちは急いで走り去っていった。
そのすぐ後に小学生たちが来たがそのうち一人が家を見て気絶した。
「何だよ、何が見えるんだ!」
充はさっぱり分からなかった、気絶した子供はすぐに気付いた、他の子供は見えないらしい。その子は、
「大きな死ね、っていう眼が見てる!気持ち悪い。」
その男の子は嘔吐した。充は自分の後輩でもある子供たちをたまたま午前中は時間があったから学校まで連れて行った。
自分もお世話になった先生に預けてやっと朝食にありつけるまで一時間かかった。
ゆっくりフランスパンをドリップしたコーヒーで飲んでいると、
とんでもない女性の絶叫がして、充はまた飛び出した。
女性は近所の人だった。充が手をとったら、彼女はすでにこと切れていた。

充は慌てて救急車を呼んで、彼も付き添ったが事件性はないと判断された、警察には家入家のものゆえに取り調べもなかった。
充は訳が分からなかった、女性は78歳の数ブロック離れた地区の人であった。数日に一回は通るから充も知っていた。
「何が起こっているんだ・・・。」
充は家の外壁をくまなく見るがそれは彼には見えない、
しかし、眼は見つめていた、恨みと憎しみを込めて、通りに面している外壁で、悪魔の住む家の窓のように通る人に視線を送っている。

充は納得できなかったが一日目は、それだけで済んだ。

#創作大賞2024 #ホラー小説部門

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