命を育む、水・空気・土。この風景を未来に残せるように(熊本県南阿蘇村地域おこし協力隊/宮脇 悠さん)
宮脇 悠さん
熊本県熊本市出身。協力隊になることを後押ししてくれたのは、別の地域で有機農業を営む同年代。「自分より早く気づいて実践してきた人。その人がいるから、頑張れます」。絵を描くことが好きな一面も。
疑問を晴らしてくれるほうへ
世の中はどんどん便利になっているはずなのに心のどこかが満たされない。それがどこにあるのか、どんな形をしているのか、探してみようと一歩踏み出したときが、人生の岐路と呼べるときなのかもしれない。宮脇悠さんの話を聞きながら、そんなことを思う。
「人はなんで病気になるんだろう?」宮脇さんがその要因のひとつを食べ物と結びつけたのには、いくつかの経験があったからだ。
「幼い頃は酷いアトピー体質で、母は随分悩んだようです。食の視点から環境汚染にまで関心が深かった」。幸い症状は改善されたが、親元を離れて自炊するようになり、レトルト食品中心の生活が続いたことで、再び体調の変化を自覚しだす。
そんな折、仕事で訪ねた農家。そこには、出荷用と自宅用に別々の畑があった。なぜ分ける必要があるのか。調べるうちに、やはり食のありかたへと帰結していく。
「自分達が選んで口にする食べ物に体調不良の原因があったなんて、思いもよりませんでした」。食のことを知りたい、その食を育む環境のことを知りたい。「疑問を晴らしてくれる道は、農業だ、と」。
食べ物をいただく、ありがたさ
宮脇さんはなにも、「環境保全型農業が一番」などと主張するつもりはない。ただ、これまでの体験を通してそういう選択肢を知り、「自分が心地よいと思える方向はこっちだ」と感じているだけ。「その直感を信じたい」。自らの気持ちを確かめるような言葉の端々に、素朴な人柄が滲む。その道をまっとうするための知識と術を、ひとつずつ学んでいるところだ。
特に米への思い入れは相当なもので、「長い時間をかけてつながれてきた種がたくさんあるんです。昔ながらの知恵が凝縮されている。…米トークをしたら止まらなくなっちゃいますよ(笑)」。保存が利き、米粉等に加工できる点にも、可能性を見出しているそう。
加えて、「たくさんの人に、土に触れる機会を持ってもらいたい」とも話す。地域おこし活動の一環として農業体験イベントの企画を発案したのも、宮脇さんだ。命ある食べ物をいただくことが、どれほどありがたいことなのか。実体験として得られた気づきは、誰かの選択肢を広げる鍵になるかもしれない。
「未来の子どもたちに、この風景を残していけるように」。壮大にも思えるけれど、実はシンプルな意思をもって、宮脇さんは大きな一歩を踏み出した。
南阿蘇村地域おこし協力隊 ヒトコト録
2023年2月発行。南阿蘇村地域おこし協力隊活動報告の一環で制作。記事は取材当時のものです。
取材・文・編集/家入明日美
撮影/みんな
表紙デザイン/南阿蘇フィルム
本文制作・印刷/城野印刷株式会社
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