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きみいろ

 今日のマイコはピンクのジャンパースカートに、パフスリーブのブラウスを合わせている。スカートはパニエでふくらんでいて、栗色の姫カットはツインテール。歩くたびにゆれるのが、とてもかわいい。


「リカさんは、お休みなのにそんなカッコしてるの」
 仕事のことを考えると、自然とクローゼットには、オフィスカジュアルに使えるものが増えていく。恋人といっても女同士だし、そんなに飾らなくてもいいかな、と思ってしまって。
「ごめんね、せっかくかわいいカッコしてくれたのに。おばさんだから許してよ」
 お人形のような顔は、まだ納得していないようだ。本当はそんなに身長差がないはずだが、ハイヒールの私は、ストラップシューズを履いた彼女を見下ろすことになる。
「まだ二十四でしょ」

 そうは言っても、現役女子高生のマイコとは八歳差だ。たまたま音楽のファンサイトで知りあって、こうして会うようになった。まさか交際までいくとは、思わなかったが。
「大人っぽくてかっこいいけど、もっとこう、リカさんらしさが出る服とか」
 同僚からはセンスがいいと言われ、最近メイクや私服をSNSに投稿しはじめた私。しかしロリータ全開な彼女と並ぶと、まるで個性のない女になってしまう。


 そんな私たちの隣を、とんでもない厚底靴で闊歩する集団が通りすぎた。日焼けしすぎな肌、錆びたような髪色。横顔からもわかる、主張の激しいつけまつげ。この時代の原宿に、あんなものが存在していたなんて。
「すごい、ギャルだあ。はじめて見た」
 マイコははしゃいでいた。そのまなざしには、少しも軽蔑が映っていない。彼女なら大丈夫だ、と思った。
「私、昔ああだったの」
 ピンクブラウンのアイシャドウを乗せた目が、こちらを向いた。
「ギャルだったの」


 ミニスカート、ルーズソックス。ボリュームたっぷりのつけまつげは重ねづけ。やっと買ってもらえた携帯電話は、ラインストーンとプリクラで埋まってて、実用性皆無。はじめてできた好きな人は委員長タイプで、そんな私に「理解できない」と言い放った。だから封印していた。


「うそ」
 大きく見開かれた瞳が、私を凝視する。しまった、と思うがもう遅い。少し固まっていたが、やがて吹き出した。
「ええ、見てみたいなあ。リカさん目ぇぱっちりしてるし、似合うでしょ」
 マイコの手が、私の手を引っ張る。
「ついてってみようよ、さっきの集団。お店とか見つかるかもよ」
 その足はどんどん早くなる。彼女はぺたんこな靴だからいいけど、ハイヒールの私は転びそうになってしまう。
「そんなあ、ここ原宿でしょ」
「なんでもあるでしょ、原宿だもん」

 結局、あの集団は見つからなかった。マイコは息を切らした私を笑い、私はロリータ服で全力疾走した彼女を笑った。



※こちらは以前ピクシブに投稿したものなのですが、そのうちアカウントを閉鎖したいため、こちらに移動することにしました。

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