幼な子

三つ、四つくらいの
幼な子が
道の真ん中で
母の背中に
泣いている

張り裂けんばかりの
大声は
もっともっと
より大きくと
それだけを精一杯
いっしんに
他のことは一切
頭になく
ただただ
もっと大きくと

少し成長した体で
力の限り泣く声は
いじらしい心とは裏腹に
けたたましく

母は
背を向けて
振り返らずに
向こうへ歩いて行く

大きな声で泣けばそれだけ
助けてくれた
ひとりでは何もできない赤子だった
泣くことがただ一つの道だった
その頃の記憶は
未だ脳にこびりついていて

けれど今
生きて行くためには
泣くことをやめて
考えなければいけない

そうして
自らの手で
知恵を手にするとき
幼な子は
赤子だった頃の記憶を失う

2021.07.10

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