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#20 仕事をしていると思われている人が一番サボっている?

我々が普段なにげなく使っている「サボる」という言葉があるが、この語源や意味を正しく認識している人は意外と少ないではないだろうか。

一般的に「サボる=仕事や学校を怠ける」といった具合の意味で使うことが多いが、「サボる」は「サボタージュ(sabotage)」が語源になっていて、本来の意味は(敵などを)妨害する、破壊する、邪魔をする、というのが本来の意味らしい。

それがいつしか「サボタージュする」から「サボる」に変形して、「怠ける」という意味に変わっていったというのが真相のようだ。
英単語の後に「~る」を付けて日本語化した「ググる」とか「ハモる」とか「ミスる」みたいなもので、外国語から独自の変化を遂げたカタカナ英語の動詞と言える。

さて、今回のテーマはサボタージュの元々の意味である「妨害する」に因んだもので、組織を妨害したり、破壊するための「サボタージュマニュアル」というスパイ工作のために作られた行動マニュアルについて触れていきたい。


第二次世界対戦中にCIAが敵国のスパイ用に作成したマニュアルとは?

アメリカ合衆国の中央情報局である「CIA」はよく知られた存在であるが、その前身となったのがOSS(米国戦略情報局)という組織である。

このOSSが第二次対戦中(1944年)敵国へのスパイ工作のために作成したとされる「サボタージュマニュアル」なるものが実に興味深い内容なのである。

このマニュアルは戦後も、極秘資料として扱われていたようであるが、2015年に公開されると、ネットなどで大きな反響があったため知る人も多い。
実は僕の職場でも当時大きな話題になっていて、「スパイ」とか「CIA」という単語が職場内で飛び交っていたのをよく覚えている。
また書籍でも解説されているので、日本語でその内容を知ることも可能だ。

アンチ・サボタージュマニュアルという書籍もある

このサボタージュマニュアルは敵国(当時のアメリカから見たドイツや日本が該当?)に侵入した工作員に向けて、組織を妨害するための手解きが記されている。

その内容は、子どもの悪戯か?と笑ってしまうような行動(現場作業員に向け、オイルの中に水や塩を混入しておけみたいなこと)も書いてあるが、ホワイトカラーに向けた「組織を上手く回らなくする」工作については、現代人の我々にとっても胸に手を当てなければならないようなことがたくさん書かれていて、実に興味深い。

これを目にすると、米国情報局(現CIA)によって、約80年経った現代においても、日本という国はサボタージュされているのではないかと被害妄想的に感じるのは僕だけではないはずだ(笑)

組織をダメにするサボタージュ戦略とは?

実際のマニュアルに書いてある章立てと順序、細かい内容などは少し異なるが、組織や生産性に対する妨害工作として書かれているのは、概ね以下のような内容である。

1.「注意深さ」を促し主張する。周りにも賢明な判断をすべきと要請し、「道理をわきまえた人」の振りをする
2.可能な限り「さらなる調査と検討」のため全ての事柄を委員会で検討。委員会はできるだけ大人数とする。最低でも5人以上にしなければならない
3.何事をするにも指揮命令系統を厳格に守らなければならないと主張せよ。意思決定を早めるための「抜け道」や「簡略化」した手続きは認めるな
4.会社内での組織的位置づけにこだわれ。あらゆる決断に対する妥当性について懸念を示せ。そのグループの権限内にあるか懸念を投げかけろ。
5.以前の会議で決議されたことを再び蒸し返し、その妥当性をめぐる議論を再開せよ。
6.文書は細かな言葉尻にこだわれ。通信、議事録、決議の細かい言い回しをめぐって議論せよ。
7.常に重要でない仕事から取り掛かるよう指示せよ。重要でない仕事についても完璧な仕上がりにこだわる。
8.重要な仕事をするときは会議を実施する。
9.もっともらしい方法で、なるべくペーパーワークを増やす。ファイルを複製することから着手せよ。
10.業務の承認手続きをなるべく複雑にする。1人で承認できる事項でも3人の承認を必須にする。
11.全ての規則を厳格に運用し、隅々まで適用せよ。

ほらね、現代の組織にも胸に手を当てなきゃいけない該部分がたくさんあるでしょ(笑)

肩書きにこだわり大人数での会議を開いてみたり、できるだけペーパーワークを増やし、文章の細かい部分にも気を使い、厳格にルールを守るというようなことを、日常の仕事の中で我々は、無意識のうちにやってはいないだろうか?

こういった感性は、元々日本人が持っていた気質なのか、当時のCIAによって植え付けられたものか分からないが、日本型組織において生産性が極めて低く、イノベーションに欠けるのも、何となく目に見えない部分に、このマニュアル戦略が組織内に浸透しているせいにも思えてくるから不思議なものだ。

大企業や行政組織に見られる傾向は正に・・・

さて、実際にマニュアルを読んでみると、かなりヤバい気持ちになる人は多いのではないだろうか?

現代における大企業や行政組織で行われている思考や行動様式と、このサボタージュマニュアルは非常に似通っているからだ。
というより、日常的にこれらの行動をとる人は、もしかしたら自分でもその行動様式に気づいていない可能性も高い。
それくらい、この破壊工作は巧妙にできている。

正義感が強く、緻密で、ルールに忠実で、真面目にコツコツ仕事をこなす人=(正にこのマニュアルにおいてスパイとして組織を破壊するようなタイプ)=組織において仕事がよくできると評価を受けている人、という風なことも結構あるのではないだろうか?

逆に、これらとは一線を画した人材(ルールに縛られず、独創的で、一匹狼タイプ)は、組織内で浮いた存在だったり、アウトローとして扱われているというケースも多い気がする。

もちろんこのマニュアル通りの行動を取る人に、組織を妨害するとか破壊するといった気持ちはさらさら持っていないだろうし、周りもそんな風に捉えていないから、事は厄介である。
これは考えてみると、実によくできたスパイ工作であり、組織内で気づかないからこそ、その威力も絶大なのであろう。

悲しいかな、実は、仕事をしていると思われている人が一番サボって(組織を妨害して)いるのである。

どうやってスパイ工作を打破するのか?

さあ、ここからが難題である。

組織を破壊しながら何十年も過ごしてきた年輩のお偉いさんに向かって「あなたは組織を破壊するスパイ工作員ですか?」なんてことは言えるはずもないし、歳を取れば取るだけ人の行動様式を変えることは困難である。

ほんとは上の人にこそ伝えていきたいものであるが、そっとこのマニュアルのことを教えて、ハッと気づいてもらえればラッキー、ダメなようならこの人はCIAのスパイなんだと思って諦めた方が気が楽だ(笑)

であれば、やはり伝えていかなければならないのは、これからを担う若い世代に向けてであろう。

筆者は、組織内部の研修などの場で、下記のスライドを使って「みんなはCIAにならないように気を付けましょうね」と伝えることをよくやっている。
適度な笑いも取れるし、なかなか便利な題材である(笑)

組織を破壊するサボタージュマニュアルの要点をまとめた筆者の研修資料より

これを読んで「サボタージュマニュアル」を知ってしまった人は、ぜひ周りの人にも伝えてほしいなと思う。

「もういい加減、スパイ工作は辞めましょう」と。

最後に・・・「サボ」

さてさて「サボタージュ」という単語をググってみると「緑黄色社会」の「sabotage」という曲がヒットしてくる。
TBS系火曜ドラマ「G線上のあなたと私」の主題歌で、若者に人気のグループらしい。
悲しいかな、オッサンは全く知らんけど(笑)

こっちの方はよく知ってるんだけどね。
「サボタージュ」でなく「サボテン」だけどね(笑)


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