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カフェ・コン・レチェとミントティー

夜中からお腹が空いていたので、寝起きに薄めのコーヒーとチョコレート。外は明るすぎず、でも暗くもなく。何となく昔スペインのホテルで飲んだコーヒーを思い出す。

安くて駅に近いだけが取り柄のようなホテルで、朝食を摂りに降りると若いウェイターが他のテーブルにあった一輪挿しを私のテーブルに置いてくれた。それから野球部員が使っているような大きなブリキのやかんに入ったコーヒーを私のカップに半分ほど入れ、熱いミルクをなみなみと注ぐ。「カフェ・コン・レチェ」はスペインでおそらく私がはじめて覚えた名詞だ。カフェ・コン・レチェと、スペイン独特の固くてもそもそとした小麦の風味豊かなパンにバター、メロコトン(モモ)ジャムというシンプルそのものの朝食だが、それがやけにおいしいのだ。

広場でなく駅近くに宿をとったのは、朝早い電車で南に向かうためだった。卒論を書きにという名目でスペインへ行くのになぜモロッコまで行く必要があるのだと出発前に父からは猛反対されたが、結局押し切った。だってどうしてもイベリア半島からアフリカ大陸へ船で渡ってみたかったのだ。グラナダからアルヘシラスまでは電車で4時間半。港町特有の寂れた雰囲気が旅先から旅へ出る不安と期待を煽る。

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モロッコでは甘いミントティーが行く先々で出された。うっかり入った絨毯屋では美しい文様の比較的小さなマットが250ドルから50ドルになるまで飲み続けたが、結局買わなかった。グラナダの宿で預かってもらっているスーツケースの中には、現地で採取した水やら資料でいっぱいだったし、そもそも絨毯など買うつもりもなかった。丸められた絨毯が次々と目の前で広げこちらの反応を伺う商人の顔つきは、振袖用の反物を広げては積み上げてゆく呉服屋の店主の表情とよく似ていた。

モロッコでは私と同じ "Mina" という名の女性が多いらしい。タンジェを出港する際教えてもらった。「本当はモロッコ人なんじゃないか?」と真顔で言われたが、遠い昔に居た気がしないでもない。

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