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諦めかけていた私に届いた無言のエール

あの日、私の目に飛び込んできたのは、炎天下の中でボールを必死に追いかける息子の姿だった。むせかえりそうな熱気の中、歯を食いしばり、何度も何度も諦めずに、走っていた。



昨年の夏、仕事のストレスで自律神経のバランスを崩した。何もする気力が起こらず、自分はこのままどうなってしまうのだろう。漠然とそんな不安に襲われていた。私のせいで家の中の機能もストップしてしまっていた。仕事も辞め、子どもたちの食事の用意とサッカーへの送迎だけをなんとかこなす日々だった。

そんな体調の中、息子のサッカーの試合があった。はっきり言って、試合を見に行けるような体調ではなかった。車で会場に向かうまでも助手席でうなだれ、このまま倒れてしまうんじゃないか。そんな不安に襲われていた。

会場に到着してからも、気分は優れなかった。暑い日差しがこれでもかと襲いかかってくる。グラウンドは熱気でゆらゆらと揺れ、周りの景色も歪んで見える。座ったベンチも熱く、足元からも熱気が伝わってくる。自律神経には悪過ぎる環境だ。今にも倒れそうなりながら、うなだれた頭をなんとか持ち上げ、試合が行われているグラウンドにゆっくりと目を向けた。

そこに飛び込んできたのは、一生懸命にボールを追いかける息子の姿だった。家で見る息子とは別人だった。家ではわがままばかりの息子が、尋常ではない暑さをもろともせず、歯を食いしばって走っている。人が頑張る姿って、こんなに素敵だったのか。なぜ、こんなに身に染みるんだろう。身体を壊してから眠っていた感情が動き出した瞬間だった。全身に血流が巡り、暑さで遠のきそうだった意識が戻ってきた。今度は目を開いて、しっかりと息子の姿を確認した。涙で霞む目で、一生懸命息子が走る姿を焼き付けた。



身体は壊してしまったけれど、私は充分に頑張ってきた。限界まで走り抜けてきたことは嘘じゃないし無駄じゃない。頑張るって、何かに一生懸命になるって、こんなに尊いことなんだ。息子の姿を見て、そう思った。心が揺さぶられるという体験を何年かぶりにした気がした。

あの試合を見に行かなかったら、もう一度前を向こうと思っていなかったかもしれない。いつでも目を閉じると、同じシーンを思い出す。心に熱い感情が戻ってくる。これから先、何かに諦めそうになったら、何度も何度も思い出すだろう。あの時、ボロボロになっていた私を助けてくれたのは、サッカーボールを追う息子からの無言のエールだった。

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