空港ホームレス問題−マルセイユ・プロヴァンス空港/クロアチア人美女と過ごした一ヶ月

空港泊、という言葉があると同時に、空港ホームレスという言葉があるらしい。
私も金が無い頃や、今でも金に困ったときはよく空港に宿泊する。
私が金をなくす理由として、うっかり落としてしまった、財布をすられてしまった、旅行先で出会った人によく酒を奢る、そして、酒を飲みすぎる、というものがある。
日本でもヨーロッパでも、酒を節約するのに一番いい方法は飲まないこと、そして次に、スーパーマーケットで買うこと、次にコンビニで買うこと、が挙げられる。
ヨーロッパに限っては、物価の安い中欧や東欧に行くという選択肢も挙げられるが、それは日本国内では難しいだろう。
ウクライナで変える1リットル百円のビールにスリルを感じるのも良いが、個人的にはチェコの路地裏にある廃れた酒屋で500ml90円のビールを飲むほうが精神衛生的にもいくらかマシな気がする。
もちろんウクライナは美しくていい国だ。
道行く美男美女たちは素朴で、声をかければみんな人懐っこい笑顔を浮かべてくれる。
そんなウクライナが、私は…おっと話がそれた。

空港泊ひいては空港ホームレスの話題だ。
なんで話がそれたんだったか。
そうだ、私が金をよくなくすという話題からだった。
私は金だけでなく話題の趣旨もよく見失うのだ。

空港泊をしている人は世界中どこにでもいる。
先日話をしたフランス人男性は、なんと財布をすられて、2ヶ月もの間、スペインの空港で暮らしていたらしい。
頼れる家族はいないのか、そう聞くと
「切れるとナイフを取り出す奥さんがいるよ」
私が乾いた笑いを吐き出すと、彼は声を上げて笑ったので私も笑った。
そして乾杯をする私と彼。
あの夜はいい酒が飲めた。

フランスのシャルル・ド・ゴール空港には、推定で100人ほどのホームレスが住んでいるらしい。
私もいつかそこに体験入居してみようと思うが、100人のホームレスを相手に自分の荷物を守りきれるかと聞かれると無理ゲー臭が半端ないので一泊くらいにしとこうかなとも思う。
以前、マルセイユ・プロヴァンス空港にお世話になっていたときのこと、私はクロアチア人女性と親しくなった。
彼女もまたホームレスで、彼女は時折近場のマルセイユなどに行き、その美貌を駆使しては好みの男たちを垂らしこんで食事とセックスを楽しみ、シャワーを浴びて再び空港に戻るという日々を過ごしていた。
彼女のフランス語はかなりうまかった。
マルセイユで捕まえた男たちから学んだらしい。
私は彼女に興味があったが、彼女は私に性欲処理と財布の役割というよりは、話し相手と財布の役割を求めているようだった。
私はカジノというフランスの大手スーパーで彼女にご飯を奢り、時折彼女からレンジでできる簡単フレンチのレシピを教えてもらいながら、フランス語とクロアチア語、そしてイタリア語を教えてもらっていた。
時折彼女とともに私の大好きな南フランスの街へ行き、そこでデートのようなこともした。
彼女とは結局、1ヶ月以上一緒にいることになった。
私は彼女にご飯をあげ、彼女は、退屈な私との時間と引き換えにご飯を得る。
あの日、彼女から、どうしてあなたは怒らないの? と聞かれた。
私は、クロアチア語で答えた。ムカつくことがないからさ。
そのときから、彼女は俺をからかうことはしても、ファックだの嫉妬だのと汚い言葉遣いをすることや、挑発するようなことをしなくなった。
その時気づいた。
彼女は私から感情を引き出そうとしてくれていたのだと。
私は下手なジョークを言って彼女を困惑させることも多かったが、最後の一週間にもなると、彼女もどうやら私の高度なジョークのセンスを理解することができるようになったようで、私達の間には笑いが絶えなかった。
私達は、最後の3日間、身を寄せ合って眠った。
最後の日、私は彼女とフランス式の朝食を食べ、300ユーロを彼女に渡した。
帰るところは、無いようだった。
彼女はSNSも何も持っておらず、世代遅れのiPod touchを持っているだけだった。
高校の頃からの思い出の品らしい。
私は彼女に私のSNSとメールアドレスを教えた。
私は彼女の頬にキスをし、彼女は私の唇にキスをしてくれた。
お互いの人生に対して祝福を祈りながら、私達は別れた。

先日、再びその空港を訪れ、一週間を過ごしたが、彼女はいなかった。
空港職員に聞いても、気がついたらいないわねぇ、と言うばかり。
寂しい気持ちがしたが、セラヴィ、と肩をすくめることで、その寂しさを押し殺した。

空港は良いところだ。
特にヨーロッパではその良さを実感する。
市内と違ってトイレは無料だしかなり頻繁に掃除がされるので清潔感もある。
電源も無料だし、雨風もしのげる。
無料のシャワーがあれば言うことなしなのだけれど、それは無理な話かな。

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